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ハッピーボトル ~不運な男が世界を救う~  作者: 縞虎
修行とクロの正体
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優輝は意外と大人っぽい


幸助がクロに無言で連れられている頃。病室へと戻っていた優輝、永愛は明日からの修行に向けて体を休めていた


「なんか今こうしてるのって不思議だよね」


ベッドに腰掛けながら時計を見つめる優輝がそんなことを漏らした


「いきなりどうしたのよ?」


優輝の言葉に永愛が反応する。冷房の効いた快適な部屋で静かに時が流れる時間を過ごしていた2人だったが正直暇だった


窓の外ではいつもと変わらない時間が続いている

太陽が照りつける中でスーツに身を包みせっせと働く大人達。夏の暑さなどなんのそのと元気に駆け回る幼い子供。日傘を差して何時間も話に花を咲かせる主婦


平和と言う他なかった


そんな平和の一部になったような自分の今が不思議で仕方ない

目を覚ます前は火薬の匂いに塗れ血を撒き散らしていたはずなのに気づいたらこんな所にいるのだ

敵の攻撃に倒れる永愛の姿、目の前に浮かび上がる無数の空薬莢。長い悪夢でも見ていたんじゃないかという感覚に陥る


だが体に残る痛みと8月20日を示している時計が夢ではなかったことをしっかりと物語っていた


「なんかビックリするくらい平和だなーって思っただけ」


「……そうね。でももっと違う形でこの平和を味わいたかったわ」


永愛はベット脇にある机の上に乗った小包に視線を移す。さっき明日次から手渡されたもので鳳南の人々が作ってくれた3人の新しい洋服と感謝の手紙が入っている


だがクロに言われた一言が永愛の胸には強く残っていた


『その感謝の言葉、手紙なんかじゃなくて直接聞きたかったよね』


もしあの戦いで自分達が危なげなく勝利を収めることが出来ていたら今頃どうなっていただろう。鳳南の人々は泣いて喜んだだろうか。こちらの手を力強く掴んで感謝の言葉を述べてくれただろうか


そんな人達の笑顔に見送られて鳳南を出発出来ていたらどれほど幸せだっただろうか


あの戦いによって彼らを助けることが出来たのは事実。しかし同時に心配させたことも事実


考えれば考えるほどクロの言葉は胸を痛めつけるし後悔は尽きない


「私がもっと強ければ……あんな奴ら相手にならないくらいに……」


「だからさ、もっと強くなろうよ。もう二度と悔しい思いをしないように」


そう言って励ます優輝の声はとても落ち着いていて優しかった


「あんたはなんかスッキリした顔してるわね。もっと落ち込んでるもんだと思ってたわ」


「落ち込んでるよ。でも写真見たでしょ?僕達なんかよりずっと大変なはずなのに皆笑顔でさ。それを見たらいつまでも落ち込んでられないなって思ったんだ」


優輝の言う通り手紙に同封されていた写真には笑顔の人々が写っていた。彼らは住んでいる場所を破壊され沢山の仲間を失った

力を持った者共の身勝手な理由で彼らの日常は壊されたのだ


それでも前を向いて進もうと頑張っている

それなのに自分がいつまでも落ち込んでいるわけにはいかなかった


「優輝の言う通りね。私達が笑顔で元気を貰った分、今度は私達が笑顔で元気にしなきゃね」


「そうだよ!だから頑張ろう!」


永愛の顔にも少しだけ笑顔が戻った。落ち込んだ時に励ましてくれる仲間がいるのは嬉しいことだがまさか年下の優輝にそれをされてしまうとは

自分のことだけで精一杯だったのがちょっぴり恥ずかしくなる永愛だった


「……何ニヤニヤしてるのさ?」


「別にー?さすが英雄志望は言うことが違うなーって思ってただけよ」


「なっ!なんでそれを知ってるの……?」


「あんた戦ってる時大声で言ってたじゃない」


優輝が英雄になりたいのは別に隠していることではない。ただその時の言葉をまさか聞かれていたなんて思わなかったのでその時のテンションを思い出してしまうと途端に恥ずかしくなってきた


両手で顔を覆う優輝だったが終いには掛け布団を広げくるまってしまうと蛹のように動かなくなった

しかし永愛は見逃さなかった

あまりの恥ずかしさに顔中真っ赤にした優輝の姿を


「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに……心配しなくてもあんたは立派な英雄になれるわよ」


永愛がそう言ってから5秒程経つと蛹が少し動いた。小さな隙間を作りそこから顔を覗かせた優輝は永愛の顔をジッと見つめてまた5秒


「本当に?」


「本当よ。私は優輝の言葉に励まされたんだから。そういうことが出来るのも英雄の務めでしょ?」


「……そっか。そうだよね!よしっ!頑張るぞー!」


「全く……単純ねー」


両腕を高く上げすっかり調子を取り戻した優輝を見て永愛は呆れながらも微笑む。なんだかんだいってまだ子供らしい一面があったことに永愛はホッと一安心した


「おーい幸助ー………ってここにもいねーのか」


幸助の名前を呼びながら明日次が部屋に入ってきた。しかし目標がいないことを知るとため息をついて肩を落とす


「明日次さんどうしたの?」


「いやー幸助とクロの姿がないから探してたんだけどここでもなかったか……」


どうやら幸助とクロを探しているようだ。優輝と永愛は先に病室に戻って来てしまった為2人がいなかったことに気づかなかった


「何か用事でもあるの?」


「いや、そういう訳じゃないんだ。ただいなかったから心配になってな」


「どうせどっかで遊んでるんじゃないの?そのうち帰ってくるわよ」


2人揃っていないということは何か事件に巻き込まれたということでもないだろう

永愛の言葉にそれもそうだと笑う優輝と明日次もさほど気に止めなかった


「まぁ居ないんならしょうがない。着替えろ!行くぞ!」


幸助とクロのことを諦めた明日次は唐突に病室の入口を親指で指した。いきなりでなんのことか分からない優輝と永愛は頭上に「?」を浮かべる


「行くって……どこに?」


予想通りの反応に対して明日次はニヤリと笑う


「買い物と飯だよ。明日から修行始めんだから美味いもん食って調子上げようぜ。そんじゃ下で待ってるからなー」


有無を言わさず急かすことだけして明日次は病室から出ていってしまった。残された2人に断るという選択肢など与えられないしそもそも暇だったのでそんなつもりもない

優輝はいそいそと着替え始めた


「……あんた、随分とボロボロね」


「洋服のこと?着替えとか持って来なかったから結構みっともないことになっちゃってるよね。あ、でもちゃんと洗濯はしてるよ?」


確かに優輝の洋服はボロボロだ。勇泉の村を出発してからは戦いの日々で何度も地面に擦り、汚れに塗れ、遂に銃弾で穴まで開いてしまった

しかし永愛の言いたいこととは若干ズレている


「服もそうだけど、体のことよ。15歳の体じゃないわよそれ」


洋服がダメージを受けているようにその下にある体も当然生々しい傷が残っている

今までは擦り傷や切り傷が主だったが新たに出来た銃弾の跡は15歳の若さで負うには早すぎたしそもそも普通に生きていく中で出来るはずのない傷だった


「あー、それね。でもこんなの幸助に比べたらまだまだだよ。僕ももっと頑張らなきゃ」


旅を共にする中で優輝は幸助の体を何度も見ている。着替えの時や一緒に温泉に浸かった時、見る度に幸助の体には新しい傷が増えていく

擦り傷、切り傷は当たり前のように見るに耐えないと言いたくなるような骨折の跡もある


それを見る度に優輝は自分は大したことないと感じることもあった


しかし優輝のセリフに永愛は少し引っかかるところがある


「あんたねー……傷は男の勲章とか英雄の証とか思ってるんじゃないでしょうねぇ」


「え?……いやーそんなことないけどねー……」


ジロリと睨む永愛の目を見返すことが出来ずしどろもどろになりながら優輝は言葉を返した

優輝の憧れる英雄であるリュウゴロシノフメツは傷だらけになりながらも村と仲間を守り龍を倒したという伝説を遺している


その姿を追いかける優輝も旅を続ける内にいつしか傷が強さや英雄の証だと思うようになったのだろう


「目泳ぎすぎよ。あのね、本当に英雄を目指すなら何よりもまずあんたが元気じゃないといけないの」


「でもリュウゴロシノフメツは傷だらけになっても村と仲間を守ってーーー」


「憧れるのは結構。目標にするのも結構。でも必ず同じじゃないといけないなんてことはないのよ。沢山のものを守りたいって思うなら何も傷つけずに守りなさい。周りも、あんたも」


「どんな奴を目の前にしたって無傷で全てを守る英雄。それだってカッコイイでしょ?」


永愛の言葉で優輝の中の凝り固まった英雄像が少しずつ崩れ始めた。決して同じ道を辿る必要なんてない。不動優輝は不動優輝であってリュウゴロシノフメツではない

凝りが取れてそこに出来上がったのは新しい英雄像


強くて、優しくて、みんなから慕われる

周りだけじゃなく自分も守ってしまうカッコイイ英雄になるのだ


「そうだね。そうなれるように頑張るよ!これ以上傷つかないように永愛のことも守ってあげる!傷が多かったら王子様だって相手にしてくれないもんね!」


デリカシーがあるのかないのか心に大きく突き刺さる言葉を言ってくれる。しかし無邪気な顔でそんなことを言うあたり悪気は一切無いのだろう


それに永愛は優輝の言葉が嬉しかった


「ありがとね。でもそういうのは私じゃなくて好きな女の子に言ってあげなさい」


優輝に好きな人がいるなんて永愛は知らない。ふと口をつついてでた言葉だったのだがまたしても優輝の顔が真っ赤になった


「なになに?もしかして心当たりがあんの?いるなら教えなさいよ〜?」


「い、いないよ!先に行ってるからね!」


目の色を変えてグイグイと迫ってくる永愛を躱すように駆け足で優輝は部屋から出ていってしまった

口ではそう言ってもあれだけわかりやすい反応を見せられるとバレバレだ


今後の優輝の動きが楽しみになる永愛だった


「さて、私も着替えなきゃ。2人とも待ってるだろうし」




「あれ?明日次さんいないや。下で待ってるって言ってたから待合室か入口にいると思ってたんだけど……」


病院の入口に来た優輝だがとっくに来てるはずの明日次の姿がない。動き回って入れ違いになるのも良くないのでそのまま待つことにした




「ったく、着替えるだけでどんだけ時間かかってんだよ」


待てども姿を見せない優輝と永愛に苛立ちを覚えた明日次は迎えに行こうと病室へ向かっていた

明日次が階段を登っている時、優輝は別の階段から下っていた


つまり入れ違い


「おーい、どんだけ待たせんだよ。日が暮れちまうぞーーー」


無造作に開けた扉の先に優輝の姿は無かった。その代わりにいたのは今まさに着替えを始めようとシャツに手を掛けた永愛の姿


「あ」

「え?」


見えたのは華奢ながらしっかり引き締まった雪のように白いお腹

落ち着いて状況を読み解く。永愛が着替えようとしていたところにたまたま遭遇してしまったわけだ

だがギリギリセーフ。お腹だけならノーカンだろう


「あっぶねー。もう少しタイミングズレてたら大惨事だったぜ」


「とっくに大惨事よ!!」


額の汗を拭う明日次の顔に枕が飛んできた。顔に張り付いた枕は数秒そこで動きを止めやがて床に落下した


「乙女のいる部屋の戸を無断で開けるとはとんだ変態野郎ね。あんたはもっと女の扱いってのを優輝に聞いておきなさい!」


「す、すいませんでした……」




「なぁ優輝。女の扱いってどうすれば上手くなるんだ?」


「……明日次さん、一体どうしたの?」


自分の半分の年齢の少年に女性の扱いを享受してもらう明日次だったが良い答えは得られなかった



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