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心強い仲間

優輝は焦る


(家でやった時はもっと大きくなったのに!)


何かの間違いだ。そう信じてもう1度ハンマーに念じる

(大きくなれ!)

しかしハンマーはうんともすんとも言わずそのままの形のまま黙り込んでいる


「クソッ!なんで大きくなんないんだよ!」


「なんだぁ?トラブルかよ」

ついに男達の中の1人が動き出した

「でけぇ口叩くしよくわかんねぇ武器出すしちょっとビビっちまったけどなんてことねぇ。やっぱりタダのガキだ」


ゆっくりと優輝との距離を詰めてくる

その歩き方といい口ぶり、表情、完全にこちらを下に見ている様子であった


「それに、よく見りゃ足震えてんじゃねぇかテメェ」


自分でも気がついていなかった。足元に目をやると確かに震えている

そしてそのことを知って、意識してしまうと更に足が震えて止まらなくなる


そうしている内に男は優輝の目の前まで迫っていた

恐怖に耐えきれず優輝はハンマーを無闇に振り下ろすがそれは男に軽々と受け止められてしまった


「完全にビビっちまってんじゃねぇかよ。ダッセェ」

男は優輝の肩を掴み自分の方へ引き寄せ、腹へと膝蹴りを入れる


優輝は鈍い声を出し、その場に崩れ落ちて呻き声を上げる

その様子を無視して男はその後ろにいた女性へと手を伸ばし腕を掴む


「さぁやっと捕まえた。俺達と一緒に来てもらうぜ」

「いやっ!離してください!」

「そうはいかねぇな。俺達のボスがアンタを許せねぇんだとよ」


この時優輝の脳内に姉の泉の言葉がよぎった


『自分が1番じゃないと気が済まないらしくて気に入らないものは全て消してしまうとかーーー』


この言葉と目の前で繰り広げられた僅かな会話で優輝は確信する


(この女の人が噂の少女だ。少女って言われてたから全く気づかなかった!この男はその金持ちの部下かなんかでこれからそのボスのとこへ連れていくんだ)


(なら、絶対に行かせちゃダメだ!こいつらを止めないといけないのに…なのに!)


(なんで動かないんだよ!僕の体は!)


優輝は立ちあがろうと体に力を込め立ちあがろうと奮闘するが体がそれを拒否するかのようにビクともしない

それどころか重りがのしかかっているかのような感覚に支配される


(ダメだ…。怖くて体が動かない。でも1度は立ち向かったんだし充分頑張ったよな)



「なんだよー。騒がしくて寝れねぇぞ」


張りつめた現在の空気に似合わないなんともノンビリとした声が響いた

それはゆっくりとこちらに近付いてくる。影に隠れた姿は月明かりに照らされ徐々にその姿を現していく


「…幸…助」


寝ぼけたまま目を擦り、まず目の前の2人の男、その次に倒れたままこちらを見つめる優輝、そして1番奥で嫌がる女性の腕を掴む男の順に視線を変えた。そこから目の前の光景を理解した幸助の顔は気の抜けていたものから瞬時に怒りに染まったものとなった


「おい、なんでそこに俺の仲間が倒れてんだ?」


「なんだ?お前このガキの仲間か。痛い目に会いたくなかったらならそこで大人しくしてろ」


「バカかお前は。この状況で大人しくできるやつがどこにいる」


「そうかそうか。じゃあお前ら、やっちまえ」


その男の声で待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべ、今まで後方で大人しくしていた2人の男は手の骨を鳴らしたり、肩を回したりと各々がやる気満々で幸助へと近付いていく


しかし男達が幸助の前に立ったかと思えば大きな衝撃音と共にまず1人目の男が壁に叩きつけられ、2人目の男は宙を舞った


落ちて来た男を踏み越え幸助は優輝へ歩み寄る

「大丈夫か?ってか何があったんだよ」


体を起こしてもらいながら優輝は小さく返事をすると同時にさっき自分の中に芽生えた確信を早口で話す


「そうだ幸助!あの人!あの女の人が噂の少女だよ!あいつに連れて行かれたらあの人きっと殺されちゃう!」


「噂の少女って嘘だろ?どう見ても少女じゃないんだけど」


優輝が何故確信を持ってその女性を噂の少女だと言えるのか理解出来ない幸助は目を丸くしながら女性を見つめている


「なんでそこまで言い切れんのかわかんねぇけどとにかくやばそうだな。よっしゃ、チャチャッと片付けてやる」


「チッ、次から次へとめんどくせぇガキだ。かかってこいよ」


男は女性の腕を乱暴に離し幸助と向き合う。その顔は苛立ちと怒りを浮かべ瞬きした瞬間には目の前の敵に襲いかかるであろう雰囲気に包まれていた


しかし実力はその辺にいるチンピラと変わらないだろう。まず幸助が負けることなどありえない

優輝は安堵していた


安堵していたはずなのだが


(なんだろう。このモヤモヤした気分は)


自身の胸の中に何かが引っかかる

しかしそれが何かは本人でもわからない

例えようにも上手い表現がない

形容し難い

それが非常に不快だった

目の前では既に2人の戦いが始まっていた

男は必死に拳を振り続けるが幸助はそれを全て軽々と躱している


(やっぱり幸助なら大丈夫だ。これで大丈夫、大丈夫)


「君はそれでいいのかい?」


「クロ…」


いつの間にか優輝の隣にいたクロは優輝の心を見透かしたような物言いをする


「どういうことだよ」


「さっき腹に1発もらってたじゃないか」


「…全部見てたの?」


「まぁね」


腹の痛みも一時のもので痛みが癒えた優輝は地べたに座りクロとの会話を続けるがクロの言いたいことがイマイチわからずそれがまたモヤモヤとなって胸中に蓄積とされる


「それで何がいいたいのさ」


「やられたらやり返してやりゃいいのさ」


「簡単に言ってくれるね。見てたなら分かるだろ?僕じゃ相手にもならないよ」


「それはさっきの君ならって話さ。考えてごらん、さっきと今では大きな違いがある。そして思い出してごらん、それは初めてのことじゃないよ」



クロの意図がわからない。幸助に任せておけば安心であろうこの場面でなぜもう1度自分を戦わせようというのか

優輝の中のモヤは溜まる一方だった


(大きな違い?初めてじゃない?そもそも幸助とクロに会ったのなんて最近のことだしその時はとにかくいろいろあって星降守護部隊と戦ってめちゃくちゃ怖い思いをしてーーーーーあっ)


優輝の中で1つの答えが導き出された。瞬間、彼の全身を猛烈な風が吹き抜け胸の中にたまり続けていたモヤモヤを跡形もなく吹き飛ばしてしまった


そして膝をついて立ち上がることのなかったその足は再び大地を踏みしめる

消えてしまった闘士は再びその瞳に宿る

折れかけた心はより頑丈になり再び立ち上がる


「幸助!」


「なんだよ。………おおっ」


優輝の力強い呼びかけに幸助が振り向くと優輝の顔つきを見て感心の声をもらした


「よそ見してんじゃねえぞオラァッ!」


幸助の隙を見逃すまいと男は拳を振るうがそれは避けられ虚しくも空振りに終わった


「悪いな、選手交代だ」


幸助は大きく後ろへ飛び退くとそのまま男へ背を向け歩き出した。すれ違いざまに優輝の肩を軽く叩き敵の方へと送り出し、送りだされた優輝は迷いのない足取りでまっすぐ進んでいく


「なんかまたやべぇ奴がいんのかと思ったらテメーかよ。大人しく寝てた方が良かったんじゃねぇの?」

男の顔に余裕が戻る


「確かにさっきの僕はお前に歯がたたなかった。けど今は違う」


(あいつに比べたらこんなやつ、屁みたいなもんさ)


優輝は頭の中で初めて幸助とクロと出会った日のこと、そこで早乙女乙姫と戦ったことを思い出していた


「今の僕には心強い仲間がいる」


「はいはいそーですか。じゃあとっととおねんねしてくださいねー」


先程とは違い男は走って距離を詰めてきたが、優輝は動揺することなくハンマーを構えた


「伸びろぉっ!」

声に反応したハンマーは勢いよくその姿を変え、迫り来る男の腹へと直撃しそのまま吹っ飛ばした

男が立ちあがらないことを確認するとハンマーを元の大きさに戻し緊張が解けた優輝は小さく息を吐く


「頑張ったところ悪いけど急いでここから離れるぞ。こいつらが目を覚ましたら厄介なことになるからな」


「でも行ける所なんてどこにも……。」


「あの〜」


悩む3人に声をかけて来たのは噂の少女であった。途中から景色に馴染み過ぎていたためすっかり忘れてしまっていた


「助けてくれてありがとうございました。行くとこないのなら私の家に来ませんか?」


噂の少女と接触できたこと、この場を離れて身を隠さねばならないこと。それらを考えると幸助達に断る理由などなかった



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