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旅立つ者と見送る者

朝。というにはもう大分遅い時間であろうか


「準備はできた?」

「おう、バッチリだ」

現在午前11時。予定していたよりも4時間程遅れた出発となってしまった


「キミが起きなかったせいで大遅刻じゃないか。今から先が思いやられるよ」


「お前だって寝てた癖に何言ってんだ。大体昨日無駄に体力使わせたのお前だろ」


ため息をつくクロに対して幸助も負けじと言い返す


「キミがイライラしてたからだろ」

「ふっかけたのはお前だろ」


前日の喧嘩のことでまた喧嘩を始める。お互いに鼻先がくっつく程顔を近づけ睨み合いその視線の間には火花が散る勢いであった

そして睨み合うこと数十秒


「だー、やめやめ。初っ端から喧嘩してどーすんだ」


先に痺れを切らしたのは幸助。クロと睨み合うため落とした腰を上げ、反省の意味を込めて自分の額を軽く小突く


「それもそうだね。喧嘩してる暇あったら早く行こうか」

同じようにしてクロも額を軽く小突く。お世話になった我が家へ別れを告げ、戸を閉めようとすると何かが引っかかっていることに気づいた


「袋…なんで?」


扉に引っかかっていたのは何の変哲もないただの袋であった

幸助が手に取り中を覗いてみると入っていたのはシルバーのブレスレット

中心には猫の形をした黒い宝石が埋め込まれていた。そしてブレスレット以外にもう一つ


「手紙みたいだよ」

キレイな字で[幸助へ]と書かれた手紙が添えられていた

誰からだろうか。4つ折りにされたその紙を開いていくと


昨日はいろいろと混乱させるようなことを言ってすまなかった


今日旅立つお前に私が昔頂いた御守りを持って行って欲しい


この村の神様の力が宿った御守りだからお前を沢山の危険から守ってくれるはずだ


体には気をつけてくれ

旅の無事を祈っている



「これ、叔父さんの字だな」


見覚えのある達筆と内容から幸助が叔父からの手紙だと判断する

「キミのこと心配してくれてるんだね。ちゃんとお別れしなくていいの?」


「必要ねぇよ。あの家に帰るつもりはないけどここに帰るとは言った。それで十分だろ」

クロの心配そうな表情をよそに幸助は自信に満ちた顔をしている。もう1度この村に帰ってくるという言葉に嘘はないようで、絶対に帰る確信を持っているからこその言動と表情であった


「それより早く行こうぜ。ただでさえ遅れてるのにこれ以上時間を食うわけにはいかないだろ」

そういいながら幸助は貰ったブレスレットを手首に付けた


「なに笑ってんだよ」


出発を促すためクロの方へ振り向くと何故か微笑んでいる。いつも見せるヘラヘラとした笑いとは違うもっと純粋な微笑みに幸助はつい気になって尋ねてしまった


「いや、それちゃんとつけるんだなって。捨てたりするんじゃないかと思ってね」

幸助の手首で輝きを放つブレスレットを指差しそう答える


「毎度毎度お前は俺を鬼とか悪魔とかと勘違いしてんのか。せっかく貰ったんだから付けなきゃ悪いだろ」

呆れながら当然だろ言わんばかりの顔で返すのだが


「よかった。キミにもまだ人の心が……」

「だから人だって言ってんだろ!そのわざとらしい泣き真似やめろ!」

茶化された。涙を拭うフリをするクロを幸助が一喝する

泣き真似をやめたクロに対し幸助はとっとと行くぞと声を掛け漸く2人は歩き始めた




「私たちのプレゼント、受け取ってくれたでしょうか」


叔母は幸助の家の方へ視線を向けながら家の中をあっちへこっちへと落ち着かない様子で歩き回っている


「落ち着け。ソワソワしてたって何も変わらないだろう」

叔母と反対に落ち着いた様子でなだめる叔父。どっしりとあぐらをかいて机の上にある湯のみを手に取り口へ運ぶが


「お茶のおかわり、入れましょうか?」


湯のみは空だった。察した叔母がおかわりを勧めると叔父は顔を真っ赤にしながらも


「あぁ頼む」

湯のみを差し出した。口では平静を装っているものの行動まで隠しきることはできない叔父であった


「結局、中途半端な別れになってしまったけど幸助は帰って来てくれますかねぇ」

お茶の入った湯のみを叔父の前に置きながら叔母は呟く


「さぁな。私たちが幸助にしたことは決して消えはしない。なら後は幸助次第だろう」

今度こそお茶を口にした叔父は一息ついてから答えるがやはり内心気が気でなかった


幸助はあの荷物を受け取ってくれたのだろうか

もしかしたらどこかで事故に会い死んでしまうのではないだろうか

そして本当に帰ってくるのだろうか

考え出したら止まらなかった


「でも…」


叔父が不安に駆られている最中に叔母が話し始めたので溢れ出る不安を1度抑えてそちらに耳を傾ける


「プレゼント受け取ってくれなかったら、アナタがわざわざ早起きした意味もなくなっちゃいますよね」


この言葉で叔父の顔が再び赤くなる。あの袋は叔父が掛けたものなのだが幸助が出発する前に届けなければと考えた結果

朝4時というとても早い時間になってしまった


「そう考えると私なんかよりアナタの方がよっぽど心配してるんですね」

「うるさい!変なことを言うな!」

フフフと笑う叔母に言い返すが否定はしなかった


「もう心配するだけ無駄だ。それに私たちに心配される程あいつもヤワじゃないだろう」


「そうですね。とても逞しくなっていました」

話を逸らすつもりで言った言葉だったが言葉にしてみると不思議とさっきまで心を覆い尽くしてしまいそうだった不安はどこかへ消えてしまっていた


「ならば私たちは信じて待てばいいだけだ。幸助は必ず帰ってくるとな」


「じゃあいつ帰ってきてもいいようにキレイにしておかなくちゃいけませんね」

そう言って叔母は空になった湯のみを下げ、掃除に取り掛かり始めた


幸助とクロが袋をあける3時間程前の親戚夫婦の家での出来事であった



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