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不思議な力との初戦闘


疲労鳥の湯を出て数日が経過していた

星降を目指して旅を続ける幸助達はその過程で何度も同じような話を耳にしていた


「しかし魔法のような不思議な力ねぇ~。本当にそんな奴らがいるのかしら?」


「僕が聞いた話だと炎を吐いたり空を飛んだりするらしいよ!」


「空くらい俺だって飛べるわ。なぁクロ?」


「火事場の馬鹿力が働いてる時だけね……」


星降で話題になった不思議な力を操る者共の噂は幸助達の耳にも届いていた

永愛は1度力を目の当たりにしたことがあるが使用した瞬間を見たことがある訳ではない


疲労鳥の湯では信じるしかないと言ったものの未だに半信半疑でいた


「そいつらが何をするつもりなのかは知らねぇが邪魔すんなら纏めてぶっ飛ばしてやるよ」


胸の前で拳を構えまだ見ぬ敵に宣戦布告するかのように幸助が言う

そんな幸助に頼もしさを感じて1人微笑むクロ


現在彼らは途中の町で聞いた鳳南ほうなんという街を目指して歩いていた

どうやらそこでは例の能力を使う者による被害があったらしく人々の幸せを集める身である幸助とクロにとっては見逃せない事態だったからだ


「た、助けてくれぇ~」


そんな時、弱々しい悲鳴を上げながら前方より男が走ってくる。背中にはパンパンに膨れ上がった大きなカバンを背負っていてとても走り辛そうだ


命からがらといった様子で幸助達の元へと辿り着くと足をもつれさせて男が転んだ。そして目の前にいた幸助も巻き込んだ


「いっててて……ど、どうしたんすか?」


転んだ拍子に尻餅をついた幸助は尻を擦りながら男に問いかける

慌てて顔を上げた男は全身砂や土で汚れ、半泣き状態で只事ではないことがひと目でわかる


「た、助けてくれ!よく分かんない技を使う奴に追われてるんだ!」


「よく分かんない技ってなんなのよ……」


分かり辛い男の説明に永愛は呆れながら首を傾げる


「それがマジで分かんないんだよぉ!地面がドーンとか泥団子がビューンとかでもう何がなんだかーーー」


擬音を混ぜた話し方で言っている意味がよく分からない幸助達。全員が頭に『?』を浮かべてなんとか男との意思疎通を図ろうとするがどうも落ち着いて話せる状態ではないようだ


「待ってくれよオッサーン。そんな離れられると力が届かねーじゃねーの」


「ヒィッ!来たぁ!アイツだよ!」


一瞬の間に幸助の後ろに隠れた男は肩をしっかり掴んで離そうとしない

幸助が右に体を傾けると一緒に右に、左に傾けると一緒に左に傾いて完全に一体化していた


そこにヘラヘラと笑いながら現れたのは男ーーーというよりは少年と表した方が適切な、要するに若い男が立っていて年齢は幸助とそんなに変わらないであろう


「なんだなんだ?大人の癖にそんな奴らに助け求めちゃって情けねー。とっととそのカバンの中身寄越しな!」


少年が地面を一踏みすると男の言っていた通り幸助の足元から地面が盛り上がった


と言っても盛り上がったのは僅か30センチ程で幸助にとっては少し景色が良くなったくらいである

しかし男はその様子に怯え、震え、その振動が幸助にも伝わってくる


あまりの大したことのなさに白ける一行だったが少年は己の力の強さを見せつけてやったと高笑いしている


とりあえず鬱陶しいバイブレーション男を無理矢理引き剥がして少し盛り上がった段差から落とすと「ヒャン!」と情けない声を出した


「噂の不思議な力ってやつだな。期待外れだけどぶっ飛ばすか」


「強がるのは止せよ?それなら次はこうだ!」


地面からゴルフボール程の大きさの土の塊が浮かび上がってくる

少年が幸助を勢い良く指差すと同時に土の塊も幸助目掛けて飛んで行った


時速15キロ位の速さで


土の塊は幸助の右胸に当たると粉々に砕けて地面に落ちた

幸助が右胸に付いた土を払うと再び場が白ける


無表情でこちらを見つめる4人を見て少年はやりきった感を見せて一息つく


「……しょうがねー。今日はここまでにしてやろう。薬が馴染んだらまた相手してやーーー」


「やかましい!」


「ぐふぅ!!」


幸助の強烈な一撃を腹に貰った少年は気絶してその場に倒れ込んだ


「この人どうしよっか?」


「ほっときなさい。これ以上相手にするだけ無駄よ」


「なんかメチャクチャ呆気なかったな。もしかして不思議な力を使う奴らってみんなこんななのか?」


何も無かったかのように一行は旅を再開した




「……で、なんで付いて来てんすか?」


「またあんな恐ろしい奴に襲われたらたまったもんじゃないからね!君たちの傍ならもう怖いものなしだ!」


何故か男が付いてきている。堂々と歩きながらも幸助、優輝、永愛の3人の間をしっかりとキープしている様はまさに虎の威を借る狐と呼ぶに相応しかった


「名乗るのが遅れたね。僕は搬田はんだ 運昇うんしょう。困ってる人々に物資を届ける仕事をしているんだ。今もその途中だったんだけどさっきのアイツに襲われてね。いやホントに助かったよ、」


さも当然のように旅に同行し聞いてないことまで話し出す搬田運昇と名乗る男


そんな危険な仕事をしているのにあれほどまでにビビりで大丈夫なのかと問いたい一行だったが話が長くなりそうだったので聞く気にもならなかった


「まずはお礼をしよう。ほら!」


そう言って手渡してきたのはおにぎりが3つ。彼が握ったのかは不明だが手作りであることは明らかだ


一切の謙遜なく別に大したことはしてないと思う一行だったがくれるのならとそれを貰うことにした


「そっちの猫にはこれをあげよう。物資だけど命の恩人……いや、恩猫か、には間違いないからね。あっ、そっちのおにぎりは僕のお弁当だから気にしないでね」


とにかく口が回る運昇。先程のビビっていた時とはえらい違いだ

そしてクロに渡されたのは動物用の乾燥フード


クロは猫だが人間用の食事だろうと問題なく食すことを3人は知っている

当たり前だが猫扱いされてることに思わず吹き出した3人


クロは目の前に無造作に置かれた乾燥フードを何も言わず見つめている


「ブフッ!……クロ、良かったじゃねぇか……俺が猫だったら堪らず食いつくぜ……ククッ」


「こっ、幸助……止めてあげなって……確かに美味しそうだけど……フッ!」


「アンタ変なモン吐くんだからそれ食べて胃の調子整えなさいよ……グフッ!」


「じゃあ君らが食べるといいよ」


運昇に聞こえぬように呟くと目にも留まらぬ速さで乾燥フードを掴み3人の口に投げ入れた


「ッ!オエッ!」

「ナンダコレ!?マズッ!」

「ちょっ!何すんのよ……ってマズッ!オエエ……」


突如口の中に入ったものを反射的に噛み砕いてしまう3人

スナック程柔らかくなく煎餅程固くはない。例えるのが難しい食感と口の中に広がる肉と魚と野菜ととにかく沢山の食材を適当に混ぜ込んだような驚異的なマズさ


食材の良さが互いに喧嘩して打ち消したようなマズさ


3人は堪らず吐き出し、それでも口の中に残る不快感に体を震わせている


「おいおい、動物用のご飯なんだから君達が食べたって美味しくないに決まってるだろ?」


「黙れ!余計なもん出しやがって!」

「あんまりふざけたことするとぶん殴るわよ!?」


「イデデデデ!な、なんで僕が怒られなきゃ行けないんだよ~」


運昇の胸ぐらを掴みあげる永愛に幸助は重ねてアイアンクローをお見舞する

訳が分からない上に理不尽な仕打ちを受けた運昇は頭を抑えて痛みにもがいていた


「ところで君達はどこへ向かっているんだい?僕は鳳南に向かっているとこだったんだけどーーーそんなあからさまに嫌な顔しないでよ。もしかして君達も鳳南に行くのかい?」


怒りが治まりおにぎりで口直しを図る幸助達に運昇が問いかけると全員が眉間にシワを寄せた

全員一致のわかりやすい反応に運昇の顔が曇る


「いや、アンタといるとろくな事ないわ」

「変な力使う人連れてきたりマズイご飯食べさせられたりねー」


「それ僕のせいじゃなくない!?」


呆れながら答える永愛と優輝。年上なので一応敬語を使っていた幸助だったがそれも止めようと思うほど運昇が情けなく見えた


置いて行こうとすると運昇が泣きながらズボンにしがみついて離そうとしないので仕方なく鳳南までは一緒に行く事になった


「被害があったって聞いたけど鳳南は今どんな状況になってるか分かんのか?」


「僕だって初めて行くからどんな風かは分からないよ。ただ家屋は壊され死傷者も多数。主犯は既に去ったと聞いているけどまだ仲間がいるかもしれないしーーー考えてたら怖くなってきちゃったよ~」


再びバイブレーションモードになる運昇。なんというかその姿は幸助達にとって非常に鬱陶しく思えた


運昇はさておき話を聞いた限り鳳南はかなり酷い状況であることは確かで犯人が何のためにそんなことをしたのか一行には全く見当がつかない


しかし一刻も早く行かなければならないことは全員が理解していた


「ほらさっさと行くぞ!」


「ヒャンッ!」


まだ震えている運昇の尻を蹴りあげて彼らは鳳南へと向かう足取りを速めた



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