第四十五話 覚悟と静寂 ー二つの舞台ー
第一試合場。
挑まれた蓮
ゆっくりと歩いて入ってきた。
対戦相手は二年。
スピードとフェイントに長けたタイプ。
技巧派
「始め!」
動いたのは、相手。
速い踏み込み。
横からの一撃。
――当たる。
そう見えた瞬間。
蓮の体が、わずかにさがった。
当たらない。
「……は?」
切り返す
速い。
読みづらい。
だが――
当たらない。
間合いを取る
苛立ち。
焦り。
相手の呼吸が乱れる。
蓮は、まだ打たない。
ただ、見ている
(……いい動きだな)
心の中で評価すらしている。
そして。
三度目の踏み込み。
ほんのわずか、相手の重心が流れた。
その瞬間。
蓮が初めて動く。
一歩。
入る。
短い動き。
無駄がない。
まるで
蓮の刀が相手が吸い込むように
そこにある
「……一本」
静かすぎる決着。
観客がざわつく。
「え、今の…?」
「打った?」
蓮は、軽く息を吐く。
視線が、ふと別の試合場へ向く。
雪のいた方向。
(……)
少しだけ、眉が動いた。
だが――
それ以上は、何も言わない。
ーーーーー
第二武道館。
ざわめきの中、雪は静かに立っていた。
対戦相手は三年。
長身、体格差あり。
しかも――
第八席
周囲の声は、届いている。
だが雪は、聞いていないように目を閉じていた。
(……関係ない)
呼吸が一つ。
(私は選ばれてきた。ずっと)
家。
流派。
期待。
逃げ場なんて、最初からなかった。
そう思っていた
違う!
家が好きだ
流派じゃない… それに関わる人が好きだ
期待… 私も皆んなに求めているじゃないの
逃げ場
そんなもの
今は…もういらない
私自身の在り方を
私が選ぶ
「始め!」
合図と同時に――
踏み込んだのは、雪だった。
「っ!?」
相手が驚く。
速い。
迷いがない。
長刀が一閃。
だが――
!!
弾かれる。
「甘い!」
三年の重い一撃が振り下ろされる。
雪は受ける。
体が沈む。
(重い……)
だが、引かない。
もう一歩、前へ。
「なっ――」
距離を潰す。
長い得物
雪の身体はその内側へ。
そして――
ぬうように
打つ。
短く、鋭く。
今度は、相手の構えが崩れた。
(近い…!)
その瞬間――
正確。
――容赦がなく斬り込んでる。
「……一本!」
静寂。
雪は――
喜んでいなかった。
ただ、静かに息を吐く。
視線は、次を見ている。
勝利ではない。
“進まなければならない道”だけを。
雪は、静かに次の試合へ向かった。




