②サイラ―ジュの守護龍
ドラゴンの灼熱の炎が男の眼前で大気に分散してゆく。
周囲に真紅の雨が降り注いだ。
炎が大地をたたく。
何かの物質を核として燃えているのではなく、地に岩を投げ打ったように大地が砕けた。
黒い剣士の目の前に不可視の光の壁が現れ、ドラゴンブレスを防いだのだ。
熱風すら、男の頬を掠めないがその聖魔法の奇跡に黒い剣士の頬を汗が滴った。
炎が止んだと同時に光の壁も消滅する。
「この力は神が授けた……」
高司祭が呟いたのは、S級聖魔法の奇跡。
光の防護壁。
物理攻撃最強のドラゴンブレス、ほぼ最強の攻撃魔法である魔人将のA級闇撃魔法ダークマターすら全ての防ぐ、光属性を活かした防御壁だ。
詠唱も短く、これだけの奇跡を起こしたのか。
流石の黒い戦士も驚きを隠せない。
十余年前の魔人将イノセンスとの戦いで大司祭ギメルも使用したS級光魔法を神器の補正があるとはいえ、若いフラーマが使用したのだから。
「……悪いな、あてにしてるぜ」
男はそう言うとドラゴンに駆け出す。
「はい、あてにされました」
女の表情は窺い知れないが、剣士に攻撃力、防御力、素早さの強化魔法を唱える。
そして男とは別方向に走り出す。
男は高司祭に「目を閉じてろ!」そう言いながら、腰のポーチから何かを取り出し、ドラゴンの鼻先に放り投げた。
次の瞬間、その何かが破裂して光が弾ける。
光の魔法ライトニングを宿した閃光手榴弾だ。
「グゴォォォォォォ、ゴガヤァァァァッ!?」
眼前の光で目を灼かれたドラゴンは悲鳴をあげ、その場でもだえた。
男はそのままドラゴンと肉薄し、被弾覚悟でドラゴンスレイヤーを渾身の力でドラゴンの首にたたきつけた。
鉄塊は鱗と衝突し、火花と血が同時に飛び散った。
男の予想どおり、ドラゴンの皮膚のベースは魚類あるいは両生類のそれだった。
高司祭は左手の指を目じりに当てていた。
私に目を閉じろと……。
まさか…。
ドラゴンと戦う男を見つめながら、下唇を強く噛み締める。
人間がドラゴンを倒す?
私の守護龍を使徒である……
否! 女神である私のドラゴンを――――――
「ゴガガァァァァァァァッ!!」
ドラゴンが天を突くような咆哮をあげる。
その音の波があたりを薙ぎ払い、男は堪らず耳を押さえ、しゃがみ込んだ。
次の瞬間、目の前で暴風が弾けた。
ドラゴンがその巨体を横向きに回転させたのだ。
まるで小さな嵐だった。
一回転する巨体が、長い尾が周囲にあるものをフルスイングで打ち飛ばす。
「うぉっ!」
間一髪、構えたドラゴンスレイヤーが強烈な尻尾の一撃を受け止めた。
だが、男も後方へ打ち飛ばされる。
そして、ドラゴンは予想外の動きを見せた。
巨大な翼を広げ、羽ばたいたのだ。
その巨躯が、その力によって浮き上がる。
上昇したドラゴンは湖の方向へ飛び去ってしまった。
「追うぞ」
だが、高司祭は呆然と立ち尽くして男を見ていた。
「どうした?」
「……ご、ご無事で何よりです(ドラゴンの攻撃を受け止めた……これが対竜剣ドラゴンスレイヤー、そして、これが戦闘用に作られた造魔人の力…)」
連合軍に数で劣る皇帝ガイゼリックは暗黒教団の人体兵器エクステンデッドを採用した。
1人目〝アレフ〟は試作型でブースデッドと言われているが、力とHPに全振りした常人離れの戦士。
そして、その対竜剣ドラゴンスレイヤーはドラゴンと人が対等に戦えるように鍛えた大剣だと。
私の目の前にいる剣士はドラゴンと1人で同等以上に戦っている。
ただのドラゴンではない。
私が秘宝で転生させた使徒。
至高神の啓示を受け、15歳でヴァルキリーを継承した私だけが扱えるエンシェント魔法〝自己蘇生の奇跡リジェネレイト〟を施しているドラゴンと――ッ!
「ドラゴンは水の神殿で間違いありません。ご案内いたしましょう」
彼に名はない。
だだ彼の剣は人々からこう呼ばれる〝ドラゴンスレイヤー〟と。
(この英雄的な強さ……文献にたったひとつだけ、思い当たる人物がいる……古の聖魔王レオンハルト……勇者であり、魔王であり、聖魔の盟約を制定した英雄。司祭ギメル、聖騎士ダレス、剣匠ザイン……最強の戦士たちと共闘したとはいえ、魔人イノセンスを斃したことも共通している)
まさか……私は今、伝説の英雄を目の前にしている?
暗黒教団の生体兵器第1号アレフ……古の英雄のクローンなのではと……。
「……決着を着けましょう」
高司祭は水の神殿に向かって歩き出した。




