途中下車の町
「私の運命の王子様はあなたしかいないわ。結婚してください!」
「いや、あの、ごめんなさぁーーーい!!!」
「ってちょっとどこ行くのよ!待ってぇーーー!!」
走り去る男を追いかけることはなくただその後ろ姿に届くはずもない手を伸ばす
伸ばした手を降ろすと今度は涙が溢れてきた
「なんでっ……なんでダメなのよぉ〜。私の運命の人はあなたしかいないのよぉ〜」
「あなたは私が落としたハンカチを拾ってくれた……。お礼を言った私にあなたは優しく微笑んでくれて……それからも時々外で見かけたら会釈してくれたのに……なんで結婚はダメなのよぉ……もうすぐあるお祭りをダーリン連れて楽しみたいのに……神様はなんで私にイジワルをするのかしら……」
「グスン……帰ろう」
ーーーーー
花熊井を出て船から降りた幸助達は次の目的地である上輪旗へ向けて歩いていた。途中でオーナーが言ってた車の発着場を見つけ乗り込むまでは良かったのだが
「どうしたのクロ?」
「ゴメン、なんか気持ち悪くって……ウゥッ!」
「待て!車の中で吐くのはマズイぞ!次降りられる所まで我慢してくれ」
クロが吐き気を催したので慌てて次の着点で3人は車を降りた。その結果上輪旗で降りるはずがその少し手前で降りる形になってしまった
「猫でも車酔いするんだな」
「……迷惑掛けてゴメン」
「気にしなくていいよ。それより珍しく運がいいよ。小さいけど町があるしここで休んで行こう」
「珍しくは余計だろ」
優輝の言葉に納得いかない幸助だが何か言い返せる訳でもないのでせめて表情だけでもと不満そうな顔をする
しかし優輝はそんな幸助をスルーしてクロを抱き上げるとさっさと町の中へ入って行った
「さて、どこへ行くか」
「ご飯にしない?そこならゆっくり休めそうだし僕もうお腹ペコペコだよ」
優輝の提案で適当に見つけた店に入り食事をとる。会計時に役立つのはオーナーからもらったばかりのLHMカードだ。店員に渡すだけであとは勝手に処理してくれるので名前にhandyとついてるだけのことはある
「渡すだけでいいって言われてもなんか緊張しちゃうよね」
「そういやカード返される時に店の人がこっちを3度見くらいしたんだけどなんかマズイことあったか?」
「でも問題なく買い物出来たよね。このレシートに金額だってーーーぶっ!?」
「おわっ!?汚ったね!」
飲み物を飲みながら何気なく確認したレシートに驚き優輝は思わず吹き出してしまいそれが全て幸助の顔を直撃した
慌てておしぼりで顔を擦る幸助の向かいで優輝はむせている
「ゲホッ!ゴ、ゴメンそれよりこれ見てよ!」
「なんだよーーーってうおっ!」
顔を拭く手を止め優輝から見せられたレシートに顔を近づけると幸助も目を丸くした。それはカードを利用した際に記載される残高の欄
「す、数字が沢山…だと…」
そこに記されていた数字は399万7000円。初めて見た金額に2人は目を疑った。そして幸助もすぐさま自分のレシートを確認すると
「599万7000円……」
「ちょっ、なんでそんなに差があるんだよ!」
「佐渡が言ってただろ?報酬は歩合制だって。その差だろ」
「うぅ〜納得いくようないかないような。同じような思いをしたのは一緒なのに……」
「こっちは死にかけてんだ。それくらい貰ってもいいだろ」
「まぁ確かに…。それに僕だってこんなに貰ったんだし文句言ったらオーナーに悪いよね」
「そうだぜ。それより早いとこ食って上輪旗まで行こうぜ。きっとそんなに遠くねぇはずだからよ」
そうは言ったもののやはり金額を見てしまうと2人の気は緩む。その後2回ずつおかわりをした
「食いすぎた……腹痛てぇ」
「僕も……ところでクロは体調治った?」
優輝が尋ねるとクロは微かに首を横に2度振った。食事中に幸助と優輝が一喜一憂している時もクロは黙って横になっているだけで1度も口を挟んでこなかった
「車酔いってそんなに長引くものだったかな……。ねぇ幸助、今日はこの町で休まない?上輪旗に向かうのは明日ってことでどう?」
「あんまりクロを連れ回すのも良くなさそうだな。そうすっか」
「ありがとう…2人とも」
3人は宿を探す事にしたがクロに負担をかける訳には行かないので二手に別れることになった。幸助は宿を探し、優輝はクロの傍にいてベンチで待機することに。早速幸助は町の奥へと消えて行った
「クロ大丈夫?なんか欲しい物ある?」
「大丈夫だよ。もう少し休めば良くなると思うから」
グッタリしているクロを心配する優輝。クロの頭を撫でていると2人の若者が優輝の元へと近づいてきた
「ねぇねぇボクゥ。ちょーっといいかなぁ?」
2人と別れた後の幸助は宿を探しつつ考えごとをしていた
「クロの奴どうしたんだ?船降りて車乗るまでは腹立つ程元気だったくせに……なんか前にもこんなことあったようなーーー」
思考は全て声になって外へと発信されていく。幸助自身はその事に気づいていないためはたから見たらブツブツ言いながら歩く少し怪しい少年と化していた
そして彼の中で1つの答えが出たとき前へと進む足がピタリと止まった
「勘だけどマズイ気がする。戻るか」
宿を探すことは1度中断して来た道を振り返ると優輝とクロと別れた場所目掛けて走り出した
「……なんだよお前ら」
「お前さっきあの店にいたろ?ちょっと話聞こえちまったんだけどさぁ〜」
男が指差した先には先程幸助と優輝が食事をした店があり、どうやら話の内容を聞かれていたらしい
男はニヤニヤとしながら近付いてくるが優輝は座ったまま動こうとせずその姿を睨みつける。男も怯むどころか見下した態度で歩みを止めるつもりはなさそうだ
そして正面まで来ると腰を大きく後ろへ反らせ反動を付け、鼻先がつくくらいの距離まで顔を近づけた
「金。もってんだろ?」
「LHMカードは顔写真がついてるから奪ったって無駄だよ」
男の言いたいことが大体分かっていた優輝はオーナーから教えられたLHMカード取り扱い事項を男に伝えてやった
しかし男はそのような返事を待っていたかのように上がった口角を更に釣り上げる
「そんなことは知ってるさ。別に誰も貸せとか寄越せなんて言ってねぇんだよ?俺達がちょーっと買い物すっからさぁそれをお前が払ってくれればいいんだよ?な?」
こんな馬鹿はどこにでもいるんだと言わんばかりに優輝はため息をついて膝に乗せたクロをベンチにそっと降ろして立ち上がる
「なんだよ物分りイイじゃんか〜ほんじゃ行こーーー」
「クロ、ちょっとうるさくするけどごめんね。すぐ静かにさせるから」
「あん?なんつった?」
自分が想像していたのと優輝の様子が違うこととその言動に男は若干の苛立ちを見せた。さっきまで出していた優しそうな声色は一変してドスの聞いた声になる
「ぶっとばす」
「おっと、さっきから聞いてりゃ口の聞き方がなってねぇやつだ。ちょっとお仕置きしてやるか」
優輝の言葉に腹を立てた男は怒りを露わにする。優輝もペンダントに手を掛け喧嘩が始まろうとした時だった
「まちなさぁぁぁぁぁぁい!!」
どこからともなく聞こえてきた声と足音に彼らの手が止まる。そして声のする方向を見ると1人の女の子がこちらへ向かって走って来ていた
そしてあっという間に距離を詰めた女の子が地面を踏み切ると優輝の目の前の男目掛けてドロップキックをしたのだった
「君、大丈夫?怪我は?」
「いや、はぁ」
男を蹴り飛ばした女の子は優輝の心配をする。突然のことで混乱している優輝は適当な返事をすることで精一杯だった
「このガキッ何しやがる!」
「なによ!自分達より小さい子虐めてるアンタ等が悪いんでしょ!」
その女の子の顔を見た時、もう1人の男が声をあげた
「コイツ……『告白無双』じゃねぇか?」
「ホントだ。よう!運命の相手は見つかったのかよ!」
途端に男達は態度を変え女の子を茶化し始めた。よくわからないあだ名も付けられているしどうやら有名な女の子みたいだ
「うるさいわね!アンタ達には関係ないでしょ!」
「噂に聞いた通り気が強くて女らしさの欠片もねぇな!」
「全くだな!胸はない癖に連敗記録だけは一丁前だ」
「全然上手くないわよ!ドヤ顔止めなさい!」
いきなり女の子が現れてドロップキックかましたかと思えば逆にからかわれて顔を真っ赤にしている
優輝は現状についていくことが出来ずにおいてけぼりにされていた
「ただ蹴られた礼はしねぇとな。覚悟しやがれ」
「ふーん。あたしと闘ろうっての?」
そして女の子が取り出したのは木で作られた2本の短剣だった。しかし剣と言うには刃は見当たらず鋭いと言うよりは丸い
刃物よりは鈍器の方がそれを呼ぶにふさわしかった
「そんなもんで男2人に勝てるわけねぇだろ!やっちまおうぜ!」
意気込んだ男達だったがそんな彼らの肩を叩く者が現れたことでまた動きが止まる。再びやる気が削がれた男達はだるそうに振り向いた
「よう。俺も混ぜてくれよ」
「あっ幸助」
「なんだお前ーーー」
男の言葉を聞かず幸助は2人を殴り飛ばした。男達は地面を転がったがすぐに立ち上がり幸助を睨んだ
負けじと幸助も睨み返すと男達は諦めたようで舌打ちと唾の吐き捨てをしてから去っていった
「もう宿は見つかったの?」
「なんとなく嫌な感じがしたんだよ。戻ってきて正解だったぜ」
「戻って来なくたってあれくらい僕一人でも大丈夫だよ」
「大体詩巻といい佐渡といい今といいお前はなんで変な奴にばっか目ぇ付けられんだよ」
「そんなこと僕に聞かれても……でも明日次さんはラッキーだったでしょ!お金貰ったんだし」
優輝の変な絡まれ体質に呆れる幸助に対して優輝は明日次を盾にして言い返す
結果的にその手に入れたお金で今絡まれていたのだが幸助はそのことを知らないので言い返す分には充分だった
「そうだ見た目だ。お前の親父さんくらいになれば二度と絡まれねぇだろ。今すぐなれ」
「すぐになれるか!あんなムキムキになんて」
「ねぇ、ちょっと?」
言い争ってる2人の間に割って入って来たのはさっきの女の子だった。先程の優輝のように目まぐるしく変わる状況についていけなくなっていたようだ
幸助は女の子の容姿を見た途端ため息をついてまた優輝へと視線を戻した
「優輝ーお前情けねぇだろ。同じ歳くらいの女の子に守られてたら」
「守られてないって。いきなりやって来たんだよ!」
「同じくらいとは失礼ね。あたしは21歳よ」
「おい聞いたかよ。お前の立場守る為に年齢誤魔化してくれてんだぞ?」
「だーかーらー何度言えば分かるんだよ!助けなんか無くたって僕はーーー」
「ちょっと話聞きなさいよ!」
女の子は手に持っていた短剣で2人の腹を突いた。2人の鳩尾を見事に捉えたその突きに幸助と優輝はうめき声を上げてうずくまってしまった
「とりあえず助けてくれてありがとう。お礼はするからついてきて」
言葉と行動が噛み合ってない気はするが言われるがままついていくことに決めた
ベンチからクロを拾ってまだお腹に残る痛みを押さえながら突然現れた謎の女の子の後を小股で歩く。その姿はなかなかおかしな光景として周囲に認識されていた




