体を張って誤解を解く
何の変哲もないただの黒猫だと思っていた猫が光に姿を変えて人間と合体した
その様子を黙って見ていた男はまだ何か武器を隠し持っていたのかと歓喜した
しかし現れたのは先程となんら変わらぬ敵の少年で期待を裏切られた男は落胆する
「何も変わってないように見えるがそれで俺を倒せるとでも思っているのか?」
「何も変わってねぇって思うならその時点でテメェの負けだ」
相変わらず威勢だけはいいようで、だがそれは強がりのように男の目に映った
さっきもそんな強がりばかりを吐いて結局瓦礫の巨人を倒すことなど出来なかったのだから
「期待外れ、だな」
ため息をついて男は巨人を動かす。頭上を超えて勢いよく飛び出した巨人は標的との距離を一瞬で詰めた
(足の間を抜けたところでそこは巨人の範囲内だ。同じ方法など通用しないぞ?)
男がそう思っている間にも巨人は幸助に拳を振り下ろそうとしていた
「安心しろよ。死なねぇ程度には手加減してやるから」
拳が振り下ろされた。轟音と砂煙が辺り一面に広がり地面が揺れる
拳を退けたがそこに幸助が潰されているような形跡は無かった
「隠れたか。見えない所からの奇襲とは考えたようだがそれでも俺に届くことはない」
「隠れるとかそんなまどろっこしいことしねぇよ」
ここで男は心臓が弾けるかのような緊張に襲われる。声が聞こえたのは自分の背中ーーーつまり真後ろだったからだ
「いつの間に……っ!来いッ巨人よ!」
男は慌てて飛び退き巨人と位置を入れ替わる。今度は挟み込むように巨人が両手を叩き合わせた
幸助は上にジャンプすることでそれを軽々と躱す
「バカめ!空中では身動きが取れないだろう!」
宙に浮かぶ幸助の体を叩き落とそうと腕を持ち上げる巨人。あとはこの手を振り下ろせばそれで終わる
巨人とシンクロするように男も腕を振り下ろす真似をした
「終わりだァァァァァ!」
『ぶっつけ本番だけど出来るのかい?』
幸助の頭の中にクロは語りかける
「問題ねぇよ。俺は強くなったからな」
自信を持って幸助は答える
『もし出来なかったらどうする?』
幸助のやる気に水を差すような言い方をするクロ。これもいつもやっているお得意の売り言葉なのだ
しかし幸助はそれを買うようなことはしない
「出来る」
たったの一言だがクロが幸助を信用する為の言葉としては充分過ぎた
元よりクロも出来ないなどと思っていないのだ
ただ普通に歩く時と同じ感覚だ
何も疑うことはせずただ1歩踏み出せばいい
そうすれば体は自然と前に進むのだ
「なっ!何ィィ~~~!?空中で方向転換だとぉっ!?」
始まりは2人が出会った時のこと
死の淵に立たされた幸助はクロと初の合体を行い空中を蹴り続けることで空を飛んだ
そしてまたとある時。カラスを追って空を飛ぼうとした時があったが飛ぶことは出来なかった
理由は追い詰められたことによって火事場の馬鹿力が働いていたか否かの違いである
それ以降、無意識に避けていたのか空を飛ぼうとすることはなかった
しかし幾多の戦いを経験して確実に成長した幸助。決め手は上輪旗で2日だけ行った町長による扱きである
力や体力には自信があった幸助でさえヘトヘトになる程の練習量だったのだ
それは当然本人の身体能力の向上にも繋がった
そして今、幸助はその力をものにしたのだ
「完膚なきまでに叩きのめしてやらぁ!」
降りかかる巨人の腕の下を潜り狙うのは両足。勢いを拳に乗せて放った一撃はいとも簡単に巨人の右足を粉々に砕く
巨人が反応するよりも速く左足にもう一撃
腕を壊す為に飛び上がった幸助に対し体制を崩しながらも巨人は拳を放つが空中で1歩踏み込むことによりそれをヒラリと躱す
そして空を切った腕に一撃。残った腕1本にも一撃。達磨のようになった巨人は地面に崩れ落ちた
「くっ!何度壊そうが無意味!コイツは何度だって再生するのだからな!」
男が紫に光る掌で無数の瓦礫を触ると夥しい数の瓦礫が巨人を直そうと宙に浮かび一斉に動き出す
「させねぇよ」
浮かび上がる瓦礫よりも高く飛び下方に漂う瓦礫に拳を一突き。凄まじい拳圧はそれら全てを巻き込み砂利になるまで細かく砕いた
先程までの余裕から一転。男は口を大きく開け目の前の出来事を受け入れることが出来なかった
その眼前まで幸助は降り立つ
「わ、悪かった!命だけは!命だけは取らないでくれ!な?謝るから!な!?」
腰が引けながら男は情けない声を上げて命乞いをする。しかし情けを掛けてやろうなどこの場にいる全員が思っている筈がなかった
「言っただろ?命乞いしたって許さねぇって。ただ命が助かるかどうかはーーー」
当然、命乞いは却下だった。幸助は後方に大きく飛び身動きが取れなくなった巨人の頭を掴むと軽々持ち上げる
「お前の体に聞いてみるんだな」
そして男目掛けて投げつけた。巨人の体は男にぶつかりそのまま後方の瓦礫の山を全て砕きながら地平線の彼方へと消えて行った
「やべぇよ…やべぇよ…」
「おい、今の内に逃げようぜ」
影からコッソリ見ていた銃器持ちの男2人は巨人が倒されたのを見てそそくさと逃げようとした
「待てよ」
合体を解き、クロを肩に乗せた幸助はその前に立ち塞がる。男達は驚いて尻餅をついた
「逃げるのは構わねぇけど銃は置いていけ」
言われるがまま銃器を全て放り投げて幸助の横を足早に逃げていく
だが幸助は片方の男の肩を掴んだ
「テメェはダメだ」
掴んだのは最初に銃を撃った男。恐る恐る振り返る男の顔に飛んできたのは幸助の容赦ない拳だった
巨人使いの男と同様に地平線の彼方へと消えて行った男を見てもう1人は悲鳴を上げて逃げていった
「信じられない……少年が巨人と戦って勝つなんて……」
町長は目の前で起きた出来事が夢じゃないのかとほっぺたを強くつねる。頬に走る痛みを身をもって体感し夢じゃないのだと実感すると雄叫びのような歓声を上げた
「助かった!私達は助かったんだ!」
喜ぶ町長の元に戦いを終えた幸助が戻ってくる。優輝と永愛はホッとした様子で武器を仕舞い幸助へと駆け寄った
「心配させんじゃないわよ全く……」
「僕はなんの心配もしてなかったけどね」
「本当は1人でやるつもりだったんだけどな。結局クロに頼っちまった」
「細かいことは後にしてさ。次にすべきことをしようじゃないか」
少々納得いかないという顔をしていた幸助だったが敵を撃退したことに変わりはない
それよりも今やるべきことは町長に話を聞くことなのだ
こちらを警戒し、話を聞かせてくれない町長を説得できるかどうかーーー
そんなことはもうするまでもなかった
「疑って済まなかった。君達は命の恩人だ」
町長が頭を下げると続いて町民も全員頭を下げる。漸く疑いが晴れた一行はここでは危険だと言われ町長に案内されるがまま町の中へと歩きはじめた
案内されたのはとある家屋。しかし巨人に破壊された後なのか屋根はもちろん壁も無く無残に露出した床や家具が事件の凄惨さを物語っている
しかし注目すべきはそこではない。床の一部で立ち止まった町長はその場に屈んでタイルを1枚横にスライドした
そこから現れたのは地下へと続く階段
「ここは私の家でした。地下に空間を作り緊急時には避難場所として用意していたのですが出来ることなら使われることなどあってほしくなかった……」
「しかしこれが無ければ救えなかった命だってあるでしょう……。そう自分を責めないでください」
顔を下げ落ち込む町長に運昇は優しく声を掛ける。町民からも励まされ顔を上げた町長を先頭にして一行は階段を下った
そして辿り着いた先は大きな地下空間。食料や布団などが並べられ20人程の人間が生活しているようだった
「町長!よくぞご無事で!」
「後ろの人達は誰ですか?」
町長の姿を見るなり町民が集まってくる。町長は彼らに謝罪の意を込めて深く頭を下げた
「遅くなったね。物資を運んで来てくれた彼らに危ないところを助けてもらったんだ」
町長から紹介を受けた幸助達は軽く頭を下げる。長を助けたということで町民から賞賛の言葉が送られた
「おかげで食料が手に入り彼らにも少し笑顔が戻りました。ありがとうございます」
「いえいえ、それが僕達の仕事ですから」
運昇のカバンを開いて食料を手にした町民からは笑顔がこぼれる。その姿を見て町長はとても嬉しそうだった
「水を差すようで悪いんですけど話、聞かせてもらっていいですか」
幸助に問われ笑顔が真剣な顔に変わった町長に導かれた一行は部屋の隅に場所を変えるとその場に輪になって腰を下ろしポツリポツリと語りはじめた
「あれは……1週間程前のことでした……」
ーーーーー
その日は今日と違ってよく晴れた日で、私は家の中で書類整理を行っていた
仕事もひと段落ついて気分転換にコーヒーでも飲もうかと台所に行った時だった
突然、唸るような地響きと爆発音に何事かと思った私は慌てて外に飛び出した
町の入口の方から聞こえたその音と次第に聞こえ始めた悲鳴に不安を覚えた私は走り出した
土煙が舞うなかで私の目に映ったのは今まで見たことも無い生物ーーー
あの瓦礫の巨人だったのだ
その付近には銃器を構えた数十人の男がいて周囲に構う様子など一切なく発砲を続けていた
泣き叫ぶ皆の姿と笑い叫ぶ奴らの姿で現場は混沌とした空気に満ち溢れ私はただ呆然と立ち尽くすしかなかった
奴らは歩みを止めることなく町の奥へと侵入すると飽きること無く破壊を続けやがてこの町は壊滅した
辛うじて生き残った皆を私の地下室に避難させ地獄のような時が過ぎるのを身を寄せ、震わせ、待った
やがて音は止み奴らの気配が無くなった後、地上に出た私を待っていたのは非情過ぎた現実
ついさっきまで元気に仕事をして、遊んで、楽しく暮らしていた皆の変わり果てた姿
現実を受け止めることが出来ず気分が悪くなった私は全てを吐き出した
その後、生き残った男達は死体を集め、埋めた。女達はまだ使える食材などはないか探した
皆、辛かったがまだ命があることに感謝し、亡くなった彼らの分も前を向いて生きて行こう。そう思った
しかし地獄はそこで終わりではなかったのだ
ある時、溜まったゴミを捨ててくると外に出た1人の男を死体で発見した
なかなか帰って来ないことに心配した私は外に出てその男を探したのだが見つけた時には胸から血を流し冷たくなっていた
奴らは破壊だけでは飽き足らずそれから毎日、今も残っているであろう生存者の抹殺も始めたのだ
それから私達は外に出るのも命懸け
そんなときだった
フミちゃんが勝手に外に出て、そして君達と出会ったんだ
ーーーーー
「これがこの町に起きた全てです」
震えながら語る町長の想像の遥か上をいく残酷な話に一行は口を抑え顔は真っ青になっている
「さぞ辛かったでしょう。しかし安心してください。もう少し待って頂ければ星降守護部隊が訪れあなた達を救ってくれることでしょう。それまでの食料は私が命を懸けてお届けします」
励ます運昇の言葉に町長も落ち着きを取り戻す。しかし幸助には腑に落ちない点がひとつだけあった
「もう少しって……それはいつまで待てばいいんだよ」
「そこまでは分からないけど……いつかは来てくれるはずだ。だから彼らの無事は僕が保証するよ」
いつかーーーなどと不確定な予測だけでは納得がいかない
彼らは今苦しんでいる。平穏を願っている
ならば幸助のなかで導かれる答えは1つだった
「明日だ」
「どうしたの?幸助」
「毎日ってことは明日も来んだろ?なら明日、全部片づけてやる」
立ち上がった幸助は周囲の視線を集めた。頼もしき提案に町長は快く了承ーーーという訳にはいかない
「気持ちはありがたいが無理に決まっている。あの巨人を倒したとはいえ相手とは数が違うんだ。それを君1人でなんてーーー」
事件を間近で見た町長だから分かること。相手はこちらの何倍もの兵力を誇るのだ
追い詰められた現状で藁にもすがる思いではあるのだが町長として無関係の人間を巻き込むような真似など許すことは出来ない
しかし1人という言葉に反応し黙っていられない者がいた
「あら?誰が1人ですって?」
「僕だってやるよ!」
優輝と永愛である。さっきは幸助に言われたから黙って戦いを見ていたが守る対象が居なければ話は別である
彼らも立派な戦力だ
「だが、しかし……君達を危険な目に晒すわけにはーーー」
頼もしい面々を前に助けて欲しいという心と巻き込む訳にはいかないという心が鬩ぎ合う
なかなか踏ん切りがつかない姿を見かねて幸助が言い放った
「あなたにとって心配すべきなのは俺達じゃなくてあの人達のはずです」
この言葉に町長は目を覚ます。幸助に言われ視線を移すとそこには精一杯今を生きる町民の姿があった
ここでの生活が始まって以来、彼らは笑うことが減った
一刻も早くこの町を元に戻し前のように笑顔で過ごせる鳳南を取り戻したい
「お願いします……私達を助けてください……」
もう悩むことなどない。差し伸べられた救いの手に町長は素直に手を伸ばした
「心配されるより頼まれた方がよっぽどやる気が出るってもんだ」
町長、そして町民の思いを受け取った幸助は笑顔で答える。明日、この町を襲う悲劇を全て吹き飛ばしてやるんだと意気込む
「でもさぁ?敵は沢山の数がいるんでしょ?そいつらが纏めて来ることなんてあるのかな?」
疑問に思う優輝の言葉にその疑問待ってましたと言わんばかりの幸助は人さし指を1本立ててみせた
「だから1人逃がしたんだよ」
「どういうことよ?」
「仲間がやられたってなったら大軍を率いて仕返しに来る。アイツらはそういうタイプだ」
過去の経験を元に確信を持って答えた幸助。なるほど、と納得した優輝と永愛は口を揃えて言った
「「じゃあ明日そいつらを倒しちゃえばーーー」」
「あぁ!ハッピーエンドだ!」
どんな敵が来ようと負けない。そう誓った一行は来たる時を待ち休息に入った
「………で、無様に逃げ帰って来た訳か?武器まで捨てて」
「も、申し訳ございませんボス。しかし奴は人間じゃありません!あの巨人使いがやられたんですよ!?恐らく星降守護部隊かとーーー」
「んなもんさっき聞いただろがぁ!」
鉄骨の上にふてぶてしく座る男は足元の一斗缶を蹴り飛ばした
全体に響き渡る怒号と金属音に男は身を竦める
ここはとある廃倉庫。仲間が倒され命からがら逃げてきた男はボスと呼ばれる男に事の顛末を報告していたところだった
彼らを取り囲むのは総勢80名のガラの悪い男達。失敗した仲間の無様な姿をニヤニヤと眺めている
「もういい。テメェは用済みだ」
「ーーーえ?」
次の瞬間。1発の銃声が鳴り響き男は倒れた
胸から上を失った状態で
血を撒き散らす男だったものの死体を蹴り飛ばしてボスは立ち上がり声を張り上げた
「聞けテメェら!明日そいつらを根絶やしにする。1人でも生かして帰ってきたらどうなるか分かってんだろうなぁ!?」
「かしこまりました!ボス!」
ガラの悪い連中は一斉に頭を下げた。不機嫌そうに座ったボスは先程とは打って変わって静かな声でとある男の名を呼ぶ
「おい、ガルフはいるか?」
「なんでしょうかボス」
ガルフと呼ばれる男が1歩前に出てボスの目の前まで歩いて行く
「明日はテメェがこいつらのボスだ。テメェの力で鳳南を更地にしてやれ」
「かしこまりました」
ガルフは頭を下げ連中の中へと消えて行く。ボスの前では全ての連中が兵隊のような振る舞いを見せる
それはこの男の強さを証明していた
しかしそんなボスに対等に話しかける人物がいる
「1度は死にかけたあなたがまた力と武器を得てこれ程まで大きくなるとは。彼が知ったら喜ぶでございますね」
「……なんだテメェか。仲良しこよしは嫌いじゃなかったのか?」
「たまたま通りかかっただけでございますよ。それよりあなたは行かなくていいのでございますか?仕返しには丁度いい機会じゃないでございますか」
「今はまだその時じゃねぇんだよ。たっぷりと絶望を味わわせてその中で溺れるようにして殺す」
「怖いでございますね。私には到底真似出来ないでございます」
「化物が何言ってやがる。俺にだってテメェの真似なんかゴメンだ」
「お互い様ってやつでございますね」
「要件はそれだけか?終わったらとっととどっか行け。それともうちの兵隊と一緒に行くか?」
「仲良しこよしは嫌いって言ったのはあなたでございましょう。……しかし面白そうでございますね。遠くからゆっくりと眺めるとするでございますよ」
「フンッ。勝手にしろ」
「あの時の彼が強くなったのか見物でございますね。これは楽しくなりそうでございます」




