第二十五話 破れないもの ー止まっている技 形ではないものー
訓練場の一角。
的に向かって、乾いた音が続く。
――カン。
手裏剣が弾かれ、床に落ちた。
春日は無言でそれを拾う。
もう一度。
投げる。
「……わざと外してるわけじゃないね」
後ろから声。
振り向かなくても分かる。
御影だった。
春日は答えない。
手裏剣を握り直す。
投げる。
今度は刺さる。
「ねえ」
御影の視線が、春日の腰へ落ちる。
小太刀。
「それ、試合で抜かないよね」
「……」
「重いの?」
「……違います」
即答だった。
御影は小さく頷く。
「じゃあ、邪魔?」
「……違います」
わずかな間。
「ふーん」
それ以上は聞かない。
代わりに、的を見る。
「さっきの」
「手裏剣、真っ直ぐ飛んでないね」
「……は?」
思わず振り向く。
御影は、あくまで淡々と。
「狙いは合ってるのに、最後で逃げてる」
「力……っていうか、気持ちかな」
春日の眉がわずかに寄る。
「……そんなことは」
言いかけて、止まる。
御影は続ける。
「踏み込みも浅いし」
「途中でやめてる感じ」
「もったいない」
それだけ言う。
春日は黙る。
(違う)
(そうじゃない)
分かっているのに、言葉にならない。
御影は、その顔を見て――視線を外す。
「前にさ」
落ちていた手裏剣を拾う。
「なんで、今も私がこれやってるのかって聞いたよね」
「……はい」
「答え、出た?」
「……出てません」
御影は、軽く頷く。
「そっか」
少しだけ間を置いて。
「鷹宮先輩がさ」
春日の表情が、わずかに動く。
「強くなるなら、教えも伝統も壊すって」
淡々と。
「どう思う?」
「……分かる気はします」
少し迷って。
「でも、分からないです」
御影は、わずかに目を細める。
「何が?」
「全部です」
言い切る。
「自分が……俺は……」
「何をしたいのかも」
「何に拘ってるのかも」
「……分からない」
手を見る。
御影は、その手を一瞬だけ見て――
すぐに視線を外す。
(……そこじゃない)
でも、言わない。
代わりに。
「じゃあさ」
軽く言う。
「今のままでいいんじゃない」
「……え?」
「分からないまま、やれば」
あっさり。
「途中で止める方が、変でしょ」
春日は、黙る。
「ほら」
御影が的を見る。
「もう一回」
春日は手裏剣を構える。
踏み込む。
投げる。
――刺さる。
御影も、隣で構える。
打つ。
打つ。
(……違うよ)
(逃げてるんじゃない)
(選んでないだけ)
(どっちも、まだ)
言わない。
「まぁ」
小さく呟く。
「今は、それでいいんじゃない」




