第五十七話 間合い ―置く―
剣士学園の冬休みは終わった
梅の時期に開催されるトーナメント
校内はそれに向けた予選の一色に染まる
第三予選会場。
一年生の予選が行われている
そのざわめきの中、名前が呼ばれる。
「鳴尾御影流 御影江梨子――」
静かに歩み出る。
視線が集まる。クラスメイトも見ている
以前なら、少しだけ気負った。
だが今は違う。
それも含めて、場だ。
正面に立つ対戦相手。
同学年。 実力者。
予選通過の有力候補
「……手裏剣 そんな遠くから、どうするつもり?」
挑発するような言葉
御影は、答えない。
開始。
相手はすぐに動いた。
距離を詰めてくる。
当然だ。
手裏剣は間合いの外からの武器。
詰めれば、封じられる。
御影は動かない。
焦らない。
――“待つ”。
一歩。
二歩。
間合いが縮まる。
指が、わずかに動く。
投げる。
三本 一息に
落とされるが、
間合いが広がる…
仕切り直す
相手は
御影の間合いを詰めようと脇構え
身体を低く、走り込む姿勢
――いや。
違う。
(誘ってきてる)
今まで気が付かなかった
相手の動き…
ーーーーーーーーーー
今までは気が付かなかった…
手裏剣が私の在り方でもあった
私はー手裏剣を打つ
私はー手裏剣で斬る
私は…
私は…
あの日
自分の未熟さを自覚してしまった
相手にもされず、されてもいなかったのに
私とも向き合っていた…
私はいつも
距離を取った。
線を引いた。
“問いを与える側”で止まった。
そう、”私は…”それでいいと思ったていた。
――でも。
(私は……あそこまで踏み込めなかった)
胸の奥が、少しだけ痛む。
私は あそこまで、壊すことはできない。
私は あそこまで、さらけ出させることもできない。
でも、違った。
(あの人は……平気で踏み込む)
平気な顔で、全部壊す。
甘さも、逃げも、言い訳も。
全部、叩き落とす。
(……なのに)
最後は、ちゃんと残す。
――「その“嫌だ”という気持ちが、お前の在り方だろ」
あれは。春日くんへの救いだった。
(あそこまで壊しておいて……最後に拾うのよね)
本当に、やり方が雑だ。
「悔しい…」
私は… もう、私に拘らない
ーーーーーーーーーーー
“置く”
乾いた音。
相手の足が、止まる。
「……っ!?」
踏み込みの直前。
そこに“ある”。
避ける。
わずかに体勢が崩れる。
(今!)
一本 置く
流れるように回る
一本 置く
身体が止まらない
また、一本 置く
御影は、すでに間合いを動かしている。
前に。
「……は?」
相手の目が揺れる。
(入る)
今までは。
ここに入らなかった。
入れなかった。
――拘っていたから。
(“おろせ”)
頭の中に、あの言葉がよぎる。
拘りを、捨てるのではない。
一度、手放す。
その分、軽くなる。
踏み込む。
体当たりに近い距離。
手元で――もう一本。
至近距離。
反応できない。
「くっ……!」
防ぐが、崩れる。
完全に。
御影は止まらない。
「勝負あり!」
御影の脇差が相手を切り上げていた
ーーーーー
私は 私に拘らない
私に 私を拘わらせない
私は 私に俯瞰させる
そして、相手も見る…
ーーーー
もうあの人に…
(もうちょっと、面白くなってから〜 )
なんて、もう言わせない
ーーーーーーー
夕方
近くのコーヒーショップの
イートイン・コーナー
「ねぇ… 大丈夫?」
弓場がテーブルに伏せてる御影に話しかける
弓場は、ケーキを一口
「コレ、いける!」
「江梨子も食べなよ。」
「ダメ…」
「立ち直れない…」
「いいとこまで行ったんでしょ 予選」
「うん…」
「最後に… 負けた…」
「ふーん 残念残念」
「湊川先輩とやり合いたかったーよー」
「あの先輩ね。 うん、やってもムリムリ!」
「あの人、私たちと次元が違うわ。」
「うるさーい 知ってるよー。」
伏せてる御影に誰が…
「御影さん 探しました」
春日である
手にはコーヒーを持っていた
「春日くん!」
弓場が嬉しそう
「ここ空いてるよ」
弓場が横の席を空ける
「ありがとうございます」
春日が座る
弓場は、 上機嫌♫
「なんか、景子 腹立つ…」
御影がテーブルに伏せたまま弓場を見る
「今日の御影さん なんか…」
「何…」
「良かったですよ」
「負けたんですけど… 予選で落ちましたよー。」
「俺が言うのもなんですが…」
「勝敗以上に、良かった…です」
言葉を選びながら春日が答える
「ふーん…」
「御影さん」
「はい…」
「御影さん 手裏剣は打って刺す」
「そう言っていましたよね」
「はい…」
御影はまだテーブルに伏せっている
弓場は上機嫌で御影を見てる
「今日の御影さんの手裏剣… 」
「置くべきところに… もう、あったって感じです」
御影は伏せたまま聞いている
「…」
弓場が
「へー 良かったじゃん 江梨子」
ガバ!
御影が身体を起こす
「わかった じゃあ。奢って」
「手裏剣の指導料として」
さっきまでの不機嫌で伏せっていた御影からは、
想像出来ないくらいの上機嫌の顔
「わかりました」
「何が良いですか?」
「抹茶ティーラテ に エスプレッソショット チョコレートソースを多め追加」
「それにホイップもつけてね」
「えっ…」
(復唱無理です… それ…)




