07:武装破壊
開始から七分経過。
そのとき――乾いた破砕音が、ひとつ。
――パキンッ。
太陽の右手にあった"サウザンスター"――訓練用レーザーライフルが、根本から折れた。バレルに走っていた細かいひびが、最後のハーゼルの面焼きで一気に広がったのだ。
『武装破壊! 草薙のサウザンスター、ダウン!』
観客がうわぁっとどよめく。太陽は折れた銃身を反射で投げ捨て、即座に手を空にした。徒手空拳。太陽の攻撃方法は、ほぼ失われた。距離、七メートル。
「……まずい」
レオンが息を飲む。ほぼ唯一の牽制が消えた。今後の"間合い"は、さらに厳しい。
「よーちゃん、スモーク優先、デコイ節約」
『了解!』
太陽は足を入れ替え、前へ。距離、五メートル。
(進んでくる?!)
カタリーナが眉をひそめる――そう、前へ突進したのだ。
『"ひるめ"、武装を失ってなお前進!』
リーナの眉が薄く上がる。
(銃を捨てても、来る……どこまで"受け"で押すつもり?)
彼女は瞬時に判断する。距離を取る、ではなく――突く。
白銀の銃身が熱を帯びる。ハーゼルの面焼きが角度を変える。ゴルトは囲みを狭める。
太陽は煙の向こうで顎を引き、前装甲を立てた――凄まじい爆発音とともに視界の端で、メイン装甲のパージラインが微かに光る。
《NOTICE:FRONT ARMOR SECTION A / STRESS LIMIT》
「トリィ!」
「分かってる。――まだ"剥がさない"。いま剥がすと"軽さ"に身体がついていかない」
翼の声は落ち着いている。だが、指先には汗が滲む。UZUMEの限界許容量を指し示すバーが『95%』で揺れて、戻る。戻るが、揺れる。
「バルト、視覚」
「良い。リーナの"間"が短くなっている。焦っている」
アシェンプテルの胸奥で《コールドⅡ》がさらに唸る。体温低下のアイコンは、もう赤だ。
《警告:PILOT BODY TEMP ↓ 3.4℃》
(こんな――程度で)
リーナは感情を鎖で縛る。呼吸を整え、視線だけで「終わらせる」スイッチを押す。
「――終わりよ」
ゴルトの翼が全開、黄金の尾が四条から六条へ。シルバーのチャージは無音の起点。ハーゼルが面で刻む。距離、五メートル。
『アシェンプテル、殺しの陣形! これは"終幕"の形!』
太陽は親指を二度。ルカが叫ぶ。
「プリセットD! 角度三割増し!」
白煙、デコイ、半歩遅れ、二回折れ――すべてを"過剰"に重ねる。重い。ぐらり、視野が揺れる。
HUDに、赤。
《ALERT:UZUME LOAD 97%》
《ALERT:FRONT ARMOR SECTION A CRACK PROPAGATION》
「……っ!」
翼が思わず椅子から半分立ち上がる。レナの指が走り、レオンが言葉を飲み込む。サヤが手を合わせ、ジョウがパージレールに手をかける。バルトは目で頷いた。
「まだ。――まだ"剥がさない"」
太陽の息は荒い。だが、声は折れない。
『行ける。……まだ、行ける!』
アシェンプテルのダス・シルバーからの閃光がきらめく。それに、ハーゼルの乱射が重ねられる。
角度で受ける。
黄金の尾が遅れて刺しに来る。
二回折れで、捌く。
その刹那。
バシュッ。
紅白の胸板から、細いパネルが一枚――"弾けて"飛んだ。空中で白い霜を散らし、床にカランと落ちる。
『パージだ! "ひるめ"、装甲パージ!』
否、意図的ではない。限界を迎えた"セクションA"が、自動開放に入ったのだ。剥がれた下には、もう一枚の薄装甲と、複雑な熱回路が覗く。
「……っ、ここで来たか」
翼の声がわずかに震える。だが、表情は崩れない。
「いい。"殻"が一枚減った。軽くなる。――よーちゃん、姿勢制御、ひとつ上げる」
『ああ!』
太陽の体が、空気の"軽さ"にわずかに戸惑い、すぐに馴染む。重心の落とし方を変え、スラスターの噴き方を合わせる。――さっきよりも、わずかにだが更に"曲がる"。
距離、三メートル。
『"ひるめ"、軽くなった! 動きが――』
だが、同時に"うずめ"のバーが、『98%』で揺れる。受ける熱は減っていない。むしろ装甲が減ったぶん、負荷はダイレクトに来る。




