鳳南の町 決着
「音が止みましたね……」
「ええ。戦いが終ったんでしょうか……」
町長の家の地下室。この町に毎日現れる悪党を退治すると出ていった3人の若者を見送った町長と運昇は地上から聞こえる戦闘の音を聞きながらただ無事を祈っていた
時間にすればそう長くはなかったが体の内側から溢れる不安によって戦闘が何時間にも及んでいると錯覚する程だった
そして暫くすると音は止み彼らが出ていく前と同様の静けさに包まれた地下室内で外に出て結果を確認したい気持ちを抑えながら彼らの無事と帰りを待った
すると外へ続く通路から誰かの足音と不規則な吐息が聞こえてきた
あの入口は部外者には絶対にバレない自信がある。入ってくる者がいるとするならばそれは仲間以外有り得ない
そう思っているがだんだんと近付いてくる足音と吐息がもし敵だったとしたらーーーと考えると緊張で心臓の鼓動が速くなる
「ハァ…ハァ……終わったぜ。全員ぶっ飛ばしてやったよ……」
音の正体は幸助だった。両腕に意識を失った優輝と永愛を抱え辛くも勝利を収めたと言いたげに無理矢理笑顔をつくって見せた
その報告を聞いて顔の曇りが晴れた町長と運昇だったが抱えられた2人から滴り落ちる鮮血を見ると驚愕した
「だ、大丈夫か!?」
「血を流してるじゃないか!」
「俺の怪我は大したことないです……ただコイツらが危ない……早く病院に……」
そう言い残すと幸助も意識を失い床に倒れ込んでしまった。大慌てで町民を呼び出し止血だけでもと応急処置を行う
病院などと言われてもこの町にはもちろんそんなものはない。どこか近くの病院と言っても怪我人を3人も抱えて行ける範囲にはない
完全に万事休すではあるが目の前の命をそう軽々と諦めていいはずがない。ましてや彼らは町を救ってくれた恩人なのだ
「近くに使える車がないか探してきます!」
町長は外へ駆け出して行った
残された運昇と町民も必死に3人の手当に当たる
幸助は擦り傷などが目立つが幸い軽傷。優輝も銃弾を受けているが包帯などで傷口を覆うと不思議と血は止まった
問題は永愛である。彼女は1番ダメージが大きくいくら頑張っても血が止まる気配がないのだ
一刻も早く病院にーーー運昇は町長の迅速な帰りを願った
「クソッ!やっぱり車なんて残っていないのか!」
町内を奔走する町長だがやはり車なんて都合よく見つかる筈がなかった
だが代わりに人影が見つかった
「マズイ!まだ奴らの仲間がいたのか!」
どこか身を隠せる場所はないかと周辺を見回している内にそれはこちらに気づいてしまったのだ
するとその人は躊躇なくこちらに向かって走って来る。終わったーーーと死を覚悟した町長だったが
「良かった!まだ生存者がいたのか!」
安堵した表情で近付いて来たのは30歳くらいの男だった。こんな危険な地域に足を踏み入れるというのに酷くラフな格好に身を包んでいる
呆然とする町長の顔を見て何かに気づいた男は懐からある物を取り出した
「申し遅れてすみません。こういう者です」
差し出されたものを見るなり町長の顔も安堵の表情に変わっていった。それは敵ではなくこちらの味方である証明するものだった
「た、助かりました。……それより怪我人がいるんです!早く病院に連れて行かないと……」
その言葉を聞いて男も険しい表情に変わった
「わかりました。案内してください」
そして2人は帰りを待っている皆の元へと走り出した
「こりゃあ凄い……怪我人は彼らですか?」
町長の自宅まで帰ってきた男は倒れている夥しい数の人の数に目を疑った
現場は戦闘が終わってそのままの状態だった。兵隊達は倒れ首から血を流した男も皆そのままの状態で残されている
「それはこの町を襲った悪い奴らです。怪我人は中にいますので早く!」
急かされるまま床から突然出現した地下への扉に驚きつつも男は地下へと降っていく。そこで見たものに驚きながらも喜びを隠せなかった
「まさかこんな形で再開するとはな。あの時は一応助けられたし今度は俺が助ける番ってことか」
男は町長にある物を要求するとそれはすぐに部屋の奥から出てきた。それを受け取って移動を開始する前に町長に話をする
「近々私の部下をこの町に寄越します。それまでは誰も外に出さないでください。あの光景は普通の人が見るには刺激が強すぎるので」
町長がコクリと頷くと魔法でも使ったかのように男と怪我人3人は跡形も無くその場から消えてしまった
「いい結果ではなかったですがこれで全てが終わりましたね」
「いいや、これからですよ」
ハッピーエンドとはいかなかったが町が救われたのは確かなこと。問いかける運昇だが町長はそれだけで終わるつもりは微塵もなかった
「また一から町を造り上げていきます。いつか彼らがこの鳳南に来た時に胸を張れるように洋服が有名な町として皆と頑張っていきますよ」
新たな決意を掲げ鳳南の復活を目指す町長。たとえ命の恩人が二度と訪れることがなくても彼らの耳に噂が届くように、あなた達の救った小さな命はまた花を咲かせましたと言えるようにと誓いを立てた
「さて、まずは何が出来るだろうか」
「町長。こんなのはどうでしょうか?」
奥から出てきたのはフミの母親だった。思いついたアイデアを町長に話す
「それはいいですね。ここを倉庫代わりにしていたこともあって幸い道具は揃っている。早速取り掛かりましょう」
鳳南の民はまた一から歩き出すために第一歩を踏み出した
「あーあーあー。1人で残ってると暇なだなぁ〜っと。兵隊共の報告が待ち遠しいぜ」
廃倉庫にて兵隊の帰りを待つボスは暇を持て余し何も無い虚空に向かって大きな独り言を言っていた
元々いた部下に加え他所からまた仲間を呼んだ。合計130人となった軍勢で鳳南に攻め込んだとなればさぞ満足のいく結果が聞けることだろうと彼らの帰りを心待ちにしている
そこに一足先に1人の男が現れた
「てめぇか。鳳南を見てきたのか?」
「暇そうでございますね。なかなか面白いものが見れたでございますよ」
「そりゃあいい。どれだけの死体が集まったんだ?」
上機嫌でボスが尋ねる
「死体は2つでございますね」
「んだよ。全然足りねぇな。それとも2人しか生き残ってなかったのか?」
期待しただけに思ったより成果が良くないことに顔をしかめるボス
しかし相手から返って来たのは予想もしてなかった答えだった
「勘違いしているようでございますが死体というのは水を使う彼と弾丸を操る彼のことでございますよ」
「……んなわけねぇだろ。あいつらが兵隊をうっかり殺すなら分かるが殺される訳がねー」
「いいえ。事実でございます。弾丸を操る彼は私が見に行った時には既に死んでいたでございますが水を使う彼はしっかり目の前で殺されていったでございますよ?」
「あまりふざけてっと殺すぞ」
ボスは武器を向けるが相手が動じる様子はない。それどころかまた淡々と語り出した
「そう思うなら鳳南まで見に行けばいいでございましょう。まぁそろそろ星降守護部隊によって全員回収される頃でございましょうが」
「……クソッタレ!!」
信じたくはないが鳳南まで行って星降守護部隊と1戦交えることになっては面倒だ。どうしようもない怒りでボスは足元のゴミ箱を蹴り飛ばす
「……じゃあ殺ったのは星降守護部隊の奴らってことか?」
「違うでございますね。先日巨人使いを倒したという彼でございます」
「あいつらはまた俺様の邪魔をしてくれたってことか。こりゃあ盛大に礼をしてやんねぇとな」
「それはそれは。また面白いものが見られそうで非常に楽しみでございますね。時期が合えば私も見物させてもらうでございます」
「てめぇはまたフラフラとどっか行くのか?」
「そうするでございます。猫は自由気ままに行きたいところでやりたいことをするでございますよ」
「そーかよ。そんじゃあ次にあった時はてめぇに最高のショーを見せてやるよ」
「期待してるでございますよ。それでは」
相手はボスの目の前から去っていった。昨日までは賑やかだった廃倉庫内が腹立つ程静かである
ボス1人だけが使うにはここは広すぎた
「適当な奴を集めたとこで無意味ってことか。それなら次は強え兵隊を揃えりゃいいだけの話。あのジジイが言ってた子供たちってのから更にいい奴を探してみるとすっか」
沢山の仲間を失いまた1人となったボスは拠点にしていた廃倉庫を後にしてどこかへと消えていく
復讐を胸に彼もまた1から歩き始めた




