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次の場所を目指して

「なークロー」


「なんだい幸助ー」


「俺達どこに向かってんだっけー」


「星降でしょー」


黒猫村を出発してから歩き続けること1日、星降を目指して歩き始めた2人は思わぬピンチに遭遇していた


歩けど歩けど何も見えてこない


村なんてもちろんのことで見えたものといえば山、田んぼ程度であり、すれ違った人の数は片手で数えられるほど

そもそも星降を目指すというのも最終的な目的でそこまで飛んだりワープできるような手段は当然ないのだからその間に沢山の村や街を経由しなければいけないのは初めからわかってことである


だが結構歩いたにも関わらず景色は村を出た頃と一切変わりはなく次の目的地になりそうな場所に巡り会える気が微塵も感じられない2人だった


「ちくしょーマジでなんもねぇな。あの村の田舎っぷりを舐めてたぜ」


「そのセリフ何回目だい?もう聞き飽きたよ」


「あーそうだっけかー」

景色がずっと同じものを繰り返すように2人もずっと同じ会話を繰り返す

繰り返しすぎて機械のようになってしまった2人の目からは生気が完全に失われてしまっていた


「腹減ったしさーとりあえずメシにしねー?」

「さんせーい」

空腹のせいか締まりのない伸びきった声で会話を続ける2人はその辺のちょうどいい高さの岩に腰掛け幸助の背負っていたリュックからおにぎりを取り出す


「ところで残りの食料はどうだい?」

クロは鮭の具が入ったおにぎりを前足で器用に食べる。大好物の鮭を食べながら幸助に尋ねる


「んーこれで最後だな」


「は?」


聞き間違いだろうか。きっと自分の耳がおかしくなってしまったのだろう。そう信じてもう1度聞き直す


「残りの食料は?」

「だから最後だって」


返ってくる答えは変わらず、やはり自分の耳は正しかったのだが今だけはおかしくなっていて欲しかった

この宛もなく彷徨っている状況で残された食料はゼロ。突然の死刑宣告であった


「ちょっと待って!おかしいでしょ!そんなに食べてないはずなのにもうないの!?」

さっきまでの間抜けな声はどこへ行ったのか急に大声を出し幸助へ詰め寄る


「いやーまさかこんなに歩くとは思ってなくてあんまり用意してなかったんだわー」

クロの剣幕に圧され幸助は目を合わせようとせず頬を人さし指で掻きながらどこか別の場所を見ている。当然クロの怒りが収まることはなく

「僕は出発する前に聞いたよね?『準備はできた?』ってねぇ!そしたらキミなんて答えた?」


「『おう、バッチリだ』って答えたよね!ドヤ顔で!なんの準備出来たんだ!死ぬ準備か!やる気あんのか!」


言葉とは全く無関係の盛大な動きを交えつつ幸助に言葉の乱打を叩き込んでいく


「いや、昔住んでた家では少し歩けばメシ食うところなんていっぱいあったんだけどなー」


未だ剣幕に圧されっぱなしの幸助は両手の平を胸の前に出し、クロをなだめようと必死である


「昔の話なんか知らないんだよ!こんなことならさっきすれ違った牛連れたおじいさんから牛奪っておけばよかったぁぁぁ」


「落ち着けクロ!これを見てくれ」

空腹と怒りと絶望のあまり犯罪に走りそうになるクロに幸助はリュックの中からあるものを取り出す


「おにぎり実はもう1個残ってーーーーー」

「大して変わんねーよ!」

ついに飛び蹴りをかます。バランスを崩した幸助の手からおにぎりが宙を舞うがそれはしっかりクロがキャッチする


「ハァ、ダメだ。怒鳴ったところでなんの解決にもならないよ」

ここでクロが正気を取り戻すが事態の深刻さは変わらない

体力に余裕がある内にどこか人のいる場所に行かなければ旅を始めて早々に餓死なんて情けないことになってしまうがそんなのは御免である

そうと分かればこんなところでのんびりしている暇はない

急いでおにぎりを頬張り幸助を急かす

残ったおにぎりは万が一のことを考えてリュックに戻す


そして歩くこと1時間。2人の前に1つの立て看板が現れた

「おい見ろ看板だ!この先に村があるみたいだぞ!」

「勇泉の村まで10キロだって!大した距離じゃないよ!」


何時間も歩き続けて漸く2人に差し込んだ一筋の希望の光は[勇泉のゆうせんのむら]を案内する看板でここまで歩いた距離に比べれば10キロなど取るに足らない距離であった

村まで行けば食料や次の場所への情報も手に入るかもしれない。そう考えると今まで重かった足取りは自然と軽くなった


「最後のおにぎりもまだ残ってるしこれなら楽勝だな!」

「うん!どんどん行こー!」


「おーっと待ちなそこの兄ちゃん」

歩き始めようとした2人は後ろから野太い声で止められる


「俺達はこの辺を縄張りにしてる盗賊なんだがよぉ、持ってるもん全部置いてってもらおうか」

筋骨隆々の大男と大男程ではないが体格のいい男が後ろに2人

共通しているところと言えばいずれも幸助より背が高く何故かモヒカンということ


「持ち物なんて言われてもなんもねぇよ」

「嘘をつくんじゃねぇよ。そのリュックはなんだぁ?痛い目に会いたくなかったらわかるだろぉ?」

そう言いながら男達はじりじりと幸助とクロへ迫ってくる。幸助たちもじりじりと後ずさる


持ち物と言われてもおにぎりと財布しか持っていないしこれは今後のためにも絶対に譲れない

「この辺はいい狩場なんだよなぁ。通るのは全部力のないジジイやババアばっかだ。少し脅せばなんでも手に入りやがる」

後ろの男達は自分たちの力を見せつけるようにナイフを取り出し、いつ襲いかかって来てもおかしくはない状態にある


「なぁクロ」

「なんだいこんな時に」

「あいつらにおにぎりあげてもいいか?」

「余計な戦いは避けたいし仕方ないよね。次の村まで我慢するしかないか」


せっかく希望が見えたのにこんなところで厄介事に巻き込まれるなど勘弁

無駄な体力を使わないよう2人が出した結論は残された最後のおにぎりを差し出す、だった

小声でやり取りをし、早急に話を決めると幸助が動き出す


「わかった。ちょっと待ってくれ」

男達を静止させリュックを地面に下ろし中を探る

「なかなか物わかりがいいじゃないかぁ。利口なやつは好きだぜぇ」

「ほら、俺達の最後の食料だ」

そう言って幸助はゴキゲンなボスの前におにぎりを差し出すが


「おにぎり1つだぁ?舐めてんのかぁぁぁぁ!」


汚い笑顔を見せていたボスの顔は一変、怒鳴り出すとおにぎりを幸助の手ごと払い飛ばした

本日2度目の宙を舞うおにぎり


ただ1度目と違うのはそれを誰もキャッチすることなく無残にも地面に叩きつけられたということ

「こうなりゃ力ずくだぁ!やっちまえてめぇらぁ!」

ボスが叫ぶと後ろの男達は待ちわびていたかのようにナイフを抜き幸助へと向かってくる


「始めっから全部差し出しゃ良かったのになぁ!俺様を馬鹿にしたこと、あの世で後悔しろぉぉぉぉぉ………………………………お?」


叫び終わる前にボスの両脇を物凄い勢いで通り過ぎる2つの影

その影の正体を確認しようと振り返った先にはたった今、目の前の少年に襲いかかったはずの部下が2人、気絶した状態で伸びていた


「おいクロ、初めてあった時のアレってまたやれるか?」

「もちろん。いつでもできるよ」

背後から聞こえた声に全身から冷や汗が吹き出すほどおぞましい空気を感じ取ったボスは全身の震えを抑えようとしながら恐る恐る声の方へと顔を向けると


鬼の形相で全身から怒りをほとばしらせる少年が目に映った

その様子を見てボスは瞬時で察知する。こいつはヤバイ、これ以上関わってはいけないと思った時にはもう遅かった


「覚えておけモヒカン、食べ物の恨みは恐ろしい」


地面を強く蹴りボスとの間合いに一瞬で詰めた幸助。怒りを乗せた拳をその顔目掛け突き出す


が、殴らない。拳はボスの鼻先で止められた

同時にそこから発せられた突風が全てを吹き飛ばしボスもそれに逆らえず尻餅をつく

恐怖に顔を歪めるボスの前に立ちふさがる幸助

そしてもう1度拳を突き出すとボスの体がビクッと震える


「今見てもらった通り俺はその気になればお前の体を爆散させることも可能なんだけど、どうする?」

幸助はボスを見下ろしニッコリと笑うが、笑っていない

その貼り付けたような笑顔を剥がせば鬼やら悪魔やら出てきて取って食われそうな雰囲気を醸し出していた


「申し訳ございませんでしたぁ!なんでもするんで勘弁してくださいぃ!」

「よし、食い物を出せ。盗賊なら奪ったものたくさんあんだろ」

幸助がそう言うとボスは「はいただいまぁ!」と気持ちのいい返事と共にどこかへ走り出した


「これで次の村までお腹の心配はいらないね」

幸助と分離したクロも気持ちの良さそうな顔をしている

「一時はどうなるかと思ったがラッキーだったぜ」

「でも人から奪った物をまた奪うってのはどうかと思うんだけど」

「どうせ元の持ち主に帰ることはないんだ。気にすんなよ」

「どこかに取りに行ったみたいだけどなに持ってくるんだろうね」

「手じゃ持てないようなデカイ物かもな」

「まさか肉かな!」

「あぁそうかもな!」


変な奴に絡まれたり最後のおにぎりが弾き飛ばされるたり不運の連続だったが結果オーライ

あのおにぎりは犠牲になったのだ

おにぎりが肉に変わるかもしれないという期待を抱いた2人は溢れ出る涎を飲み込みボスの帰りを心待ちにする


そうこう話しているうちにボスが帰って来た。

帰っき来たがその姿は先ほどと何も変わらず大きなものを持ってきた感じもない

両手を後ろに隠し申し訳なさそうな顔を向けている

「すいません、今はこんなもんしかないんですぅ…」

ボスが差し出したものは


おにぎり


「結局おにぎりかよ!」

幸助の蹴りと怒号が何も無い平野に大きく響き渡った



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