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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第四十話 掴めない距離 ーカフェの窓際ー

オープンキャンバスが終わって最初の土曜日


カフェの窓際。 昼下がり。

人のざわめきと、コーヒーの香り。


弓場は、。

「ねえ、江梨子」


御影はカップを傾けたまま、視線だけを寄越す。


「春日くんの“あれ”さ」


一拍。


「やっぱり、いわゆる“半歩”だよね」


御影の手が、わずかに止まる。

「……だね」

短く返す。


弓場は、少しだけ身を乗り出す。

「でもさ、普通の半歩じゃないよね」


指でテーブルを軽く叩く。

「距離を詰める半歩じゃないし、離れる半歩でもない」


御影が頷く。

「斜め」


「そう」

弓場の目が細くなる。

「“線から外れる半歩”」


空中に指で線を描く。

「相手の攻撃軌道――その“延長線上”から、ほんの少し外れる」


「でも完全には外れていない」

御影が補足する。


「だから、“そこにいるように見える”」

弓場が笑う。


「そう、それそれ」

「いるのに、当たらない」


一拍。


「いや、“いたことにならない”」

静かに言い切る。


御影が、カップを置く。

「しかもあれ」


少しだけ考える。

「半歩を“隠してる”」


弓場が、すぐに反応する。

「うん」

「見せてないよね」


御影は、軽く指で机をなぞる。

「普通はさ」

「半歩動けば、“動いた”って見える」

「でも春日くんは違う」


弓場が続ける。

「“最初からそこにいた”みたいに見える」


二人の間に、少しの沈黙。


そして。

弓場が、ぽつりと呟く。

「ずるいよね」


御影が笑う。

「技術的にはね」


弓場も笑う。

「いやほんと」


一拍。

「だからさ… いや、でも。」


少し真面目な声になる。

「空手相手だと、崩れる 制しきれない」


御影は否定しない。

「うん」


弓場は指を立てる。

「打撃ってさ、“そこにいる前提”で組み立てるじゃん」

「間合いも、タイミングも、当たる位置も」


御影が頷く。

「でも春日は――」


弓場は言葉を選ぶ。

「“前提を外してくる”」


「打撃同士は違う」

「点が面としてある」

「しかも連続で」


一拍。


「だから、“半歩”が間に合わなくなる」


御影が、ゆっくり頷く。

「うん」


「半歩の“準備時間”がない」

弓場が、少しだけ満足そうに息を吐く。

「でね」


御影を見る。

「もう一個ある」


「なに?」


弓場は、少しだけ考えてから言った。

「半歩ってさ」

「“逃げ”じゃないんだよね」


弓場は続ける。

「むしろ、“入り”なんだよ」


空中で手を動かす。

「相手の中に“入って”、ズラす」

「外から避けてるわけじゃない」


御影が、静かに言う。

「だから、無駄がない」


「そう」

弓場は笑う。


「だから面白い」


一拍。


そして、少しだけ声を落とす。

「でもさ」


「だから、当て合うこと前提の近代格闘技相手だと…」

「崩れる」


御影は、少しだけ笑う。

「でも、それがいいんでしょ?」


弓場も笑う。

「うん…」


一拍。


弓場は微笑みながら

「私の知らない世界… 面白い」


「ふーん」

御影は、カフェオレを一口。


そして、ポツリと一言

「もう一回、やりたいな」


御影が、すぐに返す。

「どっちで?」


弓場は、物思いに

「決まってるけど…」


少しだけ間を置いて――

「半歩が“通じる側” 見たい」


御影の口元が、わずかに上がる。

「……剣?」


弓場は、ストローを止めた。

「そう… でも、ちがうのかなぁ…」


静かに。

「今度は、“彼の世界” で かな?」


「何それ~ どうしたの~?」



ーーーーーーーーーー

カフェの入口 


ガラス越しに、店内のざわめきが見える。


(……ここか)


春日は、一度だけ呼吸を整えた。


(澪先輩の指導――実践)


そして、扉を開ける。


カラン、と音。


店内。


先に来ていた御影が、楽しそうに手を振る。


「春日くーん!」


その横で、弓場もこちらを見る。


春日は、一歩前に出る。


そして――

真顔で言った。


「本日は、お時間をいただきありがとうございます」


「……え?」


弓場が固まる。


「適切に会話し、相槌を打ち、必要に応じて質問を行います また、答えます」


「待って待って」


「また、あなたは面白い人ですね」


「早い早い!」


「なお、殴打および過度な接触は行いません」


「しないで!?」


弓場は、ついに耐えきれず、腹を抱えて笑い出した。


「なにそれ!」


春日は、真剣なまま。


「澪先輩の指導です」


「あの人かぁ……」


弓場は、涙を拭きながら笑う。


「最高じゃん」


一拍。


春日は、わずかに間を置いてから言う。


「横に座ってもよろしいでしょうか」


弓場は、にこっと笑った。


「うん、いいよ。春日くん」


その一言に、春日は小さく頷く。


「はい」


(……よし、成功だ)


ぎこちないまま、椅子に腰を下ろす。


ーーーーーーーーーー


弓場のカバンには、

タヌキのキーホルダーが付いていた


ーーーーーーーーーー



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