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上下対抗腕相撲大会 開幕


「おうお前らお疲れ様!今日の練習はここで終わりにして明日に備えるぞ!」


7月25日

いよいよ明日に迫った腕相撲大会本番に向けて最後の練習を終えたメンバーの5人

途中参加で新しく加えたメンバー含めここまで練習に付いてきてくれた5人に感謝の言葉を述べる監督


そしてその前に横たわる屍が5つ


「おかしいな……本番前日だから軽めに終わらせるって昨日聞いたと思ったんだがよぉ……」


「だから軽めにやったろうが。なんだ虎太郎へばりやがって情けねぇ。そんなんであの嬢ちゃん2人守れんのか?」


「最初から最後までうるせぇジジイだな……お嬢と歌輪は関係ねーだろーが……」


「そんだけ生意気な口聞けんならまだ余裕だなぁ?お前だけ追加メニューやるか?」


倒れている虎太郎の顔を覗き込み監督が徴発を重ねていく。虎太郎が動けないのをいいことにクネクネと不思議な動きをしながら周囲をウロウロと歩き回る


「する訳ねーだろジジイ」


虎太郎も負けじと言葉を返すがやはり動くことが出来ない

本来の虎太郎ならばこのような舐めきった態度は有無を言わさず鉄拳を叩き込む対象なのだが相手は1つの街を治める男。下手に手を出して問題が起ころうものならば歌輪の今後の活動に支障が出てしまう


なのでその辺の行動については詩巻を出発する前に嫌というほど紫艶から警告されたのだ

だから出来ることと言えば口悪くするだけなので精一杯威勢よく憎まれ口を叩いてやっている


そんな虎太郎にかかる縛りを知ってか知らずかこれまでも監督が虎太郎を煽る場面は何度もあった

いや、監督の場合はただのそういう性格なだけだろう


「虎太郎よぉ〜俺はお前よりずっっっっと長く生きてる先輩なんだからもう少し敬うとか労るとか出来ねぇのかぁ?」


「そんだけ元気なら労る必要なんかねーだろ。それに俺が敬うのはお嬢だけだから安心しろよ。アンタだけ敬わねぇって訳じゃねーんだ」


「クソガキめ」

「クソジジイが」


そこまで悪口が叩けるのもお互いを認め合っているからこそであり2人の間には間違いなく信頼が生まれていた


「さて、馬鹿を相手にすんのはこれくらいにしてお前らもうたっぷり休んだろ!起きろ!」


監督の一声で起き上がる5人。全員を1箇所に集めて半円のように座らせると監督もその真ん中に腰を降ろした


「明日の大会の順番を発表しようと思う。ギーちゃん、モンちゃん、ヨッちゃん、虎太郎、幸助の順番で明日は戦ってもらうからよろしくな」


監督の発表に一同がザワつく。順番とは言ったが単純に1番2番ーーーという軽そうな扱いではなく大会では先鋒次鋒ーーーのように己に与えられた重き責任を背負って戦うのだ


ならば中でも1番強いヨッちゃんを大将に配置することは確実なはずなのだが何故新入りで経験もない虎太郎と幸助が終盤に置かれているのか一同疑問で仕方ない


「あの監督。なんで俺と虎太郎が最後の方になってんですか?」


一同の疑問は幸助が真っ先に監督に尋ねた。1番新入りで練習時間も他より圧倒的に少ない。なのに何故自分が大将なんて大役を任されるのだろうかがおかしくてしょうがなかった


「ああそれか。試合はヨモギの3人に決めてもらう最速勝利戦法を考えてるからお前らは後回しにしたんだよ」


「「後回し……?」」


監督の一言で一瞬だが幸助と虎太郎の眉間にシワが寄った。ハモったことなど意に介さず監督の次の言葉が待ち遠しくなる


「そうだ後回しだ。付き合わせた身で言うのも変な話だがお前らには祭を楽しんでもらいたいからな。そう気負わずに思い出作りくらいの感覚で戦ってくれや」


まるで2人の勝利はハナから計算に入れてないような口ぶりの監督。そして最後にトドメを刺した


「そもそもお前ら素人に期待してねーしな。ケンカは強いんだろーがそれと腕相撲は別モンだし。そんじゃまた明日なー」


言いたい放題言った後はさっさと道場から出ていってしまった。幸助と虎太郎は俯き肩を震わせている

流石に言い過ぎではないのかと思ったヨッちゃんは監督の後を追いかけた


「監督!短い間だけど一緒に頑張った仲間にあんなことを言うのは酷いんじゃないですか!?」


「あ?なんだヨッちゃん。あれが俺の本心に聞こえたか?」


「え?」


「俺が心からそう思ってんなら明日来たくなくなるまでボロクソに言ってやるってんだ。そもそも思い出作り的な感覚であの土俵に上がることなんざ俺は許さねぇ。あそこはそんなハンパな気持ちで立っていいとこじゃねぇからな」


ついさっきと言っていることが真逆な監督に困惑するヨッちゃん

そんな様子を見かねた監督はヨッちゃんの肩を掴んでまわれ右させると背中を押した


「口で説明するより見た方がはえーな。さっさと戻ってあいつら見てこい」


監督の言ってる意味が分からないままだがとりあえず小さくなる監督の背中に頭を下げ、振り返り道場へと戻っていく


ある程度歩いたところで振り返りヨッちゃんが道場へ戻ったことを確認した監督


(初日から俺の練習についてくるとは正直思わなかったぜ。まったく面白ぇ奴らだな)


明日のことを考えると思わず笑顔が零れてしまう。しかしその笑顔は明日まで取っておかなければならない。深呼吸をして笑顔をしまい込むと家路を急いだ


ヨッちゃんが道場に帰ってきたとき何やら外まで声が漏れてくる程騒がしかった


「おいメチャクチャうるさいぞ!?何事だ!」


入り口で棒立ちしていたギーちゃんとモンちゃんに尋ねると2人は何も言わず場内にいた幸助と虎太郎を指差した


「ふざけやがってあのクソジジイ!散々付き合わせて思い出作りだ!?なめんじゃねーぞ!」


「上等だ!明日は誰が相手だろうが瞬殺決めて監督に目に物見せてやるよ!」


「おうコラ幸助!勝負しろ!明日へのウォーミングアップがてらぶっ殺してやる!」


「その言葉ソックリそのまま返してやらぁ!負けても泣くんじゃねぇぞ!」


「だぁれが泣くか!チビ助!」


「テメェがデケェだけだろこのグラサン!」


「グラサンの何が悪いんだよぉぉぉぉ!!」


幸助と虎太郎が吠えていた。監督にあそこまで言われて腸が煮えくり返っているのだろう。しかしここに監督はいないので目の前の相手に当たり散らし子供のようなケンカが始まってしまった


「そうか。監督はあいつらのやる気を引き出すためにわざとあんなこと言ってたのか」


監督の真意に気づいたヨッちゃんは2人の吠える姿を見て納得した。そうだろうな、とギーちゃんとモンちゃんも呆れながら笑っている


監督の作戦のおかげで2人の闘志が燃え上がったのはさておき


「ストップだ2人とも!これ以上やったら明日に響くぞ!」


「止めんじゃねー!こんな奴相手にするくらいで明日に響くわけねーだろ!」


「全くだ!こんな奴秒で捻ってやるってんだ!」


「「やるかオラァ!?」」


2人の心の炎は一向に治まる様子を見せない。すると後ろからギーちゃんとモンちゃんが現れて一言放った


「2人とも元気だなー。ならもう1回監督に来てもらって練習の続きするか?」


「それはいいな!監督きっと喜ぶぞー」


その言葉を聞いた途端、猛獣のように吠えていた幸助と虎太郎の体は一瞬硬直し借りて来た猫のように大人しくなってしまった

『監督』と『練習』。この言葉は2人の体に強烈なトラウマとなって残ったため反射的にお互い手を離してたのだ


「チッ、しゃあねぇ。今日のところは我慢して明日暴れてやるとすっか」


「そうだな。そっちの方がより一層気合いが入るってもんだ」


渋々ではあるが2人の炎を鎮火させることに成功した。現場は解散となりそれぞれが明日への思いを胸に抱いて帰路につく


そして迎えた次の日-7月26日-午後6時


「さぁーーーて今年もやって来ました上下輪旗祭において1番盛り上がるイベント!上下対抗腕相撲大会!これをやらずに今年の祭は終われねぇよなぁ!」


やたらテンションの高い司会の男が舞台の上で叫んでいる。しかし会場を囲む大勢の観客達の歓声はそれを遥かに上回るものだった


「ひゃあ〜もうかなり人集まってるじゃん!ってかウルサッ!」


まだまだ祭を満喫していた優輝とクロはすっかり場所取りに失敗してしまい着いたときには既に大量の人で溢れかえっていた


「どーしよー……これじゃあ全然見えないよ……」


周りにいるのは優輝よりも背が高い大人ばかり。子供には専用のスペースが作られていたり小さい子は親に肩車をしてもらっている


「優輝は肩車してくれる人いなくて残念だったね。それとも子供専用スペースに行くかい?」


「肩車なんかしてもらわないし専用スペースにも行かないよ!」


とは言ったものの今の位置から見えるのは前の人の背中だけ。幸助の試合は見たいしプライドを捨ててでも専用スペースへ行くべきなのだろうか

しかしその時だった


「優輝くん!」


女性の声がした。どこかで聞いたことあるようなーーーなんてうろ覚え、な筈がない

この声だけは生涯忘れる事はないだろう。しかしどこからーーー


「こっちですよ」


軽く肩を叩かれ振り返ると自分の頬に突き刺さる指の感触。その奥で微笑む顔を優輝は知っていて何故こんな所にいるのかはわからないがとにかく出会えた運命に感謝する


「歌輪ちゃん!?なんでここに!」


そこにいたのは天羽歌輪。幸助と虎太郎が戦った詩巻の街で出会った聴く人を幸せにするという天使の歌声を持つ少女。詩巻でのいざこざが済んだ後行われたステージで優輝はすっかり彼女のファンになっていた

まさかこんなに早く再開出来るとは夢にも思っていなかった


「お久しぶりです優輝くん。そしてクロちゃんもお久しぶりです」


「お久しぶりだね歌輪。ところで何でここにいるの?」


「先日ここで歌わせてもらう機会をいただきまして。そこで色々あって虎太郎さんが腕相撲大会にでることになったので私と紫艶さんも見学しようと思って」


「ヨッちゃんが言ってたコンサートって歌輪ちゃんのだったんだ……」


この街を走っていた虎太郎を見た時からもしかしたらいるのではないかと淡い期待をしていたがまさか本当に会えるとは

優輝の興味は完全に大会から歌輪へと移ってしまっていた


「立ち話もよくないです。近くにホテルがあるのでそこでゆっくりお話しましょう」


ホテルという言葉に敏感に反応する優輝。彼だって思春期真っ只中の男なのだ。そういうことを期待してしまう年頃でもある

案内されるがまま歌輪の後ろをホイホイとついて行く優輝は頭の中がピンク色の妄想に染まっていた


「あら、お久しぶりね憎き英雄さん。2ヶ月ぶりくらい?私の家を壊した感触はまだ覚えてるかしら?」


現実は甘くない。辿り着いた先の部屋で待っていたのは笹江紫艶だった。出会って早々に皮肉を言われる


気に入らないものはどんな手段を使ってでも消し欲しい物はどんな手段を使ってでも手に入れる自己中心的な女

まさかこんなに早く再開するとは夢にも思っていなかった


1人で舞い上がり落胆する優輝を不思議そうな顔で見つめる歌輪


「なんで僕達をここに連れてきたんだよ」


「あんたの仲間も出るんでしょ?腕相撲大会。この部屋から外を眺めてたら偶然見つけたから歌輪に呼んできてもらったのよ」


「とか言って僕らになんか仕返しでもしてやろうとか考えてんじゃないの?」


身構える優輝を紫艶は余裕を見せ嘲笑う


「そんな訳ないじゃない。確かにあんた達とは色々あったけどこうしてあたしと歌輪を引き寄せてくれた。これでも感謝してるのよ?」


嘘くさい笑顔だと疑いの目を向ける優輝を大丈夫だと宥めるクロ


「それよりいいのかしら?もうそろそろ始まるみたいよ?」


紫艶に言われここに来た本来の目的を思い出した優輝は慌てて窓へと駆け寄る。ステージ全体をしっかりと見渡せる窓からの景色はこの祭を見るために用意されたような特等席だった


「さあ!まずはチーム紹介から始めよう!毎年各方位から強者を集め連勝記録を更新中!下町連二したまちれんじ率いるチーム下輪旗だぁぁぁぁ!!」


司会の男に呼ばれステージへと登ってくるのは力士のような体をした老人だった


「うおっ!向こうの監督はデケェな」


「下輪旗の下町町長はうちの監督の選手時代からのライバルでね。監督となった今も2人の因縁は続いてるんだよ」


「へー。ところでなんであっちの奴らコートなんて着てんだよ。このクソ暑い時期に」


「知らねーよ寒がりなんだろ。つか1人足りねーじゃねーか」


こちらの監督とは対照的な体つきの下輪旗の監督に驚く幸助にご丁寧な説明をくれるモンちゃん

あちらの町長も町民からは慕われてるらしくステージに上がっただけでまるで勝利したかのような歓声が湧き上がる


ただ気になるのはそこだけではない。監督の背後に立つ4人の全員がローブを纏い姿を隠している

しかしどれも普通の背丈で目立つ程体格がいいわけではなく至って普通の見た目をしていた

そして何故かメンバーが1人足りていない


「対するは上輪旗!今年こそ勝利をその手にすることが出来るのか!?上町源一率いるチーム上輪旗ぃぃぃぃぃ!!」


こちらも向こうの歓声に負けぬ大声が響き渡る。もう何度目になるだろうか。今年こそ、今年こそ勝ってほしいと思う町民の思いがその声をより一層強いものへと仕立てあげていた


ステージに上がった両者は睨み合いまず互いの監督が一歩前へ出た


「よう上町。まだその三銃士引き連れてんのか?しかも残りはチンピラと子供とはお前の人望の無さには泣けてくるな」


「テメーのとこみてぇに毎年毎年あっちこっちに媚び売って人を集める必要がないんでねこっちは。うちには愛情込めて育てた息子同然の奴らがいるからいいんだよ」


早速老人同士の罵り合いが白熱している。上町源一のこだわりは良い素材を見つけそれを究極まで磨きあげること

対する下町連二のこだわりは新しさを追求し確実に勝てる力を携えて戦いに臨むこと

昔から意見の合わない両者は常に対立し続けその度に己の正しさを力で証明してきた


ちなみに連二が強力な選手をスカウトしているのは本当だが多方面に頭を下げたり媚び売っているわけではない。源一が勝手に頭の中で都合よく変換して捉えているだけである


「ところでテメーのとこメンバー足んねぇじゃねぇか。どした?ウンコか?それとも怖くなって逃げ出したか?」


「ハハハハ!好きなだけ吠えろ!どうせうちの大将が来る前に決着はつくんだからな。さあお前達見せてやれ!」


連二の言葉で背後の4人はローブを脱ぎさった。ローブの下から現れたのは鎧に身を包んだ男が並んでいた


その姿はまるで騎士


「さて改めて紹介させてもらおうか。うちの今年の選手は全員ーーー」


「まったく……せっかくの祭だってのに腹立つ奴らばっかり集まってきやがる」


「コラ幸助。そいつは俺に言ってんのか?」


睨みつけてくる虎太郎のことはさておき過去に数回見ただけでも印象に深く残っている制服。 思わぬ敵の登場にため息混じりの笑みが零れる幸助の先で不敵な笑みを浮かべながら連二は言った


「ーーー星降守護部隊だ」




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