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紫艶の目的

ー勇泉の村ー


「優輝達、無事に歌巻に着いたかな」


「幸助がついてるんだ。心配ないだろ」


時刻は昼過ぎ。お昼のピークを終え、客もまばらになった不動家の店内でカウンター席に座っていた泉がぽつりと呟きその正面で中華鍋を振っていた剛也もぽつりと返す


「そういえばお父さん」


「なんだ?」


剛也は出来上がった料理を綺麗に皿に盛り付け泉の前に置く。すると泉は皿を取り席を立つ

そして料理を心待ちにしている客の前へと笑顔で差し出した

再び自分が座っていた席へ戻る泉


「この間の歌巻の金持ちの話をしたじゃない?その話の続きなんだけどーーー」


「続き?まだなんかあるのか?」


「うん。気にいらないものは消すって話なんだけど、逆に気に入ったものがあった場合は何が何でも自分のものにしないと気が済まないんだって」


「要するに自分の為なら手段を選ばないとてつもないわがまま女王ってことか」


「あくまで噂なんだけどね。あ、ありがとうございまーす」


泉は客の会計を済ませるために席を離れた


この2人はもちろん知らない

優輝達がそのわがまま女王とその一味と激しい戦いを繰り広げている最中だということなど知る筈もなかった



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


紫艶が思いっきり怒鳴った後の笹江家は静寂に包まれていた

近くにいた幸助はもちろん距離をとっていた優輝達でさえも耳を塞ぎ驚きに目を丸く見開き紫艶を見つめていた


紫艶の怒りは収まることはなく再び大声で怒鳴り散らす


「大体あんた達何者よ!いきなり人ん家ぶっ壊しておいてなんでそんな勝ち誇った顔してんのよ!?常識なさすぎでしょ!」


紫艶の言っていることはぐうの音も出ない程の正論だった。飲みすぎで寝ていたらいきなり轟音と共に家の扉がめちゃくちゃに破壊されていたのだから怒るのも常識を疑うのも至極当然のことだった


しかしそれは常識のある人間だからこそ吐いていいセリフである


「部下使って1人の女の子消そうとしてる奴が常識を語んじゃねぇこの非常識!」


幸助に言い返され更に怒りが増すと思われた紫艶だったが今は頭上にクエスチョマークを浮かべていた


「ハァ?消すって何よ?」


「いやだから、歌輪のことが気に食わないから部下を使って消そうとーーーー」


「あんたなんか勘違いしてるわよ」


今度は幸助の頭上にクエスチョンマークが浮かんだ

どうやら2人の間で大きな食い違いが起こっていたようだ

ついさっきまでの緊迫した空気はどこへやら。安全だと判断した優輝達も幸助の元へやってくる


「私は別にその子が気に食わないから追いかけ回してたわけじゃないの」


「じゃあなんでだよ?気にいらない奴をどんな手を使っても消すのがあんたのやり方じゃないのかよ」


「随分酷い言われようね。間違ってないからいいけど。それともう一つ、私は欲しいものがあったらどんな手を使っても手に入れる女よ」


「あれ?それってまさか…」


冷静になってこの話を聞いて優輝とクロは全てを理解した。幸助はまだ理解出来ずクエスチョンマークを浮かべたままである


「まったくわかんねぇ。どういうことだ!教えろ!」


「だから、私はあの子を殺そうとしたとかじゃなくてあの子が欲しかったの。これでわかった?」


これで漸くこの場にいる全員が全てを理解した。事の始まりは紫艶の歌輪に対する嫉妬が原因だと思っていたがそれは勘違いだったようで実際は歌輪が欲しかったという真逆の理由だった


「でもそれならそれでもっとやり方があったんじゃないの?わざわざ怖い男達を使わなくても……」


「何を言ってるの?そっちの方が早いからに決まってるじゃない。今回は思ってもない邪魔が入ってきちゃったけど今まではそうやってやってきたんですもの」


優輝を一度睨みつけたあと視線を歌輪へと移す。そして歌輪へ向けて歩こうとすると咄嗟に幸助が2人の間へと割り込んだ


「これ以上邪魔すんじゃないわよ。そんな警戒しなくても何もしないわ。これからは私とこの子の1対1の時間なんだから」


そして幸助を避けて今度こそ歌輪の目の前に立つ。幸助は自分の横を通り過ぎる紫艶を止めることはしなかった


「天羽歌輪。あなたの声と見た目に惚れたわ。だからこそこんな小さな町で燻らせておくわけにはいかない。あなたはもっと大きな舞台に立てる。どう?私についてくる気はない?私ならもっとあなたを耀かせてあげることが出来るわよ?」


突然の提案に歌輪は言葉が出なかった

何故なら今までは自分を憎んでると思ってた相手が実は自分のことを気に入っていて、更に評価しているなんて思ってもいなかったから

本音を言えばこんな話乗らないはずがないのだが


「少し……考えさせてください」


歌輪は返答を先延ばしにした


「そう。だけど私は諦めるつもりはないわ。ひとまずこの話もこの戦いもここでおしまい。それでいいわね?」


そう言って幸助へ視線を向ける


「もともと歌輪を殺そうとしてるアンタを止めるために始まった戦いだ。目的が違うってわかったらこれ以上争う必要もねぇよ」


幸助の答えにクロと優輝も首を縦に振って頷く


「そう。私のせいでだいぶすごいことになっちゃったのね。それならちゃんと責任取らなきゃね」


明日もう1度この家を訪れるよう紫艶から言われ、この戦いに終止符が打たれた。明日までの宿代は紫艶が負担してくれるようでこの町で1番高い宿を用意してくれた





「イッテテテ。傷だらけだぜまったく」


紫艶に指定された宿で3人は体を休めていた。大きな怪我はなく、ただ尋常ではない疲労を抱えていた優輝はベッドを見るなり倒れ込みあっという間に眠り始めた


「でも怪我も大したことなくて良かったね。君の丈夫さには毎度毎度感心するね」


「そんなこと言われても傷が治るわけでもねぇし嬉しくねぇよ。ホントは怪我せず勝ちたかったんだけどうまくいかねぇもんだな」


「相手も強かった。それだけさ。君は出会った時より確実に強くなってるんだ。今は悔やむより誇ればいいさ」


「そうだな。終わったことグチグチ言っててもしょうがねぇ。とりあえず明日に向けて今は寝るか」


部屋の明かりを消すと幸助もクロも電源が切れたように一瞬で動かなくなった




そしてあっという間に夜は明ける

昨日言われた通り笹江家へ来た幸助達はまだ瓦礫が散乱している玄関を通り中へと入る

そこで待っていたのは紫艶と虎太郎だった


「よう。昨日は世話んなったな」


「なんだよ。またボコボコにしてやろうか?」


「上等だ。表出やがれこの野郎!」


幸助の姿を見るなり虎太郎は喧嘩を売りに行った。もちろん幸助も買う気でいるため両者の間には既に火花が散っていた


「やめなさい。昨日あれだけ説教したのにまだ懲りてないわけ?」


「いやだってお嬢……」


「だってじゃない!」


「……ウス」


幸助は自分の目を疑った。昨日自分を追い詰めた名前の通り虎のような男が彼より小さな女に猫のように飼い慣らされている光景に


「いきなり見苦しいとこを見せたわね。あと1時間くらいで始まるからゆっくりしてて」


指定された時間にくるように言われただけの幸助達はこれから何が始まるかなど全く知らなかった

しかし言われた通りゆっくりしていると家の外が徐々に騒がしくなって来た

外を見ると家の前に人が集まり始めていて時間が経つに連れてその数は増していく

そして紫艶が言っていた時間にはかなりの数の人々が家の前を埋め尽くしていた

その人々の前に立つ人影が2つ

紫艶と虎太郎であった

手に拡声器を持った紫艶は話し始める


「皆様ご存知でしょうが昨日この町で大規模な戦闘行為がありました。それは全て私の私欲が原因であり皆様には大変怖い思いをさせてしまいました。本当に申し訳ございませんでした」


紫艶は町民を集め昨日起きたことについての謝罪を行った。その後も謝罪は続けられ町で被害があった場所の修繕と2度とこのようなことはしないと約束しその場を跡にした

理解を得られたのか雰囲気だけではとてもわからなかったが町民は野次を飛ばすわけでもなくただ黙って話を聞き、終わったらそそくさと帰って行った

そして賑わっていた笹江家の前はたちまち静かになったのだった


会見を終わらせた紫艶は幸助達の元へと戻ってきた

「何のために呼んだかと思えばアレを聞かせるためだったのか」


「そうね。悪いことをしてしまった以上、キチンと謝罪してケジメをつけなきゃ。でもそれだけじゃないのよ?」


「それだけじゃないってどういうこと?」


「あんた達にも町の修繕を手伝ってもらうためよ」


「「ハァ!?」」


「当たり前でしょ。というか町壊したのほとんどあんた達でしょうが」


幸助と優輝が思わず声を揃えた。その大声にも驚くことなく2人を指差し淡々と話を進める

紫艶に言われて2人は昨日のことを必死に思い返してみた


(俺は虎太郎をぶっ飛ばして2軒くらい家壊したっけ)


(僕は巨大化させたハンマー何回も振り下ろしたなぁ)


((ほとんどと言うか全部俺らが悪いじゃん!))


人を守るためとはいえ流石にやりすぎたと思った2人はこれ以上反抗することはなく黙って町の修繕に協力することにした


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