第四十四話 雑な謝罪と、確かな歩み ―半歩ー
食堂から教室に向かう雪と澪
二人並んで歩いていた
「ねぇ 雪」
声が重い 珍しく真剣だ
「何? 澪」
澪はまっすぐ前を見てる
顔を合わさずに言葉をつづけた
「私が居合をやめるって言ったら、雪はどうする?」
「え?」
「澪… 何言ってるの?」
澪が怒ってるのがわかる
顔も見てくれない
「澪… 澪がやめるわけないじゃない」
「何故そう思うの?」
足が、一瞬だけ止まる
「だって…」
言葉が出ない 澪がやめる?
考えたこともない
「そう 私はやめない やめたくもない」
「そして…」
「決して 終わらない 終わらせたくない」
「あっ…」
「雪… お昼からは、私こっちの武道場だから」
澪は雪の顔も見ずに廊下を歩いて行った
「澪…」
振り返らず、澪は雪の前から去っていた
ーーーーーーーーーー
夜。
誰もいない道場。
雪は、一人で立っていた。
『終わらせぬ苦の方が、人には優しいのだよ、雪』
「……優しい、ね」
小さく笑う。
ずっと、意味が分からなかった。
終わらない方が楽だからだと思っていた。
何も考えず逃げられるからだと。
でも――
「違う…」
視線を上げる。
――頬が、濡れていた。
「終わらせたらさ」
「相手も… 終わっちゃうじゃん」
「終わらされたら……私も、終わっちゃうじゃない 」
道場の静寂に、声が落ちる。
負ければ、終わる。
区切りがつく。
逃げられる。
そう思っていた。
あのときの父の目。
「……そっか」
雪は、息を吐いた。
「優しいって、そういうことか」
自分が楽になるって意味じゃない。
相手を、そして自分を 終わらせないこと。
自分が自分自身を背負い続けること。
「……重いよ、お父さん…」
でも。
雪は、少しだけ笑った。
今度は――
逃げていない顔で。
一歩、踏み出す。
床が、小さく鳴る。
「ちゃんと謝らなくちゃ…」
一拍。
「それから――終わらせなきゃ」
その言葉は、
もう、それは逃げるための言葉ではなかった
ーーーーーーーー
教室。
まだ人もまばらな時間。
澪は席に座って、本を読んでいた。
静かだ。
いつも通り――のはずだった。
ガラッ!!
雪が教室に入ってきた
澪と眼が合う
その瞬間
「澪ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
教室の空気が割れる。
「ごめんなさぁぁぁぁい!!!!!」
雪が、全力で飛び込んできた。
そのまま。
ドンッ!!!
机に突っ伏す。
「うわぁぁぁぁぁぁん!!!!」
号泣。
教室、静止。
澪は、本を閉じた。
「……朝からうるさい」
「ごめんんんんんん!!!!なさいいいいいいい!!!!」
「謝り方が雑」
雪、顔を上げる。
目が真っ赤。鼻も真っ赤。
完全に泣き腫らしている。
「ちゃんと考えたのぉ……!」
「何を」
「終わらせるとか!終わらせないとか!優しいとか!重いとかぁ!!」
「うん?」
「全部わかんなくてぇぇぇぇ!!」
「結局、結論出てないじゃん」
「でも澪には、澪には、謝らなきゃって思ってぇぇぇ!!」
再び突っ伏す。
「ごめんなさぁぁぁい!!」
ドンッ!!
机が揺れる。
澪、無言。
数秒。
「……で、何に対して?」
「……え?」
「謝罪の対象が曖昧なんだけど」
「え、えっと……その……」
ぐるぐる。
「なんかこう……全体的に……」
「雑!」
一刀のごとく、即答。
雪、再び崩れる。
「うわぁぁぁん!!ごめんなさいぃぃ!!」
ガラッ。
「……朝から何やってんだお前ら」
蓮が入ってきた。
「雪の大声が聞こえたと思ったら……やっぱりか」
一瞬で状況を把握する。
「……あー」
理解した顔。
「お前が壊したのか? 澪」
「勝手に壊れた」
「壊れてません!!」
即否定しながら泣いている。
説得力ゼロ。
「雪、うるさい」
澪が淡々と言う。
「ごめんなさいいいいい……」
「声量を落とせ」
「はいぃぃぃ……(小声)」
小声で泣き続ける雪。
余計うるさい。
蓮、ため息。
「で?」
澪に視線。
「何したんだこいつ」
「別に」
さらっと。
「勝手に一人で悩んで、勝手に泣いてるだけ」
「そうだけどぉ!!」
蓮、雪を見る。
「……で、結論は」
数秒。
「……まだです」
「だろうな」
即答。
雪、しょんぼり。
「でも……」
小さく言う。
「私、逃げるの、やめます」
一瞬だけ、空気が変わる。
澪の目が、わずかに動く。
蓮も、黙る。
「ちゃんと……終わらせるので」
雪は、ぐしゃぐしゃの顔のまま。
それでも、まっすぐ言った。
沈黙。
澪は一度だけ、雪を見る。
「……なら、いい」
澪が言う。
短く。
雪、固まる。
「……え?」
「謝罪、受理」
あっさり。
雪、数秒フリーズ。
「え、あ、そんな軽く!?」
「重くしてほしいの?」
「いやそうじゃなくて!心の準備が!!」
「そんなの、知らない」
通常運転。
蓮、ふっと笑う。
「よかったな」
それだけ言って、蓮は自分の教室へ向かった
「え、いや、でも、え?」
混乱している雪。
「あと」
澪が言う。
「泣きすぎ」
「はい……」
「目、ひどい」
「昨日も泣いてたな」
「はい……そうです」
「今日の稽古、集中できなさそう」
雪、ぴくっと反応。
「できます!!」
即答。
「絶対できます!!」
さっきまで泣いていた人とは思えない。
澪、呆れる。
「切り替え早すぎ」
「切り替えないとやばいんです!!」
「何が」
「いろいろ!!」
ざっくり。
澪、小さく息を吐く。
「……じゃあ証明して」
雪、止まる。
「逃げてないって」
静かに。
まっすぐ。
雪は、一瞬だけ目を見開いて。
そして。
少しだけ笑った。
「はい。約束、します」
今度は――
昨日とは違う顔で




