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絶望の嵐


瓦礫の山から抜け出して来た白猫は肩や膝を軽くはたいて埃を払う


「殺す。……でございますか。そんな言葉耳が腐るほど聞いたでございますよ」


「そうかよ、ならもっと聞いて腐ればいい」


幸助は白猫目掛けて一直線に走り出し右拳を握り、繰り出す。白猫が左手で受け止めると今度は白猫が右拳を繰り出す

それを幸助が左手で受け止めると互いに引くことはせず押し合う


幸助が掴んでいた手を離し左手で白猫に殴り掛かると白猫も同じ動きをした

拳がぶつかり合いその衝撃が部屋全体に伝わる

白猫の蹴りを後ろへ跳ぶことで避け同時に間合いを取る幸助


「威勢だけはいいようでございますがそもそも最初の私の蹴りを避けられない程度の実力では私を殺すことなど到底無理でございますよ?」


「たかが蹴り一発で知った様な口聞くんじゃねぇ。それに今の俺とさっきの俺は違うんだよ」


「言ってる意味がよく分からないでございますが……とりあえずやって見れば分かるでございますね!」


地面を蹴って猛スピードで近づいて来る白猫を幸助はじっと見つめタイミングを計り拳で迎え撃つ

しかし空振り。目の前にいたはずの白猫が視界から姿を消していた

後ろだと思い慌てて振り返るがそれを待っていたかのような白猫の小さな笑いと顔に重く掛かる衝撃


吹っ飛ばされた幸助だがすぐ体勢を立て直し白猫へ向かおうと顔を上げると目の前には既に白猫が迫っていた

追撃の踵落としは幸助の頭を見事に捉え顔から床に叩きつけられる


次の攻撃は上からーーーーー


そう予測した幸助は転がって上を向くがそこに白猫の姿はない

白猫は起き上がろうとする幸助の足を掴み脇に抱えると回転して振り回し、そのまま壁目掛けて投げつけた

壁が崩れ幸助へ容赦なく降り注ぐ


「これでさっき殴られた分の仕返しは終わりでございます。これからはーーーーー」


「一方的に殺すだけでございます」


瓦礫の山に埋まった幸助の元へトドメを刺すべく走り出し上から渾身の一撃を叩き込むため飛び上がる


瓦礫を突き破り抜け出してきた幸助は白猫の姿を確認すると手元にあった握り拳くらいの大きさの石を掴み投げた

空中で軽く回避した白猫を待ち受けていたのは自分の体と同じ大きさ程の巨大な岩だった

回避が間に合わない白猫は岩を迎え撃ち、砕く。そして砕けた岩の向こうから姿を現したのは拳を構えた幸助


白猫がそれに気づいて防御しようとした時には既に自分の顔に幸助の拳が触れていた。空中で叩き落とされ全身を床へ強打する

拳を振り下ろした幸助は左手に持っていた石を真下の白猫に投げつけるとそれは標的の右肩へと命中した

石を投げた後は落下しながら体を横に何度も捻るり、その勢いのまま白猫の腹へ肘を打ち付けた





「つ、強い……」


遠くから眺めていた優輝は思わず声が漏れてしまった。今まで幸助が戦う姿は何度も見ていたはずだが今、優輝が見ている幸助はそれとは比べ物にならないほどの別人を見ているようだった


この場にいた誰もーーーーー

星降守護部隊である明日次でさえ敵わなかった相手と幸助は互角に渡り合っている

もしかしてあいつならこの絶望に陥った状況をひっくり返してくれるのではないだろうか。その僅かに指した希望の光は萎縮しきっていた優輝の心を少しずつだが動かそうとしていた





「この程度でくたばるとは思えねぇが全力でぶん殴ったんだ。さすがにくらってんだろ」


幸助は白猫から距離を取って様子を見る。しかし白猫は仰向けになったままピクリとも動く気配がない

まさか倒した?などと慢心する幸助ではなく白猫が次に何をしてきてもいいようにただじっと集中している


「流石に騙せないでございますか」


「だからくたばるとは思ってねぇって言ってんだろ」


白猫が起き上がることは幸助にとって想定の範囲内であったが彼は動揺していた

それは相手があまりにも普通に体を起こし、立ち上がったからである

手加減など一切なく、本気で殴って本気で石を投げた。骨が粉々に砕けていたっておかしくないようなことをした


しかし白猫は普通に目の前に立っている。この戦いが始まった時と同じ様子で幸助の前に大きな壁となって立ちはだかっている


『どうするんだい?あいつ本当に化物じゃないか』


「どーするもこーするもやらなきゃ殺されるんだ。ならぶっ殺すしかないだろ」


『シンプル過ぎるね。もっと作戦とかないのかい?』


「悪いけどそんなことができるほど俺の頭はよく出来てねぇ。作戦ならお前が立ててくれよ」


『無茶言わないでくれ。いくらなんでも状況が悪すぎるしあいつは作戦を立てたところでそれを上から力で捩じ伏せるような奴だよ』


「じゃあ最初から作戦とか言うなよ……。つーことは結局ーーーーー」


体の中からクロが話しかけてきたが2人で考えても作戦や打開策は一切思い浮かばない。しかし彼等の中に諦めるという選択肢はなかった


「あいつが死ぬまで殴り続けるしかねぇよな!!!」


今までと同じくまっすぐ白猫へ向かい拳を繰り出した。同様に繰り出しされた白猫の拳は幸助の拳の脇を通り抜けお互いの頬を捉えた


「死ぬまで殴る……?これだけ力の差を見てまだそんなことを言うのでございますか」


「確かにテメェはとんでもねぇ化物だが、不死身って訳じゃねぇだろ。いつか絶対限界が来る」


「限界……でございますか。もちろん私は普通の人間でございます。このまま戦いが続けばいつかは倒れるでございましょうがーーーーー」


「その前に自分に限界が来る事を考えてないのでございますか?」


白猫が仕掛ける。そのスピードはさっきまで見せていたものよりも速く、必死に応戦する幸助を確実に追い詰めていく


(まだスピード上がんのかよ!ちくしょう、どうしようもねぇな)


白猫の連撃についに幸助の足がふらついた。それを見逃す訳はなく白猫の拳は幸助の腹へと叩き込まれる

大きな一撃に幸助は力なく倒れるが白猫はそれを許さない。髪の毛を掴み無理矢理顔をあげ、白目をむいて完全に気絶したことを確認するとその体を思いきり蹴り上げた

幸助の体は天井へぶつかると重力に従い床へと落ちてくる

そして衝撃で崩れた天井から複数の瓦礫が彼へ降り注いだ


静まり返った室内で白猫は今まで何もなかったかのような落ち着いた様子で体の埃を払う白猫

あれだけ激しい戦いを繰り広げたにも関わらず彼は一筋どころか一滴の血も流していなかった

右肩を回し上体を前へ後ろへ軽く反らし最後に腕を上げ体を伸ばすと


「……さてと」


優輝を見た。驚いた優輝は反射で体が跳ねる

目の前で倒れていった幸助を心配する余裕など彼には一切なかった。何故なら次は自分の番だということで頭がいっぱいになってしまっているからだ

そんな優輝の心情など知ったこっちゃないとばかりに白猫は笑っている


幸助の復活により僅かながらも希望が見えたかに思えたがこの化物はそれを嘲笑うかのように、いとも簡単にその希望を一瞬で断ち切った


「今度こそ邪魔は全て排除したでございます。もうあなたを助ける人はいないでございますよ」


わかりきっていることをわざわざ口で説明することにより優輝の恐怖心を煽る。実際優輝は腰が抜けて立ち上がることも出来ず力の入らない手足を必死に動かして後ずさりするだけで立ち向かおうという考えなどなかった


「………待て…よ」


「今度はあなたでございますか」


振り絞られた声に白猫は振り返る。そこには剣を構えた明日次の姿があった

残った人間に止めを刺そうとすると他の人間に邪魔をされる。この短時間に2度もそれが起こり白猫は呆れながら話始めた


「またそのパターンでございますか。仲間のピンチを救うようでとてもカッコイイ登場だとは思うでございますが遅過ぎでございますね」


そう言って白猫は先ほど出来上がったばかりの瓦礫の山に目を向けた


「あなたがもう少し早ければ彼は死なずに済んだかもしれないでございますよ」


「その通りだ。俺がお前を甘く見すぎてたばかりにこのザマだ。全ての責任は俺にあるだろう」

「だからこそまだ助けられる命があるのなら俺は全力でそいつを守る!」


明日次の声に呼応するかのように持っていた剣が輝き始めた。全員が輝きを見守る中、やがて剣は1丁の弓へと姿を変え再び明日次の手の中へ収まった


「新しい武器に持ち替えてここからが本番ということでございますか。カッコイイでございますね」


「カッコよくなんかねえよ。俺が後手に回ったせいでこんだけの被害が出てんだ。お前の言う通り遅すぎたんだよ」


「しっかり理解しているようでございますね。あなたはなーんにもカッコよくないただの舐めた男でございますよ。最初から手加減して力を隠すくらいなら最後は全員無事のハッピーエンドで締めなければならないのでございます。人が死んだことを悔やんで被害者ぶるのも大概にしてほしいでございますね」


「その点さっきの彼は最初から死に物狂いで大変高評価でございます。まぁ死んでしまったでございますが」


「自分の甘さが十分にわかったところであなたには後悔で埋め尽くされたまま死んでもらうとするでございます」


白猫が明日次へ向けて走り出し、明日次は弓を構えて迎え撃とうとした時だった


「…………おい」


それほど大きな声ではなかったが部屋全体に響き、揺らすようなその声に誰もが耳を奪われ動きを止めた

声の発生源はとある瓦礫の山から

やがて瓦礫は1つ1つゆっくりと崩れ始め中から彼は姿を現した


「さっきから死んだ死んだってうるせえんだよ。それを決めるのはお前らじゃねぇ。俺だ」


血まみれ姿の彼にまたも邪魔されてしまった白猫は先ほどよりも呆れたーーーーー


と、思いきや楽しそうに拍手をしながら彼を褒め称えた


「すごい!すごいでございますよ!私も少しムキになってしまったものでございますから確実に死んだと思ったでございますがまさかまだ立ち上がることが出来るとは!」


「うるせぇ。今度こそぶっ殺す」


その言葉に白猫は口元を緩ませると標的を変え、その男へ向かって一直線に走り始めた

しかしそれを邪魔するように明日次の弓から矢が放たれる。それを跳んで躱すとその先には既に構えられた拳が待っていた


「あなたはとても面白いでございますね。名前を聞いてもいいでございますか?」


「……不破…幸助」


幸助の押し出した拳を白猫は足の裏で受けた。その勢いを利用して一気に距離を取ると追ってこようとする彼らに言い放った


「これ以上続けると私も少しヤバそうでございますのでそろそろ失礼するでございますよ!今日は素敵な思い出が出来たのでそれを宝の代わりとして持ち帰るとするでございます!」


そして白猫は穴の空いた壁から外へと出ていった。幸助と明日次は追いかけようとしたが体を走る激痛がそれをさせなかった

突然現れ全てをめちゃくちゃにしたかと思えば突然去っていく嵐のような存在。嵐が暴れ回ったおよそ30分は彼らに大きな傷を残した

誰も声を発することがないまま降りしきる激しい雨の音が彼らの耳に残って離れなかった



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