2.サルモン神殿・高司祭フラーマ
「堅苦しいところより、こういったところの方がお話が進むのではなくて? 幸いにもサイラ―ジュは水の都、冷たい水割りがおすすめですのよ」
「いや、2人きりで床の中の方が話は進むと思うが……」
街の酒場に案内された黒い戦士はビールを注文した。
「このサイラージュを南に下った湖の中に旧サルモン神殿があります。その水没林にドラゴンが現れたと報告がありました。正義感の強い大司祭様は神殿騎士団の主力と共にドラゴンの確認に向かったのです。私どもの知る一般のドラゴンではなく……謎のドラゴンです。残念ながら、大司祭と神殿騎士団長も戻ることはありませんでした。敵を見てから十分な作戦を考える計画だったのでそれらが裏目に出てしまったのだと思います」
高司祭の沈鬱な表情。
「謎のドラゴンか……」
黒い戦士は顎に手を当て、思考する。
「まさか心当たりでも?」
高司祭は驚く。
「2通りが考えられる。ひとつは造魔術などで人為的にドラゴンを改造した戦闘竜兵器。あるいは……」
――――ごくっ
高司祭は男の言葉を前に水割り飲み込む。
「暗黒の結晶……砕け散った闇のクリスタルの欠片で最大の大きさの物は秘宝ともネメシスの涙とも呼ばれるが、現存する生命体が神の力を得るために新種に生まれ変わる……いや、転生すると言ってもいい。謎のドラゴンの正体は恐らく後者だろう」
男の洞察力が想像以上だったことに高司祭は畏怖した。
完璧な計画だった。
暗黒教団の造魔術のことはよくわからないが、秘宝で転生させて作り上げたドラゴン―――――
この男はまさに超一流の戦士。
伊達に大戦の最前線を生き抜き、魔人将イノセンスを斃した4英雄のひとり……。
彼の義妹ベスこそ……魔神ネメシスの使徒イノセンスだったと言われるが……。
「……さすがですわ。ローザリア国王推薦の最強の戦士……格が違いますわね」
この男の大剣こそ、対竜剣ドラゴンスレイヤーに他ならない。
皇帝ガイゼリックが火竜王フレイムタイラントを斃すために造らせたという大剣。
教団の史書にある。
暗黒教団が禁断の秘術で作り上げた最強の旧人体兵器ブースデッド。
その第1号がアレフ。
更にアップデートした真の人体兵器が他に6体もいたと。
「対竜剣ドラゴンスレイヤー……。ただ、サルモン神殿として……いいえ、私にとって剣士様は勇者です。人々を救うためにドラゴンと戦おうと言うのですから」
高司祭は、この目の前の男に興味を持った。
どこをどう見ても、悪い男にしか見えない。
人々のため、死ぬかもしれない戦いに身を投じる者を勇者と呼ぶのではないか。
だが、このボロボロの鎧とマント。
覇王ガイゼリックが貴族たちに倒され、大陸は法という処刑台から解放されたはずだった。
だが、現実は逆であり、連合の上級貴族は自治権を争い、国が乱立して混沌と化した。
覇王が貴族たちに代わっただけではないか。
「俺は人々を救うためにドラゴンと戦うのではない」
――――はっ!?
男の言葉に高司祭は我に返った。
「あんたが一晩付き合ってくれるって言うからさ」




