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幸助VS虎太郎

歌輪目当てに集まった町民はいつの間にか姿を消し、その場に残った者は幸助と虎太郎の2人だけとなった


「オラッ!」

幸助の拳が虎太郎の顔を捉える


「フンッ!」

負けじと虎太郎も幸助の腹へと蹴りを入れる

よろけた幸助を逃すまいと更に額、左頬、顎を殴った後、襟と袖を掴み体を寄せて投げ落とす

叩き付けられた幸助は受身が取れずのたうち回る


「ぼけっとしてんな!その腹踏みつけんぞ!」


虎太郎の追撃が止むことはない。声に反応した幸助は転がって踏み付けを回避し、慌てて立ち上がるがその足はふらついていた


「なんだよ、めちゃくちゃ強ぇな」


「クソ強ぇって言っただろ?俺は嘘はつかねえよ。どーした?もうギブか?」


息を切らしているがまだ余裕があるといった表情の虎太郎に対して幸助の息は乱れ、呼吸音は離れた虎太郎にもしっかり聞こえるほどの大きなものだった


「いいや、いい感じに昂ってきたところだ。まだまだ終わんねぇよ」


幸助は真っ直ぐ虎太郎を見つめ、ニヤリと笑う


「フラフラの癖に強がりは言えるんだな。いいねぇ、すぐ楽にしてやるよ!」


助走をつけ、ガラ空きの幸助の腹に拳で一撃。モロに入った。確かな感触に笑みを浮かべる虎太郎だったが幸助は微動だにしない

後ろへ倒れ込む様子もこちらへ寄りかかってくる様子もその場に崩れ落ちる様子も一切感じられずただそこに立ち尽くしている

下を向いているため表情も読めず今の幸助は虎太郎にとって非常に不気味に感じられた


(よくわかんねぇがなんかヤベェな。一旦離れねぇと)


「なんか前にもこんなことあった気がすんなぁ。あの時は拳じゃなくて腹に剣が刺さってたっけか」


幸助が話始めた瞬間、虎太郎は全身が凍りつくような寒気に襲われた。肌を覆っていた無数の汗は全て冷や汗に変わる。そして身体中の細胞が告げる


早くその場から逃げろ、と


従おうと思った時にはもう遅かった

腕をしっかり捕まれ離れることが出来ず幸助が拳を振り上げているのがハッキリと見えた


「ヤバイ!逃げーーーーー」

「もう遅ぇ」


虎太郎は殴り飛ばされ近くの民家の壁にものすごい勢いで叩き付けられた

そして舞い上がった砂埃が2人を静かに包み込んだ






「くっそ!さっきから敵が止む気配がないんだけど!」


優輝はハンマーを伸ばし、巨大化させ迫り来る敵を迎撃していたが終わりの見えない敵の攻撃に対して次第に苛立ちと疲労を隠せなくなっていた


(接近戦に持ち込まれたら僕は確実に負ける。だから遠距離から攻撃してんのにこれじゃあキリがないよ)


「優輝、一旦どこかに隠れよう。君の体力もそろそろキツイんじゃないかい?」


「そうだね。じゃあ右に見える細道に隠れるために……おりゃあ!」


優輝は1度ハンマーを縮め空へ向かって放り投げる。そして再び空中で巨大化させ、敵の集団の前へと落とした


落下したハンマーは凄まじい轟音をたて、町全体が揺れる。立ち込める砂煙に混じって素早くハンマーを回収して細道へと逃げ込んだ

細道を進み一つ目の角を曲がったところで優輝は倒れ込む


「だ、大丈夫ですか!」


歌輪が駆け寄り体を起こす。心配する歌輪に向かって優輝は小さく微笑んだ


「大丈夫。ちょっと疲れただけだから少しだけ休ませて」


そして小さくしたハンマーを掌の上に乗せ見つめ始めた


(何度も使ったことでなんとなくこのハンマーのことがわかってきた

まず1つ。大きさを変えるには僕自身の気持ちが大きく関わってくるってこと

楽しかったり興奮したり気持ちがプラスの時ほど大きく変化してビビったりして気持ちがマイナスの時はあまり大きくならない


そして2つ。大きくしたり伸ばしたりするのに比例して疲労が大きくなるってこと

大きくするのにも疲れるし、その状態をキープしてたらあっと言う間に体力持ってかれちゃうな)


「クロはとんでもない武器を吐き出してくれたね」


「好きで吐き出したんじゃないからね」




「くそっ!あいつらどこ行きやがった!」

「遠くには行ってないはずだ!」

「探せ!探せーっ!」


砂煙が晴れたようでさっきまで優輝たちがいた通りには男達の声が響き渡っている

この場所が見つかるのも時間の問題だと判断した3人は現状の打開策を考えつつ優輝を庇いながら奥へとゆっくり進んで行った






「おおっ、揺れたな。優輝がなんかやったのか?」


強敵、鰐鮫虎太郎との戦いを終え座り込む幸助は遠くで起こる轟音に驚きの声をあげる


「俺ももう少し休んだら追いかけなきゃな」


「呑気な…野郎……だな…」


「……マジかよ。まだ動けんのか」


先ほど殴り飛ばした虎太郎が瓦礫の山を崩し這い出て来た

血塗れの体をゆっくりと起こして再び幸助の前へと立つ


「ただのガキにこいつを使うのは気が引けたがテメェはただのガキじゃねぇようだな」


そう言って腰に差していたが一度も使っていなかった刀に手をかける

さっきまで戦っていた男と同一人物とは思えない程の殺気が幸助の全身に突き刺さり思わず震えてしまった


それが恐怖なのかそれとも武者震いなのかそんなことは幸助にとってはどうでもよく


「いいな。本気のお前を倒せれば俺はもっと強くなれそうだ」


「粋がってるとこ悪いんだが俺がこの刀を抜いちまったらーーーーー」


幸助の体をそよ風が撫でた

否、あくまでそれは感覚の話

そう錯覚するほどとても優しく静かなものだったのだ


すれ違いざまに一太刀浴びせたことは


「勝負は一瞬だ」


幸助の前方にいた虎太郎はいつの間にか背後へと通り過ぎていた

今頃幸助は自分の後ろで力なく崩れ落ちているだろう

その姿を想像しながら刀を鞘に収めようとしたがーーーーー





ーーーーー刀身がない





「なんかこんなこともあった気がすんなぁ。あん時は確かもっとぶっとい剣で今よりもっと早かったっけな」


その直後、静まり返ったその場に小さな金属音が響き渡る。虎太郎が目を向けた先にはなくなった刀身が落ちていた

そして虎太郎は直感する


自分が切る前にこの男に折られたのだと


自分が切ったと思った男は手から血を流している程度でそれでも元気にこちらへと近付いてくる


「あん時もそうだったな。呆然としてた相手の顔を、思いっきりぶん殴ってやった」


「こいつぁ勝てねぇや」


その言葉の直後に幸助の拳が虎太郎の顔に叩き付けられた

そして叩きつけられる寸前に虎太郎は幸助の右腕に何か黒い影を見た


吹き飛ばされた虎太郎はまた別の民家の壁に激突し本日2度目となる瓦礫の雨を浴びることになった


「ブレスレットに傷付いちまった。さてと、優輝を追っかけるか」


今もこの町のどこかで戦っている優輝を一刻も早く助けるために休んでいる暇などない。笹江家を見据えて一歩踏み出すが足に力が入らず膝を付いてしまった


「鰐鮫虎太郎。クソ強ぇ男だったな」


幸助は虎太郎が埋まっている瓦礫の山を見つめ自分と死闘を繰り広げた相手へ賞賛の言葉を贈った


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