第四十六話 覚悟と静寂 ー次の舞台へー
第二武道館。
一つ前の試合が終わり、ざわめきが残る中。
蓮は、少し離れた位置から見ていた。
視線の先――雪。
対戦相手は、再び上位者。
「始め!」
先程と同じく。
雪が先に踏み込む。
迷いがない。
だが――
弾かれる。
蓮の目が、わずかに細くなる。
(……さすがに、通らないか)
次の瞬間。
切り返し。
鎬が削れる音。
流しからの一撃。
雪は、鍔元で受ける。
沈む。
それでも――
前に出る。
「っ……!」
さらに一歩。
無理な体勢。
力負けしている。
それでも――
止まらない。
(……なんでだ)
蓮は、わずかに眉を寄せる。
理解はできる。
だが――納得はしていない。
次の瞬間。
大きく弾かれる。
崩れたのは、相手のほうだった。
「――っ!!」
そのまま、雪が踏み込む。
深く。
前へ。
観客が、息を呑む。
――入った。
「……一本!」
静寂。
そして、ざわめき。
蓮は、動かない。
(……今のは)
技として見れば、粗い。
理屈で言えば、押し負けるはずの形。
(あれで、届くのか)
雪は、肩で息をしている。
苦しそうに。
それでも。
視線は、次を見ている。
逃げていない。
削れているのに。
前を見ている。
その姿を見て。
蓮の中で、何かが引っかかる。
(俺は――)
言葉にならない違和感。
「……ぶれてない」
雪は、俺とは違う。
崩れても、削れても
形がそこに在る
本住吉流を貫く。
本住吉流で、届かせにいく。
今、そこにあるのは――
押し付けられたものではなく、
雪自身の「意思」だ。
(……なるほどな)
小さく、息を吐く。
「本当に……めんどくさい」
だが、その声音は――
わずかに、変わっていた。
蓮は、歩き出す。




