圧倒的な化物
星降守護部隊。明日次の放った言葉を優輝は聞き逃さなかった
(昨日の夜、一瞬見せた怖さで普通の人じゃないとは思ってたけどまさか星降守護部隊の人だったなんて……)
星降守護部隊。本来ならば自分達の敵にあたる組織で倒すべき相手になるのだが今は状況が違いすぎる
星降守護部隊の登場でさえ「そんなこと」で片付けられる程圧倒的な存在が目の前にいる
そいつはこちらの緊迫感など無視するようにのびのびと話し始めた
「そうそう星降守護部隊でございます。あなた達はいつも私の邪魔ばかりで参ってるでございます」
「当たり前だ化物め!いつも逃げられてるが今日こそ逃がさねえからな!」
「怖いでございますねぇ。しかしいくら数が多くてもそれだけで私に勝てると思ったら甘々でございますよ」
明日次の気合いに触発されるように周りの男達も雄叫びを上げて一斉に白猫へ襲いかかる。9人がかりの特攻を避けられるはずがない
仮にそこから抜け出そうとその先には優輝と明日次が待っているのだからどのみち逃げ場などないのだ
まず1番初めに殴りかかってきた男の顎を蹴りあげ、上空へ飛ばす
次は両側からの挟み撃ち。白猫がしゃがむと男達は勢いを殺し切れず互いに顔面から思いっきりぶつかった。地面に手をつき倒立しながら足を左右に広げてはじき飛ばす
次の男の腕を掴み背負い投げ。叩きつけると動かなくなったので腕を掴んだまま振り回して投げる。後方の男達2人にぶつけた
最後は3人で3方向から飛びかかって来たがその上から最初に蹴り飛ばした1人目が落ちてきて一網打尽
あっという間に片付いた………かと思いきや男が1人が立ち上がるとそれにつられるかのように次々立ち上がる。まだまだ動けるようだ
「あらら。流石に鍛えられてるだけあるでございますね。しかし退くなら今でございます。これから先、命の保証はないでございますから」
「訳のわからねぇこと言うな!」
どこから取り出したのかわからないが白猫は手にナイフを握っていた。忠告を聞かず向かってくる男達に思わずため息をつく
「やれやれ。これではまた初めからやり直しでございます。なら今度はこっちから行くでございますよ」
1人目の男に近づき四肢を切断したあと断末魔を上げる前に喉を切った
「8人」
2人目の首をもぎ取り近くの奴に投げると頭が弾け飛ぶ
「6人」
次の男はシンプルに腹と胸に風穴を開ける
「5人」
次はまた蹴りあげる。落下するであろう地点にナイフを10本立てておく
次は縦に2等分。その次は細切れにする
「3人」
ポケットを漁ると威力不足でボツになった小型爆弾が入ってたのでそれを男の口を詰めて噛ませる。威力が弱かったので首までしか吹き飛ばなかったが彼にとってはまあ上出来であった
「2人」
ビビって小便漏らし四つん這いで逃げ惑う男の足を掴みハンマー投げのようにグルグル回る
遠心力で体中の血液が頭に登るとゆでダコのように顔が真っ赤になった。それでも回し続けると行き場を無くした血液達は目から鼻から口から耳から、噴水のように吹き出る。飽きたので投げ飛ばし、壁に頭からぶつけると辺りに血を撒き散らして死んだ
そしてこのタイミングで蹴り飛ばした男が落ちてきてナイフに顔から突っ込む
「0人。最後の彼は人間ナイフボウリングストライクでございますね。すごいでございます」
血だるまと血だまりに囲まれながらケラケラと笑う返り血塗れの彼を優輝はただ黙って見ていることしかできなかった
何か声を出そうにも全身が震えて上手く声が出せない
(なんだよアレ。完全に化物じゃないか!甘かった甘すぎた!僕は白猫を優しく考え過ぎていたんだ。あんなものネズミでもなければ龍でもない!悪魔じゃないか!)
「……やっぱり何度見ても慣れねえな、あの化物は。俺の呼吸もだいぶ整ってきたし次は俺の番だぜ」
威勢よく明日次は白猫へ近付いて行く。その際に背後にいる優輝をチラリと見た
(マズイな、完全に萎縮してる。まあこんなグロテスクな現場は見せられてんだし無理もないか。根性ある奴だとは思ってたけどやっぱりまだ若すぎたな)
優輝に期待はできない。幸助もやられたとなるともう戦えるのは自分だけ
明日次自身も白猫と向き合うのは怖い
しかし向き合わねばならない
星降守護部隊の幹部というプライドが彼を動かしていた
額の脂汗を拭い白猫に視線を戻そうとしたが
白猫がいない
「う、しろ!!」
精一杯振り絞ったであろう優輝のかすれ声にすぐさま反応した明日次が振り返ると目の前には腕を振りかぶった白猫の姿があった
慌てて剣で防御するが白猫の力に圧され吹っ飛ばされた
「いってー。世界一怖いお化け屋敷より怖かったぞ今のは」
「そんなジョークが言えるならまだまだ余裕がある証拠でございますね」
白猫は明日次との距離を一瞬で詰めて再び猛攻撃を仕掛ける。明日次は防御と回避を組み合わせてなんとか凌いではいるもののそれで精一杯。攻撃に移る余裕などなかった
(ちくしょう、この速さマジでありえねえ。さっきだって目を離したのなんかほんの2、3秒なのに気付かれずに後ろに回りやがって。このままじゃすぐにガス欠だ!)
「だんだん疲れてきてるでございますね。そろそろトドメを刺すとするでございますか」
明日次に一瞬生まれた隙を白猫は見逃さなかった。手に持ったナイフで明日次の心臓を一突きしようとした時だった
背後から迫る何かを察知して飛び跳ねる
「や、やめろぉ!」
正体は優輝のハンマーだった。優輝の中にはまだ恐怖心が残っている為、長さ、大きさはそこまでのものではないが恐怖心に隠れたほんの小さな勇気にハンマーは反応した
これは白猫にとっても予想外の出来事、動揺を見せた。その隙を突いた明日次は白猫に切りかかり防御した白猫の手からナイフを弾き飛ばすことに成功した
手を緩めることなく明日次の攻撃は続くが白猫も負けじと全てを躱す
そこに再び優輝の援護が入り、白猫に隙が生まれた
迷わず白猫の足を切断しにかかる明日次だったが高い金属音が響くだけで白猫の足はしっかりくっついている
「お前っ!足にもナイフ隠してんのか!?」
「ナイフはさっき弾かれたので最後でございます。しかし私の体は生まれながらにして丈夫でして、ただの刃物なんかでは切れないのでございます」
「これ結構いい剣なんだけどな……。それでもダメかよ」
「あなたは私に何度も言いましたね?化物だと。その通りでございます、私は化物でございますよ。だからこんなことだって出来るのでございます」
白猫は素早く明日次の背後に回る。明日次は剣を後ろへ振るが白猫は腕で防御する
そして腕全体を剣のように振って明日次の背中を切った
凄まじい叫びと共に背中から血を吹き出して明日次はその場に倒れた
その返り血を浴びて白猫はゴキゲンそうに笑う
「嘘だろ……。化物だと思ってたがこんなに強かった覚えはないぞ……」
「1ついいことを教えてあげるでございます。それは私が今まで逃げに徹してたからで真面目に戦えばこのくらい普通なのでございます。流石に星降守護部隊の方々を複数相手にするのは骨が折れますがあなた1人程度なら私は簡単に殺せるでございますよ」
うつ伏せに倒れている明日次へ白猫はゆっくりと近づいていく。種も仕掛けもわからないその腕で今度こそトドメを刺す為に
「……と、その前に」
明日次の側から白猫が消えたーーー
と思ったら優輝が殴り飛ばされていた。吹き飛んで床を転がる優輝自身何が起こったかわからず体を起こしても状況が飲み込めず目を丸く見開いている
「あなたもなかなか厄介でございますね。先に殺すでございます」
標的を優輝に切り替えた白猫はゆっくり優輝の元へと歩く。目の前まで来たところで胸ぐらを掴んで持ち上げると優輝の首から下げてるガーネットのペンダントが白猫の目に留まる
「おや、このペンダントとても美しい。あなたを殺した後で私のコレクションに加えるでございますか」
「こ、これはダメだ!大事な物なんだ!」
「これから死ぬのにそんなことはもう関係ないでございましょう?」
「だ、大体!ここまで力の差があるならとっとと花盗んで帰ればいいじゃないか!なんで僕達を殺す必要があるんだよ!」
「だからさっき言ったでございましょう?これから先命の保証はない、と。それでも向かって来たのはあなた達でございますよ?」
巨大な魔物が目の前で大口開けて待っていて、いつ食われてもおかしくない。今の優輝の心境は死刑執行を待つ罪人のようだった
どう足掻こうとこいつには勝てないと思ってしまった優輝の手に握られたハンマーはすっかり縮こまってしまっている
「もう覚悟は出来たでございますか?こちらも急いでいるのでございます」
白猫が腕を振りかぶったーーーと思ったら優輝の体は床へと落ちていた
そして部屋に響く轟音と舞い上がる砂煙
「テメェ……人の仲間に手ェ出してんじゃねぇ」
「あなたのことをすっかり忘れてたでございます。でもまさか立ち上がってくるとは思わなかったでございますよ」
「さっきの仕返しだ。俺はムカつく奴は全員ぶん殴る主義だがテメェは特別で格別だ」
その男は自分のすぐそばに立っている。そして白猫は壁に打ち付けられていることからこの男が白猫を殴り飛ばしたと考えていいのだろう
「殺す」
黒猫のアザがついた拳を構え、幸助は白猫目掛けてそう言った




