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決意

目を覚ますと何故か見覚えのある天井。見覚えのあるというか


「俺ん家だ」


そこは数時間前におかしな黒猫と喧嘩し散歩に行くからと出て行ったはずの我が家であった。壁に開けた穴から差し込む日差し、外には鳥の鳴き声と風の音以外なくとても静かで先ほどまでの戦いが夢であったかと疑ってしまうほど現状との差は大きく、受け入れるまで少しの時間を必要とした


「えーっと、確かあの泉に知らない女がいて、それを連れ去りに来た変な騎士に殺されかけて父さんと母さんに会って…」


目を丸く見開いたままの幸助はこれまでの出来事を思い返してみるとなかなか非現実的な出来事の連続である


そういえばあの女性のことが引っかかると辺りを見回すが姿はない。自分が気絶してる間に連れていかれてしまったのだろう

自分に笑顔を向けてくれた女性、守ろうと思っても守れなかった不甲斐なさで全身が満たされる


「…ちくしょう」

敗北感と悔しさをぶつけるかのように床を殴ると腹に激痛が走る

激痛が走った腹を見てみると包帯が巻かれていた

治療してくれた?一体誰が?考えてみれば家にいることもおかしい


「目が覚めたの?おはよう。いい天気だね」


入口から声が聞こえ目をやるとあの黒猫が魚を加えて立っていた


「お前っ!なんでまだいるんだよ!話は断ったはずだろ!?」


「確かに断られたけどまだ諦めてないからね。それよりなんではこっちのセリフさ」


「な、なんだよ急に怒って」

柔らかかった黒猫の表情が強ばる。その顔を見てたじろぐ幸助


「君の帰りを待ってたら外で物音がしたから見てみたら血まみれで倒れてるじゃないか。治療するの大変だったんだからね」


まさかとは思ったがこの黒猫が治療してくれたとは。ということは、恐る恐る自分の腹に手を伸ばすと


「穴が…塞がってる」

騎士隊長改め柳生楓凛に空けられた腹の傷が塞がっていた


「この傷もお前が治したのか?」


「まあね。でもさっきも言った通り大変だったんだからね」

幸助が腹を指差し尋ねると黒猫は得意げに答えたがその姿は少しやつれていた。どうやったかはわからないが大変だったのは確かなのだろう


「そうか…悪かったな、ありがとう」


「謝ったり感謝したり忙しいね。そんな性格じゃないだろ君は」


「お前は俺をなんだと思ってんだ」


謝罪と感謝という当たり前の行為をしただけなのにこの扱いである。それどころか若干引いている


「冗談さ冗談。さ、ご飯にしよう。いっぱい食べて早くケガ治さないとね」

そう言って取ってきた魚を出して調理に取り掛かろうとするが


「俺さ、昔は素直な子だったんだってよ」

幸助が話し出したためその手を止める


「もしかしてさっきのこと気にしてるの?」


「いやそうじゃなくて話はここからっていうか…」


考えがまとまってないため1度深呼吸をする。気持ちを落ち着かせ心の中の迷いを消し去る


「さっき死にかけたときにさ、夢の中で死んだはずの両親に会ったんだ。そん時にそう言われてさ。そんで生きろとも言われたんだよ。次会うときは爺さんになって会いに来いって約束をして」


いきなり始まった真面目な話。死者と会話したという突飛な内容に若干戸惑いながらも黒猫はしっかり耳を傾ける


「つまりどういうこと?」


「こんなところで死んでられねぇんだよ。あの時は協力する理由なんてないって断っちまったけど理由ならできた。それにもう2回も命を救われてる。そんな奴の頼みを無視するなんてできないんだよ」

ここで結論を理解した黒猫の表情は明るくなる


「じゃあもしかして…」


「あぁ、出来るかはわからないけどその世界の滅亡とやらを俺に止めさせてくれ。頼む」

頭を下げる幸助に黒猫は近寄り床についた手に自分の手を重ねる


「頭を下げるなんてよしてくれよ。君の命を救ったのも僕がそうしたかっただけなんだから。とにかくよろしくね、幸助!」

頭を上げ目を合わせた2人からは笑顔がこぼれていた


「よろしくなクロ!」

2人は固い握手を交わし今ここに、知っている人など極少数であろうこの小さな村の外れの小さな家で世界一ついてない少年と不思議な黒猫の旅が始まろうとしていた


「ところでその"クロ"っていうのは僕のことなの?」


勢いに任せ1度スルーしたがやはり疑問に思うので尋ねてみる


「おう、だって黒いからな」


なんの捻りもない安直な回答に呆れてクロは肩を落とすが幸助の自信満々で真っ直ぐな顔を見ると何も言えなくなってしまった


食事を済ませた2人はこれからのことについて話を進める

「で、どーすればいいんだ?」


「この瓶は人の幸せを貯めてエネルギーにするからやっぱり人の多い所に行くのが1番だと思うよ」


そう言ってクロがハッピーボトルを取り出すと底の方に僅かではあるが光が見えた


「なんだこれ、既に少し貯まってるじゃねーか」

「本当だ、いつの間にかだね」


黄金に輝くその光は少量とは思えない程強く光っており、これからの2人の出発を祝っているように見えた


「それは一旦置いといて、人が多いって言ったらやっぱり星降かな」


「世界の中心って言われてるしそうだろうな。そうと決まれば目指すぜ星降!」


幸助が拳を突き上げると腹に激痛が走りクロに無理をするなと止められる


(さっきはわかんない振りをしたけどあの光は僕の分だろうね。協力してくれてありがとう、幸助)


幸助を介抱しながらそう思いまた微笑むクロであった

2人の出発はまだ少し先になりそうである



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