託された思い
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「お父さん!お母さん!」
聞き覚えのある声でと目を覚ます幸助。目を覚ましたと言ってもここは現実ではなく
「あー、またか」
今まで数え切れないほどこの夢を見たがまさか2日連続で見てしまうとは、思わずため息をつく
救急車、パトカー、野次馬、そして泣き叫ぶ幼き日の自分と血を流し横たわる両親。いつもの夢であった
(俺は確か騎士隊長と戦ってたはずなんだけど…最後に剣で腹刺されたんだったっけか)
眠る前の出来事を思い出し、現実での自分の状況を整理する
(つーかこれ死んだんじゃねーか?結構思いっきりやられた気がするんだけど)
そう思うと心なしかいつも見る時より景色や声が鮮明な気がしてならない。体質のせいでいつか死ぬと昨日言ったもののそれがこんなに早いとはさすがに自分でも予想できなかった
しかしここで幸助は疑問に思う
もし自分が死んだとしたならばもう現実世界で目覚めることはないという訳だから、そうなるとこの夢の続きはどうなっているのだろう
もしかしたらわかるのではないだろうか。あの時、母は何を伝えようとしたのかが
「………幸助」
幸助の思考を遮るかのように誰かに名前を呼ばれる。邪魔をするなと思ったがこれは自分ではなく、目の前の幼い自分を呼んでいる声なのだろう
そして続きを知るために落としていた視線を再び前に向ける
「………幸助」
また名前を呼ばれた。さっきよりも強く。そして今度は肩を叩かれる。これは間違いなく今の自分に向けられた声だとわかり、後ろを向くと
「う、嘘だろ…?」
夢の中にいるとはいえ信じられない光景がそこに広がっていた
「久しぶりね」
そこには今、幸助の背後で倒れている筈の両親の姿があった。おかしいと思い後ろを向くが確かに両親は倒れている。だが自分の目の前にもいる
当然ではあるが記憶にある両親の姿と何も変わっていない。しかし昔は大きかった母はとても小さく見え、父の目線の高さは自分と同じ位置にあった
「久しぶりだな、幸助。久しぶりなところ悪いがあまり時間がないんだ。手短に済ますぞ」
普通ならばここで感動の再開に浸る場面のはずなのだがそんな暇など与えないまま父は話し出した
「いやいやいや。待ってくれよ2人がなんでここにってか普通に喋ってるしどういうことだよ」
「あら、昔より少し生意気になったかしら?昔は素直な子だったのよ、あなた」
フフッと笑う母
混乱し困惑の表情の幸助をよそに両親は晴れやかな笑顔を浮かべている
「ところで幸助。お前、母さんとの約束忘れてないか?」
「約束?」
真剣な顔に切り替わった父。ハの字顔のままの幸助
「そんなものしたかな?って顔してるわね」
母に図星を突かれゴメンと軽く頭を下げる
「で、約束って何なんだよ」
「あの時はお前もパニックだっただろうからな」
「仕方ないわよね。ならもう一度自分の目で確かめて」
そういって幸助の後ろを指さす
そこには見慣れたやりとりがある。いつもと違うのはここで目を覚ますはずなのだが今回はそうではないということ
「いいんだよ…幸助…お前は悪く…ない」
「でも!俺のせいで2人とも…」
「それなら…」
「生きて。私たちの思いと一緒に」
母の言葉に少年はキョトンとした顔をする
「あなたは自分を責める必要はないの。子供が何をしても受け止めてあげるのが親なの」
「でも…」
泣き止んだ少年に母は続ける
「それでもあなたが自分を責めるというなら私たちの思いっていう大きな十字架を背負って生きなさい」
「ハハッ、母さんの言うことは難しいな」
真面目に話している母とは対象的に笑いながら父が会話に入り込んでくる
「つまりだ幸助。お前はただ生きていてくれればいい。それが父さんたちの幸せだからな」
難しいとは何よ、とムスッとする母とゴメンゴメンと笑いながら謝る父
こんな状況だと言うのにいつも通りの両親。幸助が好きだった両親は最後まで変わらずそのままでいてくれた
その後、病院に搬送され治療を受けたが医師たちの努力も虚しく少年が大好きだった2人の笑顔は2度と彼に向けられることはなかった
「どう?思い出した?」
「ああ、なんでこんな大事なこと忘れてたんだろうな」
母に問われ全てを思い出した幸助。その目は涙で潤んでいた
「とにかく、お前はいつまでもこんなところにいるんじゃない。次に会うときはヨボヨボの爺さんになってこいよ」
「誰かわからないくらいヨボヨボになってきてやるよ」
目に溜まった涙を拭い答えた幸助
「父さん、母さん、本当にありがとう」
そう言う幸助の顔はある1つの決意に満ちていた
「男らしい顔になったな」
「よし、起きなさい!」
「おう!」
両親の強い言葉に答えるよう力強く反応する幸助の左胸に思い切り拳を突き立てた
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