05:受けて、伸ばす
開幕の一秒。
リーナの"アシェンプテル"が旋回、背の"ダス・ゴルト"がロックを外す。背部の四基のミサイルランチャーが開き、黄金に光る弾頭が姿を現す。
『ゴールドの翼が開いた――これは初手、見栄えの二連射コース!』
実況の甘い声が響く。
対する太陽の"ひるめ"は、一歩、踏み込む。重い足音が床を鳴らす。だが迷いがない。アシェンプテルとの距離が五十メートルから四十メートルへ縮まる。
『草薙選手、近い! 近いぞ! この距離でミサイルを――』
シュボッ、シュボッ。
黄金の尾が二条、空に描かれる。高速プラズマミサイル"ダス・ゴルト"だ。一発一発が人間の胴体ほどの太さで、炎の尾を引きながら直線的にひるめへ向かう。
「今!」
バックヤードで翼が叫び、レナが投射砲の回路に"手打ち"のパルスを流す。
太陽の親指がスイッチを押し、三六式投射砲がポン、ポポンと小さな音でデコイを散布する。ピンポン玉サイズのカプセルが空中で弾け、熱源を偽装する。
白煙が立ち、ゴルトの針路が、微かにぶれる。
『おっと、針路変更!? 誘導が――』
太陽は"二回折れ"の軌道を踏み、そのまま砂煙を蹴り上げた。右に半歩、左に一歩――直角に近い角度で二度折れる。重い機体が、まるでスケートのように滑る。
ゴルトの一発目が白煙に突っ込み、爆発。二発目がひるめの左肩をかすめて背後の壁に突き刺さる。
「重いが、曲がる!」
太陽の声がインカムに響く。
"ひるめ"の膝関節が低く鳴り、背のスラスターが細かく脈を打つ。距離は三十五メートル。
――だが。
次の瞬間、リーナの狙撃銃"ダス・シルバー"がジジジ……と甘い音を立てる。チャージ開始だ。銃身が白く光り始め、空気がピンと張り詰める。
(だめ、間に合わない)
翼の指先が止まりかけ、すぐに走り出す。UZUMEのバーは『97%』
最後の枝が、まだ噛み合っていない。
「レオン!」
「擬似波形、もう一段上げる! タイムスタンプ補正――入った!」
一・八秒のチャージ時間。その最後の一瞬――
――ズドン!
白い光線が"ひるめ"の胸板にズンとめり込む。直径十センチほどの光の柱が、装甲を叩く。観客席からうわっと声が上がる。
ひるめの胸部装甲が白熱し、霜が一瞬で蒸発する。機体が半歩、後ろに押される。
「……立って」
翼の祈りに、グラフが一瞬だけ跳ね、そして戻った。仮稼働の"うずめ"が、かろうじて熱の峰を丸める。受けた衝撃エネルギーが熱に変換され、太陽のソーラースーツに分散される。
『立った! 受け切ったぞ!』
実況が叫ぶ。
ひるめは膝を折らず、前装甲に焦げ跡を残しながらも、まだ立っている。距離は三十メートル。
リーナの眉が、初めて険しさを帯びる。
(付け焼刃に、ここまでの"腰"はない。――でも、どこかが未完成)
青と金が滑る。アシェンプテルが横に移動し、距離を四十メートルまで開ける。そして腰部のバルカン"ハーゼル"が火を噴く。
ザザザザッ。
連射性に優れた細いレーザー弾が、面で迫る。一発一発は細いが、数が多い。砂を削るように地面を焼きながら、ひるめへ向かう。
太陽は盾のように前面装甲を傾け、耐熱コートで受け流す。火花が散った。レーザーが装甲表面で弾かれ、熱だけが染み込む。
「よーちゃん、いい。時間稼ぎは上等」
『おう! まだいける!』
UZUMEのバーが『98%』。負荷曲線の誤差が一つ、また一つと潰れる。レナが息を詰め、ルカが親指を握りしめ、サヤが祈るように手を合わせる。
『アシェンプテル、再びゴルト! 二段目の追い矢――』
シュボッ、シュボッ。
黄金の尾が二条。だが今度は軌道が違う。最初は直線で飛び、途中で噴射ベクトルが変わる。角度は浅いが、遅れて刺す"追い矢"だ。
「二回折れ、もう一段深く!」
ルカの声に、太陽の親指が再び押し込まれる。
ひるめは重心を沈め、グンと角を曲がる。右へ、左へ。すれ違う黄金の尾が白煙へ消え、観客席がどよめいた。距離は二十五メートル。
――その時。
「入った!」
レオンが叫ぶ。UZUMEのバーが『100%』で固定された。許容値、達成。アルゴリズムの枝に緑灯が走る。
「よーちゃん、いける。……ここから"受けて伸ばす"!」
太陽の返事は短かった。
『了解!』
通信の先。紅白の機体が、わずかに姿勢を変える。受けるための"型"へ。胸のコアが一段深く脈を打ち、霜の縁取りがまた一枚、はらりと落ちた。
ゴングの余韻は、まだ空に残っている。
フェス本番――勝負は、いま、始まったばかりだ。




