襲来
しっかり睡眠はとったはず。なのだが目覚めはとてもいいものとは言えなかった
ベッドから降りて窓の外へ目を向けると雨粒が激しい音を立てて天から降り注いでいる
「雨……か」
幸助は呟いた
今日は白猫が不死の花を奪いに現れる日
噂ではとんでもない化物らしいが不思議と恐怖を覚えるようなことはなかった
それよりも問題なのはーーー
「よう!よく眠れたか?」
佐渡明日次。昨日いきなりこのバイトに誘われ……と言っても誘われたのは優輝なのだがそんなことはどうでもよかった
幸助はどうもこの男が苦手だった。会って1日も経ってないのにこの馴れ馴れしさ
面倒見がいい男と言われればそれだけなのかもしれないのだが幸助には他に何かこの男が苦手な理由があるがそれは幸助自身にもハッキリとはわからなかった
「まあまあだな。とりあえず飯だ」
優輝とクロを起こして食堂へ向かう
あそこの雰囲気は苦手だがこんな大雨の中わざわざ外に食べに行く気になんてなれない
我慢して食堂で食べることに決めた。扉を開けると、昨日と全く同じ反応を見せてくれる屈強な男達。優輝は目を背け幸助は睨み返す。昨日の夜に時が巻き戻ったのではないかと錯覚する程全てが同じ反応だった
禍々しい殺気に囲まれながら食べる朝食はとても気分のいいものではなかった
昼食もこんな感じなのかと考えるとさっき食べたものがすぐに逆流してきそうなほど胃が締めつけられる
「雨、止まないかなー」
部屋の中で快晴の儀式を行う優輝を見ながら時間が過ぎるのを待った
「ふぅ〜雨の日の配達は大変だぜ」
俺はしがない運送会社のアルバイトだ。トラックを運転してお荷物を待っているお客様の元へ毎日大忙し。特に雨の日は荷物が濡れないようにしなきゃいけないから気を使うぜ
「いつもありがとねー。コレ、雨降って寒いだろうから持っていきな」
「すいません!いつもありがとうございます!」
ホットな缶コーヒーをもらった。仕事は大変だがお客様の笑顔と家で待つ妻と娘は俺の癒し、残る配達もあと1つだけだし頑張るぜ!
「最後はあそこの豪邸か。よしっ!行くぜ!」
トラックの荷台で小さなダンボールを抱えた時だった
「雨の日なのに大変でございますね。ご苦労様でございます」
知らない人に話しかけられたぞ。白いハットに白髪。目深に被っているから顔はわからない。白いスーツにネクタイ、奇抜な格好だな。スラッと細身だから背も高く見える……180センチくらいか?
この仕事をしていると沢山の人から声をかけられるからこれも珍しくはない
「ありがとうございます!あなたも風邪をひかないよう気をつけて!」
「ところでお兄さん。今からあそこの家に向かうのでございますか?私もあそこに用があるのでよければ持っていくでございますよ?」
その人は俺が今から行こうとしてる豪邸を指差した。嬉しい話だがどこの誰かもわからない人に大事な荷物は預けられない
「それは嬉しいのですがこれは私の仕事です。お気遣いありがとうございます」
その言葉を最後に俺の意識はそこで途切れたーーー
「はーいたっつの♪おにーさんがおっとしったダンボール♪なっかみはいったいなーんでっしょね♪」
トラックの荷台で歌う者が1人
血が飛び散ったトラックの荷台で歌う者が1人
血が飛び散ったトラックの荷台で足元の死体を踏み潰しながら歌う者が1人
大雨はその臭いと音をかき消した
「あーあ。昼飯も全然うまく感じなかった」
「普通に食べたらめちゃくちゃ美味しいんだろうね、アレ」
本日2度目の食事を修羅場で済ませ満足はせずとも満腹になった腹をさすりながら食堂をあとにする幸助と優輝とクロ
そこを明日次に呼び止められた
「おうお前ら。集合だ。例の部屋に集まれ」
「え?何するの?」
「何って仕事だろ。警備だよ」
「もう!?まだ2時にもなってないよ?」
「時間ギリギリから警備を始める奴がどこにいる?警備っていうのは何時間も前から待機しておくんだよ」
明日次はぶつくさ文句を言う幸助と優輝の背中を押しながら不死の花が飾られている部屋へと強引に連れていった
部屋の中で立ったり座ったりは自由だが全員が花を囲む形で白猫の予告時間が来るのを待った
特になにか問題が起きるわけでもなく時刻は19時59分。約束の時間まであと1分
全員が息を潜め小さな物音1つ聞き逃さない厳戒態勢をとる
聞こえるのは時計の秒針の音と外の雨音
10……9……8……7……
20時まで残り10秒をきると全員心の中でカウントダウンを始める
そして20時になった
リーンゴーンという古い豪邸ならではの重厚な呼び鈴の音。部屋の中にたちまち緊張がはしる
「奴が来たか」
「バカ!正面突破してくるやつがあるかよ!フェイクだ!」
「しょうがねぇ。俺がちょっと見てくる」
そう言って男が1人部屋から出ていった。残ったメンバーは取り乱した心を落ち着かせると再び花を囲み警備を続けた
部屋を出て階段を降りながら男は思っていた
(こういう時は大体配達員かなんかのフリでもして来るもんなんだよバーカ。俺様が抜けがけで賞金ゲットだ!)
再び鳴らされた重厚な呼び鈴に男は急かすんじゃねぇと舌打ちをしながら早歩きで玄関へ向かう
「あいよ、どちらさん?」
「夜分遅くに申し訳ございません。フラワー運送でございます」
「はいよー今開けるからなー」
(ほらきた。こいつが白猫で間違いない。ドア開けた瞬間先手必勝だ!ぶん殴ってやる!)
もうすぐ大金が手に入る。早まる心臓の鼓動が体を逸らせる。そしてドアノブに手を掛け、開けた
「あっすいません。こちらに受領印をーーーー」
「っしゃこらボケェぇぇぇぇ!!」
男の繰り出したパンチは配達員の顔に命中した。拳をもろにくらった配達員は後ろに倒れ持っていた箱を落として動かなくなった
この配達員が白猫だと信じて疑わなかった男は大喜びで飛び跳ねるが
「いててて、なんでございますかもー」
顔を押さえて立ち上がる配達員は箱を拾ってもう1度男の前に立つ
「すいません、受領印お願いします」
その様子に男も間違ってしまったと気付き慌てて謝罪をすると伝票とペンを受け取りサインを書いた
「あぁ悪ぃ。ちょっと人違いで殴っちまった。ほらサインだ」
「気をつけるでございますよ。では」
荷渡しを済ませると配達員は挨拶をして去っていった
少々過敏になっていた自分を反省して受け取った荷物を確認するが宛名だけで差出人はない
「ははーんさてはオーナーエロいやつでも頼んだかー?ちょっと見てやろー」
男が箱を開けた瞬間だった
家の中に激しい爆発音が響き渡る
「うおっ!なんだなんだ?」
その音は警備中の彼らにも大きな揺れと一緒に伝わった
「お前らは部屋にいてくれ!俺は様子を見てくる!」
まっさきに動き出したのは明日次だった。走って部屋を飛び出しさっき出ていった男と同じ道を走っていった
「僕達ももう1度配置に戻ろう!」
優輝の声で全員が再び花を囲むように輪になる。白猫の仕業だ。全員がそう確信して次の攻撃に備える
しばらくすると揺れも音も止んで20時直前と同じような状態に戻った
「みんな無事か!?」
息を切らした明日次が帰ってきた。かなり慌ててたらしく普通じゃない息の切らし方で本人も辛いのか入口のドアにもたれかかる
「おい!どうだったんだよ?」
男が恐る恐る尋ねると明日次の顔が曇った
「爆弾でやられてたよ。あまり詳しくは言わないが酷い状態だった。気を引き締めろよお前ら。これが白猫、残酷な奴だ」
「その通りでございます。ぼーっとしてたら皆さん死ぬでございますよ」
声が聞こえたのは輪の中心から。つまり全員の背後から聞こえているのだがドア付近にいた明日次はしっかりと見ていた
ガラスケースの上に人が座っている
全身真っ白の服装に猫の仮面、間違いなく白猫本人だった
最初に反応したのは幸助で声が聞こえた瞬間反射的に動き出していた。ジャンプしながら後ろを振り返りその遠心力を利用してパンチを繰り出した
しかしパンチは当たっていなかった
白猫はその場で高く飛び回避した後、幸助を蹴り飛ばして再びガラスケースの上に着地した
蹴り飛ばされた幸助は凄まじい勢いで壁へぶつかるとそのまま動かなくなってしまった
そのあまりにも速すぎる出来事の連続に全員愕然として動くことを忘れていた
「いやー作戦失敗でございます。本当はこの部屋で爆発させるつもりだったのでございますが彼が一人で開けてしまうから驚いたでございますよ」
白猫はそんな様子を気にせずガラスケースの上で喋り続ける。わかっていたつもりだったはずだったが目の前で見て改めてわかった
こいつは強いし危ないと
次に動いたのは明日次。いつの間にか手には剣を握っていて白猫へと切りかかるがそれも後ろに飛んで避けられた
「フムフム。あなた覚えているでございますよ。何度かお会いして手合わせしてるでございますね?」
「覚えててもらえて嬉しいなぁ!それじゃあ改めて自己紹介させてもらおうか」
部屋の端にいる白猫に向かって剣先を向けると明日次は叫んだ
「星降守護部隊の佐渡明日次!称号は 射手座!序列は7だ!」




