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A.Z.〈アブソリュート・ゼロ〉  作者: 軟膏
第1章『セルシウスフェス』
9/25

07:武装破壊

 開始から七分経過。

 そのとき――乾いた破砕音が、ひとつ。

 ――パキンッ。

 太陽の右手にあった"サウザンスター"――訓練用レーザーライフルが、根本から折れた。バレルに走っていた細かいひびが、最後のハーゼルの面焼きで一気に広がったのだ。


『武装破壊! 草薙のサウザンスター、ダウン!』


 観客がうわぁっとどよめく。太陽は折れた銃身を反射で投げ捨て、即座に手を空にした。徒手空拳。太陽の攻撃方法は、ほぼ失われた。距離、七メートル。


「……まずい」


 レオンが息を飲む。ほぼ唯一の牽制が消えた。今後の"間合い"は、さらに厳しい。


「よーちゃん、スモーク優先、デコイ節約」

『了解!』


 太陽は足を入れ替え、前へ。距離、五メートル。


(進んでくる?!)


 カタリーナが眉をひそめる――そう、前へ突進したのだ。


『"ひるめ"、武装を失ってなお前進!』


 リーナの眉が薄く上がる。


(銃を捨てても、来る……どこまで"受け"で押すつもり?)


 彼女は瞬時に判断する。距離を取る、ではなく――突く。

 白銀の銃身が熱を帯びる。ハーゼルの面焼きが角度を変える。ゴルトは囲みを狭める。

 太陽は煙の向こうで顎を引き、前装甲を立てた――凄まじい爆発音とともに視界の端で、メイン装甲のパージラインが微かに光る。


《NOTICE:FRONT ARMOR SECTION A / STRESS LIMIT》

「トリィ!」

「分かってる。――まだ"剥がさない"。いま剥がすと"軽さ"に身体がついていかない」


 翼の声は落ち着いている。だが、指先には汗が滲む。UZUMEの限界許容量を指し示すバーが『95%』で揺れて、戻る。戻るが、揺れる。


「バルト、視覚」

「良い。リーナの"間"が短くなっている。焦っている」


 アシェンプテルの胸奥で《コールドⅡ》がさらに唸る。体温低下のアイコンは、もう赤だ。


《警告:PILOT BODY TEMP ↓ 3.4℃》

(こんな――程度で)


 リーナは感情を鎖で縛る。呼吸を整え、視線だけで「終わらせる」スイッチを押す。


「――終わりよ」


 ゴルトの翼が全開、黄金の尾が四条から六条へ。シルバーのチャージは無音の起点。ハーゼルが面で刻む。距離、五メートル。


『アシェンプテル、殺しの陣形! これは"終幕"の形!』


 太陽は親指を二度。ルカが叫ぶ。


「プリセットD! 角度三割増し!」


 白煙、デコイ、半歩遅れ、二回折れ――すべてを"過剰"に重ねる。重い。ぐらり、視野が揺れる。

 HUDに、赤。


《ALERT:UZUME LOAD 97%》

《ALERT:FRONT ARMOR SECTION A CRACK PROPAGATION》

「……っ!」


 翼が思わず椅子から半分立ち上がる。レナの指が走り、レオンが言葉を飲み込む。サヤが手を合わせ、ジョウがパージレールに手をかける。バルトは目で頷いた。


「まだ。――まだ"剥がさない"」


 太陽の息は荒い。だが、声は折れない。


『行ける。……まだ、行ける!』


 アシェンプテルのダス・シルバーからの閃光がきらめく。それに、ハーゼルの乱射が重ねられる。

 角度で受ける。

 黄金の尾が遅れて刺しに来る。

 二回折れで、捌く。

 その刹那。

 バシュッ。

 紅白の胸板から、細いパネルが一枚――"弾けて"飛んだ。空中で白い霜を散らし、床にカランと落ちる。


『パージだ! "ひるめ"、装甲パージ!』


 否、意図的ではない。限界を迎えた"セクションA"が、自動開放に入ったのだ。剥がれた下には、もう一枚の薄装甲と、複雑な熱回路が覗く。


「……っ、ここで来たか」


 翼の声がわずかに震える。だが、表情は崩れない。


「いい。"殻"が一枚減った。軽くなる。――よーちゃん、姿勢制御、ひとつ上げる」

『ああ!』


 太陽の体が、空気の"軽さ"にわずかに戸惑い、すぐに馴染む。重心の落とし方を変え、スラスターの噴き方を合わせる。――さっきよりも、わずかにだが更に"曲がる"。

 距離、三メートル。


『"ひるめ"、軽くなった! 動きが――』


 だが、同時に"うずめ"のバーが、『98%』で揺れる。受ける熱は減っていない。むしろ装甲が減ったぶん、負荷はダイレクトに来る。

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