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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第四十七話 言葉 ー目線ー

12月に入る

今年は、いつもより暖かい。


終業式を待たず、春日は学園を離れた。


理由は、一つ。

――実家に戻るため。


それ以上は、誰にも詳しく語られていない。


ただ一人、澪にだけは事前に伝えられていた。



数日後。

学食。

昼休みのざわめき。


澪は、いつものようにカフェオレ。

向かいに、蓮。

その隣に、雪。


「雪、昨日はお疲れ様。連戦だな」

「はい… 蓮先輩もですよね」


ただ、それだけ…

その意味はお互いが知っている


一拍。


「で?」

蓮がストレートに聞く。

「帰ったって?」


「うん」

澪は、カフェオレを一口。

「実家」


それだけ。


蓮は、少しだけ眉をひそめる。


「早すぎない? 授業は?」

「サボりだね」

あっさり。


澪は、少しだけ考える。

「本人は、“ちょっと確かめに戻りたい”ってさ」


「ふーん」

蓮は肩をすくめる。


「めんどくさいやつだなぁ」


「今さら?」

澪、即答。


「いや前からだけど」

「“帰って考える”って、修行僧かよ」


「似たようなもんでしょ」

澪、さらっと。


一拍。


蓮が言う。

「で……戻ってきたら、どうすんの?」

声に、少しだけ鋭さが混じる。


澪は、軽く答える。

「さあね」


――だが、目は笑っていなかった。


雪は何も言わず、


長刀を確かめるように、左手を腰に添えた。


張り詰める空気。


その時。


「……失礼します」

三人が見る。


御影が立っていた。


「珍しいね」

澪が言う。


御影は軽く一礼する。

「少し、お時間よろしいでしょうか」


「いいよ」


一歩、近づく。


「単刀直入に聞きます」


一拍。


「春日くん、今どうなっていますか?」


蓮、盛大にむせる。


「ぶっ――直球すぎるだろ!」


空気が、一気に緩んだ。


澪は、呆れた顔で。

「どうって?」


御影は少しだけ言葉を選ぶ。

「……弓場に……いえ、友人に頼まれました」


一拍。


「“あの人、何をしているのか、

 どこにいるのか分からないから聞いてこい”と」


蓮、笑いを堪えきれない。

「本人が来いよ、それ!」


雪が、静かに顔を背ける。

(肩が震えている)


澪は、少しだけ笑う。

「さあね」


カフェオレを揺らす。

「今は――」


一拍。


「“自分で考えてる最中”じゃない?」


御影は、じっと見る。


「それで、変わりますか?」


澪は、少しだけ間を置いて。

「変わるよ」


あっさり。


「変わらなきゃ、意味ないし」


御影は、ほんの少し目を細めた。


そして。

「もう一つ、よろしいでしょうか」


今まで以上に、言葉を選んでいる。


「なに?」


「湊川先輩は、春日くんをどう思っていますか?」


「……ん?」


「戻ってきてからの話です」


空気が、再び引き締まる。


澪の指先が無意識に柄を探るような動き。



御影の目に、鋭さ。


「単刀直入に聞きます」


一拍。


「お二人は、付き合っているのですか?」



静寂。



「無い……」


澪が、ぽつり。


御影の目に、一瞬だけ敵意。


対して澪の目は、死んだ魚のようだった。


「……そうですか」

小さく頷く。


「では、友人に伝えておきます」


踵を返す。


「ありがとうございました」

そのまま去っていく。



静寂。




残された三人。

「……絶対、やだ」

誰ともなく、呟いた。



ーーーーーー


山の空気は、少しだけ冷たかった。

まだ、雪は降っていない。

春日は、無言で門をくぐる。


見慣れたはずの景色。

だが、どこか遠い。


――帰ってきた。


そう思った瞬間、少しだけ足が止まる。


それでも、歩く。


玄関。


戸を開ける音が、やけに大きく響いた。


「……ただいま」

返事はない。


遅れて、奥から母が顔を出す。

「あら……早かったのね」

穏やかな声。


「はい」


母は、少しだけ春日の顔を見て――

何も聞かなかった。


ただ。

「おかえりなさい」

それだけ。



夜。

家の奥。

小さな道場。

板張りの床。

磨かれた木の匂い。


その中央に、静かに置かれている。

一振りの小太刀。


布をほどく。

祖父から父へ。

父から、自分へ。


手に取る。


軽い。

だが、重い。


「いいか」

父の声。

「当てるな。受けるな」


「“当たる前を消せ”」



祖父の声。


「見るな」

「先を感じろ」

「形にするな」


「前を取るな」

「前を消せ」



今。

春日は、小太刀を構える。


一歩。

止まる。


(……違う)


振る。

空を切る。


(違う)


もう一度。

踏み込み。

外す。

間合い。

軌道。

拍子。


(……足りない)


弓場の動き。

当たる前提。


雪の動き。

半歩。


だが――

(……遅い)


止まる。


(自分は――)

(“当たらない位置”にいることを考えている)


違う。


父の声。

「恩今年は、いつもより暖かい。


終業式を待たず、春日は学園を離れた。


理由は、一つ。

――実家に戻るため。


それ以上は、誰にも詳しく語られていない。


ただ一人、澪にだけは事前に伝えられていた。



数日後。

学食。

昼休みのざわめき。


澪は、いつものようにカフェオレ。

向かいに、蓮。

その隣に、雪。


「雪、昨日はお疲れ様。連戦だな」

「はい… 蓮先輩もですよね」


ただ、それだけ…

その意味はお互いが知っている


一拍。


「で?」

蓮がストレートに聞く。

「帰ったって?」


「うん」

澪は、カフェオレを一口。

「実家」


それだけ。


蓮は、少しだけ眉をひそめる。


「早すぎない? 授業は?」

「サボりだね」

あっさり。


澪は、少しだけ考える。

「本人は、“ちょっと確かめに戻りたい”ってさ」


「ふーん」

蓮は肩をすくめる。


「めんどくさいやつだなぁ」


「今さら?」

澪、即答。


「いや前からだけど」

「“帰って考える”って、修行僧かよ」


「似たようなもんでしょ」

澪、さらっと。


一拍。


蓮が言う。

「で……戻ってきたら、どうすんの?」

声に、少しだけ鋭さが混じる。


澪は、軽く答える。

「さあね」


――だが、目は笑っていなかった。


雪は何も言わず、


長刀を確かめるように、左手を腰に添えた。


張り詰める空気。


その時。


「……失礼します」

三人が見る。


御影が立っていた。


「珍しいね」

澪が言う。


御影は軽く一礼する。

「少し、お時間よろしいでしょうか」


「いいよ」


一歩、近づく。


「単刀直入に聞きます」


一拍。


「春日くん、今どうなっていますか?」


蓮、盛大にむせる。


「ぶっ――直球すぎるだろ!」


空気が、一気に緩んだ。


澪は、呆れた顔で。

「どうって?」


御影は少しだけ言葉を選ぶ。

「……弓場に……いえ、友人に頼まれました」


一拍。


「“あの人、何をしているのか、

 どこにいるのか分からないから聞いてこい”と」


蓮、笑いを堪えきれない。

「本人が来いよ、それ!」


雪が、静かに顔を背ける。

(肩が震えている)


澪は、少しだけ笑う。

「さあね」


カフェオレを揺らす。

「今は――」


一拍。


「“自分で考えてる最中”じゃない?」


御影は、じっと見る。


「それで、変わりますか?」


澪は、少しだけ間を置いて。

「変わるよ」


あっさり。


「変わらなきゃ、意味ないし」


御影は、ほんの少し目を細めた。


そして。

「もう一つ、よろしいでしょうか」


今まで以上に、言葉を選んでいる。


「なに?」


「湊川先輩は、春日くんをどう思っていますか?」


「……ん?」


「戻ってきてからの話です」


空気が、再び引き締まる。


澪の指先が無意識に柄を探るような動き。



御影の目に、鋭さ。


「単刀直入に聞きます」


一拍。


「お二人は、付き合っているのですか?」



静寂。



「無い……」


澪が、ぽつり。


御影の目に、一瞬だけ敵意。


対して澪の目は、死んだ魚のようだった。


「……そうですか」

小さく頷く。


「では、友人に伝えておきます」


踵を返す。


「ありがとうございました」

そのまま去っていく。



静寂。




残された三人。

「……絶対、やだ」

誰ともなく、呟いた。



ーーーーーー


山の空気は、少しだけ冷たかった。

まだ、雪は降っていない。

春日は、無言で門をくぐる。


見慣れたはずの景色。

だが、どこか遠い。


――帰ってきた。


そう思った瞬間、少しだけ足が止まる。


それでも、歩く。


玄関。


戸を開ける音が、やけに大きく響いた。


「……ただいま」

返事はない。


遅れて、奥から母が顔を出す。

「あら……早かったのね」

穏やかな声。


「はい」


母は、少しだけ春日の顔を見て――

何も聞かなかった。


ただ。

「おかえりなさい」

それだけ。



夜。

家の奥。

小さな道場。

板張りの床。

磨かれた木の匂い。


その中央に、静かに置かれている。

一振りの小太刀。


布をほどく。

祖父から父へ。

父から、自分へ。


手に取る。


軽い。

だが、重い。


「いいか」

父の声。

「当てるな。受けるな」


「“当たる前を消せ”」



祖父の声。


「見るな」

「起を感じろ」

「形にするな」


「前を取るな」

「前を消せ」



今。

春日は、小太刀を構える。


一歩。

止まる。


(……違う)


振る。

空を切る。


(違う)


もう一度。

踏み込み。

外す。

間合い。

軌道。

拍子。


(……足りない)


弓場の動き。

当たる前提。


雪の動き。

半歩。


だが――

(……遅い)


止まる。


(自分は――)

(“当たらない位置”にいることを考えている)


違う。


父の声。

「居つくな」

「止まるな」



祖父の声。

「消せ」

「前を」

「当たる前を」


静寂。


「……分からない」

正直な言葉。


それでも

(逃げない)


握り直す。


もう一度。


一歩。


――今度は、少しだけ違う。


襖の向こう。

母が、静かに見ている。


声はかけない。

ただ、見ている。


春日の背。

迷い方。

止まり方。


ふっと、息をつく。

「……似てるわね」


思い出す。

あの人。

同じ場所で。

同じように、立っていた。


分からず。

止まり。


それでも、繰り返していた。


「……そうだったわね」

微笑む。


少しだけ、寂しく。

少しだけ、誇らしく。



道場。


春日は、動き続ける。


分からないまま。


「強く……」


父の声。

「もっと強く打て」


一歩。

半歩。

外す。

入る。

止まる。



祖父の声。

「己は惑うな」

「相手を惑わせ」


――今は、自分が惑っている。


“問い”だけは、はっきりしている。


また、動く。

まだ、答えはない。


夜は、静かに更けていく。


そして――

その静けさの中で、

春日は、一人、

技と向き合い続けていた。

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