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それぞれの時間 優輝

「花熊井……白猫……」


詩巻を出発する際に貰った新聞を手に幸助はブツブツと呟いていた


ー『白猫』再び現る 次の狙いは『花熊井』の『不死の花』ー


一面に飾るこのニュースが幸助の興味を掴んで離さない

他には『お手柄星降守護部隊!強盗犯を見事確保!』『7日間行方不明だったお騒がせおばあちゃん見つかる「私より強いヤツを探しに」』『本日の詩巻テレビ一覧表』

と、非常にどうでもいいニュースばかりだった。それだけにこのニュースの存在感はより一層際立って新聞を見るもの全ての目を引いた


「さっきからなんで新聞とにらめっこしてるのさ。君に新聞は似合わないよ」


「余計なお世話だ。それよりなんだよこの写真、お前の友達か?」


人々の目を引くのにはニュースのタイトルの他に写真にもあった

物騒な内容にも関わらず写っていた写真には可愛らしい白猫のイラストが描かれていた


「知らないよこんな奴。でもちょっと面白そうだ。次の目的地はここにしよう」


白猫とはなんなのか。それを確かめる為3人は花熊井はなくまいへと向かう事に決めた


だがしかし


「花熊井?あそこは離島だから行くなら船に乗る必要があるよ」


道行く通行人に尋ねたらそう言われた


「そ、それってお金かかるんですよね?」

「ハハハッ当たり前だろ。と言っても片道1500円くらいだよ」


礼をして通行人と別れた直後すぐさま財布を確認する3人

財布の中身は詩巻で見た時と何も変わっていない。相変わらず寂しいままだった

1度財布を閉じて何かを願うように強く握り締め再び開くがそんなことは無駄である

財布の中身は変わらなかった


「とゆーかお金なしでここまで来れたことが凄いよね。ビックリだよ」


「今まで助けてもらってばかりだったからね。感謝しなくちゃ」


優輝の呆れ気味の皮肉にクロは頷く


「おい、これ見ろよ」


再び新聞に目を通していた幸助が何かを見つけたようでその部分を指差し2人に見せた


【アルバイト募集!ホール&キッチン】


飲食店のアルバイト募集の記事だった

時給950円

時間13:00〜21:00(休憩1時間)

賄いあり

資格職歴問わず経験者優遇します


どこにでもあるような普通の内容だったが今の彼らにとっては希望の光。このチャンスを逃すわけにはいかない

場所もここからそう遠くない。誰かがやろうと決めたわけではないが3人の足は自然にそこへと向けて動き始めていた




「いやぁまさかこんなに早く応募が来るとは思わなかったよ」


騒がしい店内、忙しない厨房、から離れた休憩室に通された幸助と優輝は店長を名乗る男の話を聞いていた

クロは働くことはできないので今回はお休み。店の屋根の上でノンビリと2人の働く姿を想像して笑っていた


「じゃあこれから面接を始めるんだけど、初めに何でうちで働こうと思ったのかな?」


「すぐに金が必要でここが近くにあっただけです」


働く意志があるのだから面接などせずすぐに働かせてくれればいいのに。言葉には出さないが態度に表れ面倒くさそうに答える幸助と頷く優輝に店長の顔が少し引き攣る


「(やけにどストレートだな……)そ、そうかい。ところでなんでそんなすぐにお金が欲しいのかな」


「花熊井に行くためです」


「(片道1500円くらいだぞ!?金なさすぎるだろ!)それじゃあどのくらい働けるのかな?」


「3日くらい……」


「(日雇いのとこ行け!)そ、そうだねー3日ねー」


店長は思った。断ろう。この見るからにヤバイ爆弾を店に置くわけにはいかない

後はいくつか質問をして適当な理由をつけて返そうと


「それじゃあ飲食店で働いたことはあるかな?」


「父さんのお店をよく手伝ってました」


この面接で初めて優輝が口を開いた

そしてこの一言がきっかけで店長の考えをひっくり返して無事採用となった


「お!おかえりー……って幸助だけ?優輝は?」


店から出てきた幸助は腕を組み何やら納得のいかない顔をしていた


「俺はダメだった」


そう。採用されたのは優輝のみで幸助に関しては店長が予定してた通り適当な理由をつけて返されてしまったのだ


「大体働ければいいんだから面接なんかいらねぇだろ。偉そうにしやがってあの店長」


「まぁ君に原因があるのはなんとなく想像つくけどね。とにかく今は優輝が頑張ってくれるのに頼るしかないよ」


「そうだな。それにしても腹減った……」




「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」

「ご注文を承ります!」

「お待たせ致しました!唐揚げ定食とトンカツ定食です!」

「ありがとうございました!またのご来店お待ちしております!」


毎日繁盛している剛也の店を手伝っていただけあって優輝の期待以上の働きっぷりは素晴らしいもので店長も思わず感心して口元が緩む


「すごいよ優輝君!このままずっとうちで働いてもらいたいくらいだ!」


「いやぁ、旅の続きがあるんで長居はできないですよ」


「ところで優輝君はなんで旅をしているんだい?」


「なりたいものがあるからです」


「なりたいもの?それはなんだい?」


「秘密ですよ」


「そうかい。ひとまずお疲れ様。裏で休憩してていいよ」


店長にそう言われたので裏へと引っ込む

先に休憩室で休んでいた人達にも働きぶりを絶賛され店長と同じことを言ってきた

その後たわいない話を続けていると休憩時間が終わったのでホールへと戻り接客の続きを行う


「すいませーん!お願いしまーす」


「はーい!少々お待ちをー……って幸助!?なんで そっち側にいんだよ!」


注文を呼ぶ声がした。当然優輝は反応し振り返る。そしてそこにいたのは先ほどまで一緒に面接を受けていた幸助だった


「ワリーな。暇だし腹減ったから飯食おうと思って。牛ステーキ定食頼む」


「まったく……お金がないから稼いでるのに使っちゃ意味無いじゃん。さらりと1番高いヤツ頼むなよ」


「俺も時が来たらちゃんと働くって」


「働いてない奴はみんなそういうんだよ」


適当な返事と軽い説教を交えて優輝は厨房へと消えていく。悔しいが働くことに関しては優輝は幸助より何倍も上手だった


「なんだよ説教しやがって。いつかの仕返しか?」


ブツブツ文句を言いながらテーブルの上のコップを手に取り冷えた水を飲む

しかし自分は今回役に立っていないのは事実

幸い優輝の調子は良さそうなのでこのまま頑張ってもらうとしようと思っていた


「お待たせ致しました。牛ステーキ定食です」


運ばれて来た牛ステーキ定食を目の前にすると口の中からジワッと涎が溢れようとしてくるのがわかる

光に照らされ輝く肉汁が食欲をそそる

早速箸で1切れ掴み口の中へ運ぶ


「………うまっ」




そして時は流れ時刻は20時

夕飯時ということもあり店内は徐々に騒がしさを増していく

家族連れ、仕事を終わりであろうスーツを着た男達、友人と夕飯を楽しむ女の子

様々な声が飛び交っていた


「あと1時間だからもうひと踏ん張りだよ、優輝君!」


店長に励まされ今一度気を引き締め仕事を行う優輝

あっちこっちで声を掛けられ目が回るような忙しさが彼を襲う

それをなんとか捌いていくがそこで事件は起きた


「なんだとテメェ!もっぺん言ってみろやゴラァ!」

「何度でも言ってやらァ!この性欲の噴水!性欲武勇伝!」


とあるテーブルで金髪を逆立てた若い男とピッチリ固めたオールバックのスーツ姿の初老男性が言い争っている

テーブルの上には空になったお酒の空きグラスが並んでいることから酔っ払い同士の喧嘩だろう。周りの友人と思われる人物達は止めるどころかやんややんやと囃し立てて現場は一触即発の状態となっている

喧嘩の原因など全く興味はないのだがこれ以上事が大きくなるのは店的にはマズイ


「お客様!他の方の迷惑となりますのであまり大声を出されるのは……」


店長がオドオドしながらも止めに入るが完全に腰が引けてしまって威厳なんてものはカケラもない


「うるせぇな〜。引っ込んでろよ!」


初老が店長を突き飛ばす。他のテーブルへぶつかり食器が落下し大きな音を立てて割れる

周囲からは悲鳴が上がり、子供の泣き喚く声が響く

店員は皆、突然起きた非常事態になす術なくただ見ていることしかできなかった


1人を除いては


「おい、暴れるなら外でやれ。店の中で騒ぐんじゃない」


優輝が間に入って2人を睨みつけた。店長と比べればまだ威厳があったかもしれないが遺憾ながら優輝は身長が低く、体も細い


「オイオイ、子供は引っ込んでろよ。痛いの嫌だろ〜?」


当然男達が怯む様子は微塵もなく、金髪が小馬鹿にした様子で優輝の胸ぐらを掴み、引き寄せ睨み返す

しかし優輝の態度は変わらず今もなお睨み続けている

それが金髪の怒りの引き金を引いた


「いつまでも睨んでんじゃねぇぞガキコラァ!」


金髪が優輝の顔目掛けて拳を振りかぶるがそれと同時に優輝の頭突きが金髪の顔面を捉えた

たまらず掴んでいた胸ぐらを離し、後ろへと2、3歩よろめく。直撃した鼻からは次第に血が流れ始め口を伝い顎から床へと垂れた


「いってぇなぁ!ぶっ殺してやるクソガキィ!」


鼻を抑えていた右手を離し、再び殴りかかるが優輝はそれをしゃがんで難なく避ける。そのまま金髪の懐へ潜り込み肘で鳩尾を打った


「鍛えられた兵士とか喧嘩慣れしたチンピラならともかく一般人に負ける気はないよ。早くコイツ連れて帰れ」


痛みでしゃがみ込み血やら涎やらを垂れ流す金髪を見下しながらその友人にも店から出ていくよう命令する

目の前の出来事が信じられない様子の友人達はただただ呆然と眺めているだけで優輝の言葉で我に返った


「お、おい行こうぜ」


男達は各々財布からお金を取り出し机の上に置くと金髪に肩を貸し、2人がかりで連れて帰る後ろ姿を数人の友人が追いかける形で店から出ていった


片方を片付けた後でもう片方、初老へ優輝が視線を移すとわかりやすいくらいあからさまに目を逸らし、吹けてないが一生懸命に口笛を吹く真似をしていた


「よし!これで一件落ちゃーーーーー」

「ちょちょちょちょちょ!!ちょっと待って優輝君!」


店内はテーブルが倒れたり、割れた食器が散乱しているがいざこざは無事治まり周囲の人々へ大きな被害もなかった

解決かと思いきや店長が慌てて優輝の元へ駆け寄ってきた


「どうしました店長?」


「どうしたもこうしたもないよ!助けてくれたのはありがたいけどお客様さん殴っちゃダメでしょ!」


「でもうちの店はいつもこうしてました」


「どんだけヒドイのその店!?」


もちろん優輝に悪気はない。今まで見て過ごしてきた環境が少し特殊だったこととそれがここでは通用しなかっただけのことであった

それだけのことだったがそれはここでは大きな問題になる


騒ぎが終わる頃、時刻はいつの間にか21時。優輝は店長に連れられて休憩室にいる


「1日お疲れ様。これ、給料ね」


「ありがとうございます」


店長から渡された封筒の中には1日分の給料が入っていた。初めて自分の力で稼いだお金を受け取ると嬉しさがこみ上げて来てにやけてしまう

が、幸せな瞬間は一瞬だけだった


「それで悪いんだけどーーーーー」




「おっ!帰ってきた。おーーーい優輝ーーー!」


肩を落としトボトボと歩く優輝を真っ先に迎えたのは幸助とクロだった


「あぁ幸助………ってなんでそんなにボロボロなの!?」


「まぁ色々あったんだよ。それよりお前こそ元気ねぇじゃねぇか。どうした?」


「暴れてるお客さんを止めようとして殴ったらクビにされちゃったよ」


「はぁ!?なんだそりゃ?普通のことじゃねぇか!ちょっと文句言ってくる」


「やめなよ。止めるためとは言え殴るのは良くない。それにお金は稼げたんだしいいじゃないか」


興奮する幸助をクロはなだめる。優輝は店長からもらった封筒を取り出して中身を確認すると6650円入っていた

花熊井までは片道1500円なので幸助と優輝2人で3000円。往復で6000円だからギリギリ足りる計算にはなるがそれだけではやはりこの先の旅がなんとかなるとは思えない


ひとまずお金の悩みは置いといて花熊井へ向かうことにした3人だったが


「今日の便はもうお終いだよ。また明日おいで」


船がない


「船がないって明日までどーしよー!」


「どうするってお前、そりゃその辺で寝るしか……」


「嫌だよ!詩巻みたいなことになったらどうするのさ!」


頭を抱える3人の前に突然声をかける1人の男が現れた


「お前ら色々困ってるみたいだな。いいバイトがあるんだが、どうだ?」



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