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歌輪onstage

紫艶の謝罪から一晩明けて町の修繕計画は始まった


紫艶の大量の部下に幸助、優輝を加え作業に励む。

幸助は自分が壊した民家を、優輝は地面に空けた穴を、笹江家の扉は笹江家の人間の3組に別れて行っていた




「てっきり俺と優輝をバラけさせた後で袋叩きにするもんだと思ってたんだけどな」


幸助は隣で作業していた虎太郎に話しかける。『あんたも民家に突っ込んだんだから同罪よ』という理不尽な理由で虎太郎もこの場所での作業に参加していた


「そうしてやりたいとこなんだけどな。お嬢にまた叱られる訳にはいかねぇよ」


初めて会った時も虎太郎は言っていた。『お嬢にどやされるから』と。昨日も紫艶の前では虎が猫に見えるほど大人しかったことが気になって幸助は聞いてみた


「お前はなんでそんな強いのに笹江の言いなりになってんだよ?」


「俺はあの人に返そうと思っても返しきれねぇ恩がある。俺だけじゃねぇ、あいつらもみんなそうだ」


虎太郎は近くで作業している男達を見ながら即答した。過去に何があったのかを詳しく話してはくれなかったが要するに自分とクロのような関係なんだろうと解釈した幸助は興味なさげに「ふーん」と返すとそれ以上喋らなかった

次は虎太郎が幸助へ質問した


「じゃあお前はなんで俺達の前に立ちふさがった。なんで出会ったばかりの天羽歌輪の為にあそこまで体を張れるんだ?」


「人の幸せと世界を救うのと俺が爺さんになるまで生きるためだ」


虎太郎に張り合うように幸助も即答する。虎太郎にとって幸助が何を言っているのかはサッパリ意味不明だったがそれでも虎太郎は「ふーん」と返した


そして作業も終盤に差し掛かったある日幸助と優輝は紫艶から呼び出された。訳を聞くと歌輪をここへ呼んできて欲しいとのことだった

あの日以来歌輪は町に来ることはなくずっと家にいるようで自分で呼びに行こうにも場所を知らなかったので知ってるであろう幸助達が呼ばれたのだ


「歌輪、ずっと悩んでるのかな」


「町を出る気はないって言ってたんだから迷う必要なんてないと思うけどな」


歌輪の心中は歌輪にしかわからない。3人が色々と予測を立ててるうちに歌輪の家へと着いた

戸を叩くと歌輪はすぐに出てきたが如何にも悩んでいますと言わんばかりの難しい顔をしている

紫艶が呼んでいることを伝えると身支度を済ませすぐに家を出た


「答えは出たの?」


「いえ、まだハッキリとは…」


「町を出る気はなかったんじゃないのか?」


「そうなんですけど…」


「悩むってことは何か理由があるんでしょ?話してくれないかい?」


煮え切らない態度の歌輪にクロは優しく話しかける


「はい。実は迷ってるんです。私は昔星降で見たコンサートに影響されて歌を歌い始めました。そしてそれをこの町の人達は優しく見守ってくれて…お金がないから町を出るなんて考えたことなかったけどーーー」


「紫艶の言葉を受けて迷ってるんだね」


歌輪は頷いた。幸助と優輝はどう言葉を掛けるべきかわからず黙っているだけだった

その重苦しい雰囲気のまま向かう笹江家へ道のりはとても長く感じた


「あら、呼んできてくれたのね。ありがとう…ってなんでそんなにゲッソリしてるのよ」


「なんでもない」

「なんでもないよ」


「そう、ならいいけど。そうだ歌輪ちょっと見て欲しいものがあるの」


そうして連れて来られたのは笹江家の正面。紫艶が会見を行ったところである

扉の修繕はいつの間にか終わりその目の前には地面が盛り上がりステージのようになっていた


「町の修繕が終わったらあなたにこのステージで歌ってもらいたいの。そしてあの時の答えを聞かせて欲しい。あなたの顔を見れば悩んでいることはわかるし難しい選択を迫っているのもわかるけど私は本気なの」





「なーんて言ってたけどやっぱり難しいよねー」


「はい。やっぱりどうするべきなのか自分でもわからないです」


紫艶の言った町の修繕が終わったらという約束の期日までは残り2日くらいだった

壊れた家や道はすっかり元通りになり、修繕が終わるまでというよりはステージが出来上がるまでと言った方が正しいのかもしれない


「そもそも私はまだ15歳の子供です。自分の人生が決まるかもしれない選択なんてーーーー」


「15歳。だからこそじゃないかな?」


クロが歌輪の言葉を遮った


「15歳なんていくつもの可能性を秘めた可能性の塊だよ。失敗したってまたすぐに立ち上がることが出来るんだ。恐れず沢山のことに挑戦してみればいいじゃないか」


クロの言うこともわかる。だからこそ歌輪は何も言えず言葉が出てこなくなってしまった


「俺はこの何日か虎太郎と一緒に作業してて少しだけ笹江のことがわかった気がする」


クロに便乗するように今度は幸助が口を開いた


「あいつは本気だったからこそあんなムチャクチャな方法使ってまで歌輪を追っかけてたんじゃねえのかな。そんならお前も本気でぶつかってやりゃいいんじゃねぇの?」


「そう…ですよね。誰かに話を聞いてもらったら少し気が楽になりました。今日はありがとうございました」


そう言って歌輪は頭を下げると駆け足で去っていった。残された幸助達にはまだ少し重苦しい空気がまとわりついていた





そして2日後ーーーーー


予測通り町の修繕もステージの完成も完璧に仕上がった

歌輪はと言うとあれから姿を見たものはおらず、心配した優輝は様子を見に行こうと言ったが邪魔するべきではないと幸助に止められたりもした


現在幸助達は笹江家の正面、完成したステージの脇に紫艶と虎太郎と共にいる。ステージ前には既に沢山の人々で溢れかえっていた

それもそのはずで紫艶の指示で部下達が作業の終了祝いで歌輪が歌を披露すると事前に町民に告知して回っていたからだ


しかし当の本人はまだその場に姿を現してはいなかった


「お嬢……天羽歌輪は来るでしょうか」


「どうかしらね。本人の意思関係無しに勝手にやったことだからわからないけど来なかったら大ブーイングの嵐なのは確実だわ」


「もしそうなったら俺がやった奴ら全員ブッ殺してやりますよ」


「やめなさいおバカ」


脇腹へチョップをもらう虎太郎

紫艶は口では平静を装っていたが心配そうな表情、腕を組み人差し指を細かく動かすその様子は明らかに焦って落ち着かないというものだった


「呼んできた方がいいんじゃないかな?僕行ってくるよ?」


「やめなさい。無理矢理ここに連れてきたって意味ないじゃないの。それに時間はまだあるわ」


わかりやすく慌てている優輝を紫艶は止めた

腕の時計を見ると予定していた時刻まで残り5分

歌輪は来ないのだろうか、次第に口数は減りついに誰も声を発することはなくなった


「すいません!遅くなっちゃいました!」


張り詰めた空気を吹き飛ばすように現れたのは歌輪だった

走って来たらしく汗だくで息を切らし膝に手をつき肩で呼吸をしている


「ありがとう来てくれたのね。ところでこの間と顔つきが変わったのは答えが出たってことでいいのかしら?」


「……はい。でもそれは置いといて、今は待ってくれた皆さんの元へ行ってきますね」


歌輪は深呼吸を数回行い息を整えるとステージへと向かっていった

そしてステージ中央に立った歌輪を見て観客は待ってましたとばかりに大きな声援を送る

声援を全身に浴びた歌輪が目を閉じゆっくりと胸に手を当てると


どうしたことだろうか

声援を送り収まる気配を見せなかった観客は急に静かになり物音一つ立たなくなった

人々だけではない。揺れている草木、縦横無尽に駆け抜けていた風、広大な空を自由にさえずり回っていた鳥

それら全てのものが彼女の歌声を聴くことに命を掛けるかのように全ての動きを止めた


完全な静寂に包まれた会場は歌輪の小さな呼吸音でさえよく通り抜けた


歌い始めるとそこはもう歌輪の独擅場だった

会場に響き渡る歌声は生物無生物関係なく全てのものを魅了し視線を独り占めしている

歌が進むに連れて観客の中には無意識で涙を流すものなども現れた


そして歌が終わるとまるで止まっていた時が動き出したかのように拍手と先ほどとは比にならないほどの歓声が歌輪を包んだ


そのまま歌輪は次の歌を歌い始めた

前の歌が春の陽気の中を静かに流れる小川だとするならばこれは夏の夜空を彩る花火のようだった


歌が変わると客も変わる

さっきまで静かに聞いていたはずが今度は全員が拳を突き上げ跳ね回っている

これまた違う一体感を見せた


しかし楽しい時間が過ぎるのはあっという間でその後2曲歌った歌輪は惜しみない拍手を送られステージを去っていった




「素晴らしい歌だったわ。お疲れ様」

「全くだぜ。感動しちまったよ俺ァ」

「歌ってこんなにすげぇもんだったんだな」

「聴く人が幸せになる意味がわかったよ!」


「皆さんありがとうございます。おかげで夢のような時間を過ごすことができました」


「それは良かったわ。それじゃあ空気を壊すようで悪いけどあなたの答えを聞かせてもらえないかしら?」


和気藹々としていた空気は紫艶の言葉で瞬時にその顔を変えた。全員に緊張が走りツバを飲み込まずにはいられない

緊張は歌輪にもヒシヒシと伝わっていた

それでも自分と向き合って出した答えを口に出さなければいけない

それが自分を見込んでくれた人に対する礼儀なのだから





「私は……紫艶さんについていくことにしました」


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