①サイラ―ジュの守護龍
その湿地帯から水の神殿が見える。
高司祭フラーマは神殿騎士たちが止めるのも聞かず、水没林まで黒い戦士と同行した。
「本当によろしいので?」
黒い戦士からやや離れた位置で神殿騎士が高司祭に問う。
高司祭は「黒い戦士と共にドラゴンと戦う」と言い、神殿騎士たちが仲裁に入るのを聞かないのだ。
「剣士様は地理に疎いハズです。私は彼と共にドラゴンを倒します。高司祭として大司教様や神殿騎士たちの無念を晴らさなければなりません」
そう言い、神殿騎士に馬車の馬を解放する。
神殿騎士は馬に跨ると全速力でその場を後にした。
「馬は可哀そうだけど……うまく逃げてね」
高司祭が呟いたそのときだった。
「ぎぎゃああぁぁあぁぁああぁぁっ!」
さきほどの騎士と思われる叫び声が水没林に木霊したのだ。
「剣士様!」
フラーマは男に振り返る。
到着して間もなく、ドラゴンが現れたのだ。
「俺たちを待っていたようだな」
木々の向こうで何者かの眼光が鋭く輝いた。
青黒い謎のドラゴンが黒い戦士を睨みつけている。
「ゴワァオオオォォォォォォォォォォッ!!」
自らの領域、水の神殿の守護竜であるかのように、全身から殺気を発散して襲い掛かってきた。
「なっ!?」
木々を押し倒し、それはいきなり跳びかかってきた。
全身を躍動させ、狼のように四本の脚を動かし低い姿勢から一気に距離を詰めてくる。
大振りの一撃とすれ違う瞬間、男はドラゴンを見た。
一見すると四本脚の竜狼型のドラゴン。
地上の竜と飛竜との違いは、飛竜種は二本脚で、前脚を進化させ翼とする。
だが、この謎のドラゴン。
前脚はそのままで外側面にたたまれた皮膜の翼がある。
皮膚も甲殻と言うよりは鱗のようにも見えた。
そして戦闘モードになったかのように通常のドラゴン型に形状が、変わっていく。
陸海空すべてで行動できる万能のドラゴンということになるのか?
だが、このドラゴンは湖を自らの領域としているのだ。
そして、青く竜狼のような形状の身体は大きな翼を広げ、色も青だけでなく何度か変色もした。
「どうやら普通のドラゴンではないな!状況に応じで属性を変えやがる!」
黒い戦士は無意識に高司祭の前に出てドラゴンスレイヤーを立て、その腹でドラゴンの一撃を受け止めようと防御の構えを取った。
「なんですって?」
驚く高司祭の声を背中で受け止めながら、男は敵を観察した。
「ああ、間違いねぇ。このドラゴンは秘宝の欠片で転生したドラゴンだ!」
全身の筋肉をバネのように繰り出される速度の乗った強烈な一撃がドラゴンスレイヤーに激突する。
鉄塊が折れてしまうような衝撃が男の全身を貫いた。
幸いにも、人々にドラゴンスレイヤーと謳われる大剣は強烈な一撃をしのぎきる。
体勢を崩す男を尻目にドラゴンは後方へ走り抜けた。
男が大剣を正眼に構えるころには、ドラゴンは反転し体勢を整え、再び男を睨みつけた。
単純な速度だけでなく、隙がない。
かつ、怒りをむき出して襲いかかってくる。
泥濘に足を取られるこの場所では、いかに黒い戦士といえども苦戦を強いられた。
「なっ!? 嘘でしょ……人間が……ドラゴンと1対1で戦っている?」
フラーマは驚愕を隠せなかった。
何故、ドラゴンがドラゴンと呼ばれるのか。
一部の大型モンスターも形状がドラゴンと大きく異なるのにドラゴンと呼ばれることもある。
「ドラゴンって倒せないからドラゴンって呼ばれるのよ!」
低い姿勢だったドラゴンは上半身を起こした。
皮膜を広げ、仁王立ちし、全身に半端ではない力が込められていくのが見て取れた。
腹部から、練り上げられた何かが胴体内を駆け上がる。
「ゴガアァァァァァァァ!!」
――ドラゴンブレスッ!?
黒い戦士の目に映るは全てが真紅の炎。
「剣士様!」
高司祭はヴァルキリーの杖をとっさに天にかざし、至高神の名を唱えた。




