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俺は仕立屋。身長は二メートル――ゴリマッチョは不器用だと誰が決めた? 副業は用心棒だ。文句があるか?  作者: 藍染 迅


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第13話 アンデッドとの戦い

 三日目の朝、俺たちは第七層の探索を始めた。フォーメーションは前日と同じ二列隊形だ。

 階段を降りたところは狭い通路で、二人並ぶのがようやくという横幅だった。


 しばらく通路を進んだところで、前方にぼんやりと炎が浮かんだ。


「敵だ! 距離二十メートルに複数、種類と数は不明!」


 叫びながらハクは素早く後退した。入れ替わりにガンダルとクラウドが前に出て、壁を作る。

 その陰からミレイとハクが矢を射る構えを取った。


 俺が入り込む隙間はないが、念のため俺も弓を準備しておいた。

 飛行型の<魔獣>や天井を這う<魔獣>が現れる可能性もあるからな。


 俺の弓術はオーソドックスなものだ。ミレイのように速射はできない。

 ひたすら正確性と威力に集中して腕を磨いた。


『お前は体幹が強く、膂力もある。小細工を弄さず、矢の威力を高めることを目指せ』


 弓術ジジイはそう言って、俺に強弓の引き方を仕込んだ。


 ミレイの力に合わせた予備弓は、俺が引くには大分柔らかい。それでも俺なら弓のポテンシャルを最大限に引き出すことができる。

 射線さえ通れば最後尾からでも攻撃に参加できるのだが、横幅の狭いこの通路では難しかった。


 ヒュッ。


 風を鳴らしてミレイの矢が飛んでいく。闇に浮かんだ炎の近くに飛んでいったはずだが、当たった様子が目には見えない。


「ちっ! 当たっているとは思うんだけど……。<ライト・アロー>!」


 ミレイが唱えると、弓につがえた矢が光を発した。周囲を照らす<ライト>の魔術を矢にまとわせたようだ。


 カンッ!


 乾いた音を立てて、光る矢は宙に突き立った。狙い通り当たった場所の周囲を明かりが照らす。


「うん? アレは! 敵は<スケルトン>二体だよ!」


 盾と剣を構えた骸骨が二体、闇の中に立っていた。青い炎は<スケルトン>の眼窩の奥で光る燐光だった。

 <スケルトン>はそれほど強力な<魔獣>ではないが、矢や刺突武器が効きにくい。


 弱点は斬撃や打撃、そして火炎攻撃だ。


「アタシの腕では弓で倒すのは無理かも。投石に切り替えるわ。近づかれたら後はお願いね、ガンダル」


 ミレイとハクは弓を置き、スリングを取り出した。縄の中央に革製のかごをつけた投石器だ。

 手で直接石を投げるよりも飛距離と威力が増す。


 スリングを振り回すスペースを確保するために、二人はガンダルの前に出た。


 ルークとサンドが申し合わせたように二人の後ろで石を拾い、足元に供給する。俺も後方から石を集めてルークを手伝った。


 ヒョウッ!


 矢の時よりも太い風切り音を立てて、拳大の石が飛んでいった。ミレイはいろんな遠距離攻撃パターンを持っているようだ。

 ハクもミレイに続いて投石する。


 ガシャン!


 ミレイの石が<スケルトン>のろっ骨を何本か砕いた。一瞬よろけた<スケルトン>だったが、何事もなかったように歩き始めた。

 有効な攻撃を受けて俺たちを敵として認めたようだ。


 もう一体の<スケルトン>は、光る矢がろっ骨に刺さったまま、一体目に続いて歩き始める。


「来るぞ! 投石は足元を狙え! 脚が折れれば歩けなくなる」


 戦況を見極めたクラウドが落ち着いて指示を出した。

 戦いに夢中になると、状況を見失いがちだ。冷静に状況を読んで、わかりやすく指示を出すことがリーダーの大切な役割だった。


 <スケルトン>は生物ではない。馬鹿正直に頭や心臓を狙っても、簡単には倒せないのだ。

 まずは動けなくして、その上で無力化してやればいい。それが安全な戦い方だった。


 狙いを低く変えたミレイの石が、ダンジョンの床に跳ね返って<スケルトン>の膝に命中した。白い骨片をまき散らしながら<スケルトン>の膝から下が吹き飛ぶ。

 片足を飛ばされた<スケルトン>はバランスを失って、地面に倒れた。


「やった! 一体転ばせたわ!」

「よし! ミレイ、ハク、今のうちに下がれ!」


 投石していた二人は前衛と場所を入れ替わった。


 倒れた<スケルトン>は盾を捨てて、床を這って進もうとするが、スピードは亀のようにのろい。

 当面の敵は歩いて迫る残り一体だ。


『<スケルトン>はそれほど手ごわい<魔獣>ではないんだな』


 魔獣学ジジイがそう言っていた。

 

 不死の存在(アンデッド)が「魔獣」というのもおかしい気がするが、そもそも<魔獣>とは生き物ではない。「こういう<魔獣>もいる」と飲み込むしかないのだ。


 アンデッド共通の恐ろしさは「苦痛を感じない」ところだ。体内の魔石を砕くか、奪い取らない限り、奴らは動き続ける。


 こいつらには毒が効かないので、長期戦で弱らせることも難しい。


 <スケルトン>の場合、「剛腕の剣士」並の戦闘力がある。達人ではないが、油断できる相手でもない。


 だが、一体だけなら「山嵐」の敵ではない。


「だぁっ!」


 間合いに入った<スケルトン>の攻撃を待たず、ガンダルは自ら大剣を叩きつけに行った。

 新たな敵が現れる前に速攻で倒そうという意図だろう。


 <雪豹>の俊敏性も、<火虎>のパワーも持たない<スケルトン>は、ガンダルにとって脅威ではなかった。

 <スケルトン>は盾を掲げて大剣を受けようとしたが、力負けして弾き飛ばされた。


 ガンダルの斬撃が<スケルトン>の左肩を砕いた。骨だけの左腕が盾を持ったまま、音を立てて地面に落ちる。


 <スケルトン>は右手の剣で反撃しようとしたが、左腕を失ってバランスを崩し、斬りつけた剣はガンダルの盾をかすめただけだった。


「オラッ!」


 気合を込めてガンダルは大剣を右から左に振った。がら空きになった<スケルトン>の左胸から右わき腹へと、うなりを上げた大剣が走り抜けた。


 大剣の通り道に魔石があった。


 魔石が砕かれると同時に<スケルトン>の体が地面に崩れ落ち、そのまま黒い瘴気となって拡散する。


「立ってる奴はやったぞ!」


 その頃になって片足を失った<スケルトン>が、パーティーに近づいてきた。


「こいつは俺がとどめを刺そう」


 クラウドはするすると前に出た。


 いかつい革靴で<スケルトン>の頭を蹴り飛ばし――文字通り頭蓋骨が飛んでいった――剣を持つ右手に大剣を振り下ろした。


「ふんっ!」


 これでもう<スケルトン>は戦闘力を失った。

 クラウドはどんと踏み下ろした足で背骨を踏みつけると、あばらの間から黒い魔石をつかみ取った。


 <スケルトン>の骨がバラバラに崩れ、瘴気に変わった。


「ツバキ、こいつを頼む」


 アンデッドという奴は滅多にドロップ品を落とさない。倒して手に入れられるのは魔石だけということがほとんどだ。


 持っていた剣や盾まで瘴気になって消えちまうのはどういうわけか、不思議に思ったもんだ。


『ありゃあ、<スケルトン>という存在の一部なんだな。<魔獣>そのものがダンジョンによって創り出された存在だな。だから装備品を創り出しても、不思議はないんだな』


 もっともたまには殺された冒険者の武器を拾って使う個体がいるらしい。


『そういうのはたいがいイレギュラーなんだな。並の個体より知恵が高いな。戦闘力も別格だから用心せんと危ないんだな』


 魔獣学ジジイは、<魔獣>のことを語りだすと嬉々としてきりがなかった。


 あのジジイは何で用心棒なんかやっていたんだろう? 大方、そこで出会う冒険者崩れから<魔獣>の情報を仕入れることが目的だったんだろうな。


 冒険者から奪った装備の場合は、<魔獣>が瘴気になっても消えたりしない。名のある冒険者の遺品だと、名剣の類だったりする。

 それを長年<魔獣>が装備していると剣に瘴気が籠って、魔力の通りがよくなる。

 

 そういうものは「魔剣」と呼ばれ、魔術発動体として高い価値を持つのだ。


 優れた名剣が土台となって魔剣化したものは特に貴重で、王侯貴族垂涎の的だ。

 気持ちはわかる。いい道具は持っているだけでうれしくなるからな。

 

「みんな聞いてくれ。この層になって初めて<スケルトン>に遭遇した。事によると、第七層はアンデッドの階層かもしれん。まだ断定はできんが、その可能性を頭に入れておいてくれ」


 なるほど。これはクラウドの直観だろうが、無視はできないな。ベテラン冒険者の勘という奴だ。


 当たるか当たらないかは知らんが、クラウドの意見を頭に入れておこう。アンデッドが続けて出てきても慌てないようにな。

 アンデッドという奴は死人の姿を連想させるので、精神的に()()ものがある。


「前方に気配! 距離不明だが……くせえぞ」


 鼻にしわを寄せてハクが振り返った。悪臭を伴う<魔獣>はいくつかいるが、ここで出て来るとしたらあいつらか。


「灯りを飛ばすよ。<ライト・アロー>!」


 ミレイが前に出てハクに並び、矢を放った。


 どすっ!


 何かに矢が当たる音が聞こえ、五十メートルほど先の空間が明るくなった。


「うっ、やっぱりか。<屍鬼(グール)>がいやがる。三体、いや四体か」


 閉口したようにハクが吐き捨てた。


 <屍鬼>。


 会いたくないアンデッドの一つだ。臭い、汚い、気味が悪いの三拍子が揃っている。

 腐りかけの死体が歩いているようなもんだからな。


 えーと、<屍鬼>の弱点は確か火だったな。

 ミレイが火炎系魔術を使えれば、相性が一番いい。


「なあ、ミレイって火炎系魔術を使えるか?」


 俺は隊列の後ろからミレイに声をかけた。ここでも隊列は二列渋滞なので、ミレイまでの距離は近い。


「んー、残念ながら使えないわ。火が使えれば焼き払えるんだけど」

「そうか。なら、火矢を使おう」


 俺はそう言うと、取り出した矢の先にぼろきれを巻きつけた。同じものを二本作り、地面に置いた荷物から油の入った瓶を取り出す。

 手早く、ぼろきれに油を振りかけ、矢の一本をミレイに渡した。油瓶にもぼろきれを詰め、ハクに手渡す。


「今からぼろきれに火をつける。俺とミレイが矢を射かけたら、ハクは油瓶を投げつけてくれ」


 火炎魔法がないなら、油で火をつけてやろうというわけだ。<屍鬼>との距離は四十メートルまで近づいている。

 火矢なら必中だし、ハクの投擲でも十分届く。


 俺は腰の火壺から火種をぼろきれに移した。


「よし、ミレイ! 矢を放て!」

「了解! 食らえっ!」


 ミレイが放った火矢は先頭を歩く<屍鬼>の一体に命中した。すかさず俺も火矢を弓につがえ、<屍鬼>に向けて放った。


 (ひょう)


 ミレイの矢とは異なるうなりを上げて、俺の矢が別の<屍鬼>に突き立った。それだけでなく、矢の勢いに押されて<屍鬼>は後ろに続く一体に倒れ掛かる。


「ハク!」

「しゃあっ!」


 ハクの投じた油瓶は弧を描いて俺が射た<屍鬼>に当たった。瓶が割れ中身の油が飛び散ると、火種から引火して大きな炎が広がる。


「大当たりだ」

「へへ。ざまあみろってんだ」


 広がった炎は周りの<屍鬼>にも燃え移った。

 俺が射た<屍鬼>とその後ろの一体、そしてミレイの射た一体は全身に炎が燃え広がって、地面に倒れた。


 最後の一体は左腕から炎を上げ、よろめきながら進み続ける。


「もう一本油を浴びせてやろうか?」

「いや、油がもったいない。俺が倒す」


 はやるハクを押さえて、ガンダルが盾を掲げて進み出た。五歩進むとどっしりと腰を落とし、盾を地面に据えて大剣を振りかぶる。


 炎が首まで広がった<屍鬼>は、ガンダルの姿が見えているのか。引きずるような足どりで、ようやくガンダルの間合いに入った。


「はっ! しゃっ!」


 <屍鬼>の胸をかちあげるようにガンダルは盾を打ちつけ、よろめく<屍鬼>に大剣を振り下ろした。

 右上から左下へと振り下ろした剣は、<屍鬼>の上体を斜めに切断した。


 肉片と焦げ茶色の体液が地面に飛び散る。ガンダルは幸い返り血を浴びなかったようだ。


 辺りに腐臭と腐肉の燃える匂いが立ち込める。


 次の瞬間には匂いと魔石だけを残して、<屍鬼>たちは瘴気となって消えた。


「よし。全滅を確認した。ツバキ、魔石を」

「ああ」


 俺は地面で燃え残る火を踏み消しながら、魔石を拾い集めた。


「<屍鬼>の倒し方を知っていたのか?」

「火に弱いってことを、<魔獣>に詳しいジジイに聞いたことがあってね」


 火炎瓶一つで<魔獣>が倒せる。それは意外に冒険者たちにも知られていない。

 もちろん火を弱点とするという特性を持つ<魔獣>だけに通用する「()」だ。


「もしかして<スケルトン>にも火が効くのか?」

「ああ。ただあいつらに油を使うのはもったいない。石礫で十分だからな」

「そういうことか」


 <屍鬼>はガンダルたちの手にかかれば、大した敵ではない。しかし、匂いがたまらん。体液を体中に浴びたりしたら、それだけで気分が悪くなる。

 接触せずに倒したい相手だった。


 何より服に()()がつくじゃないか。それはできるだけ避けたい事態だ。


 俺がそう言うと、クラウドは呆れたような顔をした。

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