佐渡明日次
「何者だテメェは?こっちは金がねぇ宿もねぇお船も明日まで動かねぇで疲れてイラついてんだ。しょーもねー用ならぶっ飛ばすぞ」
(ぶっ飛ばす元気はあるんだ……)
突然現れた男に幸助は喧嘩腰でグイグイ突っかかっていく。そんな幸助にツッコミを入れようとした優輝だったがそんな空気でもなさそうなので黙っておくことにした
「確かに、知らないおっさんにいきなり声かけられて警戒しない訳ないよな。俺の名前は佐渡明日次だ。それと用があるのはお前じゃない。こっちの子だ」
「え?僕?」
素直にも佐渡 明日次と名乗った男は優輝を指差した。他人事のように思っていた優輝は不意をつかれ目を丸くする
「そうだ。さっきの活躍見せてもらったがなかなかできるヤツと見た。これならバイトも合格余裕だろ」
「さっきのってまさか……」
「察しがいいな。そう、あの飯屋だよ。あの身長差にビビることなく立ち向かい撃退しちまったんだからすげぇよ」
褒め倒す明日次に優輝も満更でもない表情をしている。しかしその様子をただ見ているだけの幸助は何一つ面白くない
「ところでそのバイトってのは何なんだよ」
「ん?あぁ警備だよ。お前らこの新聞読んでねぇか?」
そう言って明日次が取り出したのは一枚の新聞。その新聞には幸助達も見覚えがあるものだった
「それ俺達が詩巻でもらったやつと一緒じゃねぇか」
「何だ持ってんのか。なら話は早い。この一面のニュース見たろ?そこに名前が載ってる白猫からの警備だ」
明日次が指差したのは昼間幸助が気にしていた白猫の記事だった。狙われているという不死の花の持ち主が現在大慌てで腕の立つ者を集めているという
それでたまたま入った飲食店での優輝の活躍ぶりを見た明日次は声をかけてきたのだ
「俺もその警備のメンバーの1人でな。数は多い方がいいし、少し待ってもらえば専用の船が来る。休むとこもあるし金持ちで払いがいいから金もかなり稼げる。お前らにとってもいい条件じゃねぇの?」
明日次の提示した条件は幸助たちが今求めてるものを全て満たしていた
たった今会ったばかりの男で信用ならないとか本当にそんなうまい話があるのかとか疑い始めれば止まらなかったが最終的な3人の考えは同じだった
「覚悟を決めたって顔だな。間違っても断るなんて顔ではないし決まりだな」
明日次は携帯を取り出すと何処かへ電話し始めた。そして待つこと20分
大きな波の音に振り返ればそこに1隻の船がこちらに向かってきた
「迎えも来た。さあ行くぞ、花熊井へ」
4人は船に乗り込んだ
花熊井に着くまでの間、幸助達は明日次への疑いを少しでも減らすためとにかく話しをすることにした
「ところで警備ってどんなことするの?」
「まずは仕事の内容から話した方がいいかな。と言っても簡単だ。白猫から不死の花を守りきれば俺達の勝ち。盗られてしまえば負け。簡単だろ?」
「その白猫って奴はいつ何処からくるんだよ」
「日時は明日、6月20日の午後8時。これがその予告状のコピーだ」
明日次から渡された紙には予告状がカラーコピーされていた
ー6月20日午後8時 不死の花を頂きに参上するー
なんというかとても怪盗らしい文面に可愛い白猫のイラストが描かれた予告状だった
しかし紙に印刷されただけの予告状というのはとても信用する気にはなれない
「本物の予告状はどこにあるの?」
「本物は花の持ち主……俺はオーナーって呼んでるがそいつが持ってる。今も家で怯えてるだろうさ」
「俺達以外にも人はいんのか?」
「いるぜ。つっても10人くらいだがな」
「思ったより少ないな。金目当てにかなり人が集まってると思ったぜ」
「花を守りきらなきゃ報酬は出ない。簡単だと言っても危険は伴うからな。集まってるのは腕に自身がある命知らずのバカばっかだ」
危険?命知らず?この2つの単語が優輝の頭の中に深く残った。その言葉の意味を優輝は確かめられずにはいられなかった
「危険って……侵入した白猫を捕まえるだけじゃないの?」
「その通りだが奴も捕まらない為に抵抗するだろ」
どうやらとんでもない思い違いをしていたのかもしれないと優輝はここで漸く理解した
そして聞きたくはなかったが確かめなければいけないことをストレートに聞いてみた
「白猫ってもしかして……強いの?」
「強いなんてもんじゃない。化物だ。俺も仕事柄何度か奴と対峙してるがあれはハンパないぞ」
同じ泥棒だとしてもネズミと龍じゃ訳が違う。優輝はネズミの方で物事を考えてしまっていたのだ
そりゃそうだ、ネズミ1匹捕まえるのにオーナーが家で怯えるはずもない。大慌てで高い報酬で腕自慢を集めるはずがない
優輝は自分の単純な思考を呪った
明日次はそのまま白猫の話を続けていたが落胆した優輝の耳には当然入っていくはずもなかった
そうこうしているうちに船は花熊井へと到着した。船を降りて1番最初に目に入ったものは大きな花畑だった
「綺麗なもんだろ?花で有名な街が花熊井だ。観光地として毎年多くの人が来てるんだぜ」
あまりの美しさに3人が目を奪われていると明日次に急かされた。まずはオーナーの元へ挨拶に行かなければならないようだ
オーナーの家は街の中心に建つ大きな家で周囲を色とりどりの花に囲まれた場所にあった
「戻ったぜオーナー。さっき電話で言った腕の立つバイト希望者2人も一緒に連れてきた」
「やあよく来てくれたね。私がこの家の家主だ」
そう言って近寄ってきたのは小さな小太りの中年男だった。50歳くらいだろうか
失礼だとは思うが化物に怯える姿が容易に想像できる
幸助と優輝は軽く挨拶を済ませ不死の花が飾られている部屋へと案内された
部屋は大きな広間になっていてその中央に台座とガラスケースが置かれている
その中で鉢植えに入れられ輝きを放つのが今回の主役となる不死の花だった
「金色に輝いて綺麗だろう?私の花壇である日突然金色の花が咲いてね。今は10年目になるだろうか……今でも枯れることなく輝きを増すことから不死の花と呼んでいるんだよ」
「うおぉ……すげぇ綺麗だな」
「こりゃ盗みたくもなるね」
「そんなことは絶対にさせん!次は君達と共に働いてくれる頼もしい仲間を紹介しよう」
次に案内されたのは食堂。中では屈強な男たちが食卓を囲み食事を頬張っている
「みんな!紹介しよう。新しくメンバーになってくれる幸助君と優輝君だ!」
すると男達は食べる手を止め食器を置くと一斉にこっちを見た
『見た』というよりは『睨んだ』という方が正しいのかもしれない。一緒に協力し合う仲間のはずなのにビリビリと伝わる殺気が痛い
「な、なんか歓迎されてみたいなんだけど……」
「あ、あぁ〜。多分報酬が歩合制だからかもな」
「歩合制?あと幸助睨み返さないで」
「活躍に応じてオーナーが支払う金額変えるんだとよ。その方がやる気も出るとか言ってさ。つまりあいつらからすればお前らは第2の敵みたいなもんさ」
「なるほどね。真剣なんだか遊ばれてるんだか……」
「失礼な!大真面目だ!」
仲間とのファーストコンタクトはとても最悪なものとなってしまった。明日次からは気楽にやればいいと言われたもののやはりその時が不安になる優輝であった
「とりあえず俺らも飯にするか。これ見てたら腹減った」
「そうだね。僕も働いてお腹ペコペコだよ」
「そういうことならついてこいよ。俺が奢ってやるからよ」
明日次に連れられ入ったのはオーナーの家の近くのラーメン屋
店主とその奥さんと2人で経営してるためあまり綺麗とは言えないが油のついたメニュー表、赤で塗装されところどころ削れたあとの残る木の机などこれぞラーメン屋と言うべき雰囲気が漂っていた
「すいません。醤油ラーメン3つ大盛りで」
「こんな夜遅くに何食わせんだよ」
「文句言うなら奢んねーぞ。それに深夜のラーメンはいいぞー。酒を飲むようになればわかる!」
時刻は既に0時を過ぎ日をまたいでいる。そんな深夜に素性のよくわからない相手とラーメンを食べるこの光景が気持ち悪く感じた
「テメェ、一体何企んでやがる」
「何が?」
仏頂面で尋ねる幸助と子供のように純粋な顔で答える明日次
「さっき他の奴らに会った時にライバルだからってあんな顔をされたんだ。それがお前は真逆だ。俺らに恩でも売ろうってか?」
「そんな訳ないだろ。俺はたとえ短い時間だろうと一緒に働く仲間と仲良くしたいだけさ。それに俺にはあんな真似する必要ないしな」
「お金には興味なくて、最終的に白猫が捕まればいいってこと?」
「ちげーよ。あの中で俺がーーーーー」
瞬間、幸助達は全身に物凄い寒気を感じた。さっき男達に睨まれた時とは比べ物にならない程の殺気
目の前に座り不敵な笑みを浮かべるこの男は果たして数秒前まで純粋な笑顔で話してた男と同一人物なのかと疑ってしまう程の変わりようだった
「ーーーーー1番強いからに決まってるだろ」
幸助と優輝の箸を持つ手からはじんわりと汗が滲み出る。2人自身、その感覚がハッキリと分かるほど全身の神経が敏感になっていたのだ
「どうした?手が止まってるぞ。早く食っちまえ」
また屈託のない笑顔に戻った明日次は餃子をひと皿追加すると食べかけのラーメンを再び啜り始める
美味しいラーメンを食べているはずなのに明日次のことが気になる2人はラーメンの味を楽しむどころの話ではなくなっていたがしっかり食べ切った
「それじゃあ明日はよろしくな。ゆっくり休めよー」
オーナーの家へ戻ったところで明日次と別れ用意された自分達の部屋へ向かう幸助達
「なんなんだあの不気味なおっさんは」
「あれ普段は優しいけど怒ると怖いタイプの人だよね」
「はいはい。今は明日次じゃなくて白猫のこと気にしなきゃ。気を引き締めなきゃ死ぬかもしれないよ」
クロの言葉を冗談半分で受け流し各自ベッドへ潜り込む
しかし3人はまだ知らない
明日の夜、今まで体験したことのない悲劇が彼らを待っていることを




