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不動優輝


「やっと解放された…」

人の荒波に揉まれようやく騒ぎが納まった頃には幸助は疲弊しきっていた

「お疲れ様。疲れたでしょ?またうちに寄ってってよ」

村人達が去って行った後、今度は泉が近づいて来た

そして幸助には気になることが1つ

「そうだ、おじさんは?」

先ほど星降守護部隊によって怪我を負わされた剛也

幸助が村人に揉まれている時には既に姿は無く、たとえ軽傷だったとはいえ怪我の数は多く無事だろうかと心に引っかかっていた

「お父さんなら今お母さんに手当てしてもらってるから大丈夫。だからほら、早く戻ろう」

泉に急かされたのもあるがやはり剛也が気になるため疲労も気にせずやや早足で不動家へと戻った


「おお幸助か。さっきは心配かけたな」

剛也は体のあちこちに絆創膏やガーゼを貼り付けてはいたものの体に大きな異常もなく幸助の心配も杞憂であった

「いや、俺の方こそすいません。勝手に飛び出したりして」


「いや、そのことはもういい。結果的に今回の被害は今までで1番小さかったし、なにより俺も少しスッキリしたしな」

冗談を交えガハハっと笑う剛也


聞けば、いつもだと怪我人の数はもっと多いようだ。今回のことで考えるとまず店主が襲われそこから彼らの標的は店内の客へと移る

そして小一時間暴れ回ったあと満足げに帰って行くらしい


その話を聞く限りだと剛也の言う通り今回の被害は過去最高レベルで小さいだろう

しかしそれはあくまで問題の先延ばし、深刻化に過ぎなかった


先刻、星降守護部隊と対峙した時は頭に血が昇っていたためさほど気にはしていなかったが冷静になった今、剛也の言葉が胸の中で何度も繰り返される


『やつらは大きな力を率いてくるだろう』


大きな力と聞いて幸助の脳裏にとある1人の少年の姿が思い浮かぶ

あの泉で自分に瀕死の重傷を負わせた柳生楓凛であった

(あの時は全く歯が立たなかった。あいつも本気じゃなかったし、もしそんなやつが来たら俺は勝てるのか?)

悩みはしたが程なくして、悩んでも仕方ないと結論づけた幸助が気にすることを止めたその時


バタァンと大きな音が店の奥から響く

まさかもう次の奴らがと幸助が音の方へ目を向けるとそこには1人の少年が立っている

音の主は彼だろう。そのまま幸助から目を逸らさずに近づいて来て幸助の前に立つと

「お前、強いんだな」

それだけを言って黙る

自分よりも遥かに小さな背丈、栗色の髪の毛とクリっとした瞳に幸助が1番最初に放った言葉

「なんだ、このチンチクリン」

すると少年は顔を真っ赤にし

「うるさいっ!不幸を凝縮したような真っ黒な髪の毛してるくせに!」

子供のような言い返しだがこの言葉が沸点の低い幸助を怒らせるには十分であった

「いい度胸をしてんなチンチクリン。いいだろう、お前が認める俺の強さをみせてやる」

両手をポキポキと鳴らし目の前の少年の頭を掴もうとゆっくりと手を伸ばす。少年はというと幸助の迫力に圧倒され既に涙目になっている

そこでどこからともなく飛び出してきたクロが幸助の顔に飛びかかって押し倒す

「おわっ!なにすんだテメェ!」

「君こそもっと大人になりなよ。これ以上暴れてみな、さもないと」

「さもないと何だよ」

「吐くぞ。君の顔の上で」

「やめろ、吐くのもその腹立つ無駄な決め顔も」

クロに止められ頭を冷やす

その光景を剛也や少年はただ見つめるだけだった


「優輝、珍しいね部屋から出てくるなんて」

優輝ゆうきと呼ばれるその少年、少し前に言っていた息子というのは彼のことだろう

髪の色や瞳の形が両親、姉と非常に似ている

泉と目を合わせた優輝は何も言わずそのまま家を飛び出してしまった

追いかけようとする泉を手で制止したのは幸助だった

「俺が行ってきます」

それだけ言い残し同じように家を飛び出す幸助。その肩にはクロも乗っていた


「そんなにやる気出しちゃってどうしたのさ。あともうちょっとゆっくりお願い」

「あぁ?急に出てったから追いかけたくなっただけだよ。人の髪バカにしやがって」

「最初にバカにしたのは君だろ。理由はホントにそれだけかい?」

勢いよく飛び出したところをクロに止められ早々に歩き始めた幸助は飛び出した理由を尋ねられたがそれはどちらかと言えば建前

優輝を追いかける理由としては少し弱かった

(家族の前でチンチクリン呼ばわりしちまったーーーーー)

本音は不動一家の息子を家族全員の前でチンチクリンと言ってしまった罪悪感に押しつぶされてその場に居られなくなってしまったからだった


そして完全に勢いで飛び出してしまったため優輝を探せる手立てなどもちろんなく、しかし自分が行くと言ってしまった手前手ぶらで帰ることなんて出来ない

途方に暮れそうになった幸助の目に止まったものはこの村の象徴リュウゴロシノフメツ像だった

「何度見ても迫力あるよなーこれ」

銅像をまじまじと見つめながら周りの噴水を1周すると

「あ」

「え?」

探し物は拍子抜けするほどあっという間に見つかった

そこにはリュウゴロシノフメツ像を見上げて微動だにしない優輝の姿があった

顔を見るなり何故か逃げ出そうとする優輝の襟首を幸助はしっかりと掴んで離さない

「おいおい、人の顔見て逃げるなんて酷すぎるんじゃねーの?」

「そんな取って食ってやろうなんて目を向けられたら誰だって逃げたくなるでしょ!」

幸助に持ち上げられた優輝は涙目になりながら空中でバタバタともがいている

「取って食うなんて失礼だな。少し摘む程度だよ」

「摘むって何!?」

「冗談だ冗談」

ここで幸助が掴んでいた手を離すと優輝は地面に尻餅を突き「ぎゃあ」と情けない声をあげる

「いきなり何するんだよ!」

自分の尻を擦りながら幸助を睨みつけるがその涙で潤んだ瞳では幸助に対しての効果は0であった

「悪かったよ。それにしてもお前はなんというか弱々しくて情けないな。本当にあの家の息子か?姉ちゃんと腕相撲したら負けんじゃねぇか?」

「ほっといてくれよ。確かに腕相撲で勝てる気はしないけど」

優輝は立ち上がり、体を叩いて汚れを落とす。そしてほんの一瞬、リュウゴロシノフメツ像へと目をやる

「随分と気に入ってるんだな。さっきもずーっと見てただろ」

「うん、まぁね。小さい頃に話を聞いてからずっと憧れてるんだ。強くて、優しくて、みんなから慕われている人だったんだってさ」

優輝はほんの少しだけ笑顔になる。どこか自信なさげな表情が染み付いているような顔だったからか幸助にとってその笑顔はとても新鮮で輝いているように見えた

「強くて優しくて慕われてるってお前の父さんにそっくりだな」

だがほんの少しの笑顔を見せた少年の顔はこの言葉で再び曇ってしまった

どうやら地雷を踏んでしまったことに気付き慌てて口を手で覆うが時すでに遅し。幸助はそっと優輝の顔色を伺う

「確かに父さんは優しいし慕われてると思う。けど強いなんてことは絶対に有り得ないよ!お前も見ただろ!あいつらにやられてもずっと頭を下げてたあの姿を!」

優輝の突然の大声に幸助は驚き体を硬直させるがすぐに平静を取り戻す

「あいつらがこの村に来るようになったのは3ヶ月くらい前からで最初は1人だった。その時は父さんを筆頭にこの村のケンカ自慢達が集まってそいつをなんとか追い出追い返したんだけど…」

「だけど?」

「次は数を3人に増やしてきたんだ。それからは手が付けられなくなって今ではさっき見た通りの現状さ…」

「その父親の姿に幻滅してお前は引きこもりになったってとこか」

図星を突かれたことに驚き優輝は幸助を数秒見つめた後で小さく頷いた

「昔は父さんみたいになりたいって思ってたけど今はその逆さ。強い相手にただ頭を下げるしか出来ないあんな情けない大人にはなりたくないね」

呆れたように語る優輝の姿を前にしてクロは異変を察知する

それは優輝のではなく幸助のもので彼の中で灯った小さな怒りの灯火が今にも爆発しそうになっているのに気がついてしまったが今回、クロはそれを止めようとはしなかった

「それで、お前はその時何をしてたんだ?」

「何もしなかったさ。僕が行ったって何も出来ないんだから」

「そうか。それも間違ってはいないけどなぁーーー」

ここで優輝の全身に悪寒が走る

その正体は自分の隣にいる男だということを理解するまで1秒もかからなかった

「何もできなかった奴が一生懸命戦った奴のことを偉そうに見下してんじゃねぇよ」

幸助は決して声を荒らげた訳ではないが確かな怒りを灯した瞳と真っ直ぐ静かに放たれたその言葉は優輝の胸に鋭く突き刺さり全身に重くのしかかった



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