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A.Z.〈アブソリュート・ゼロ〉  作者: 軟膏
第1章『セルシウスフェス』
7/25

05:受けて、伸ばす

 開幕の一秒。

 リーナの"アシェンプテル"が旋回、背の"ダス・ゴルト"がロックを外す。背部の四基のミサイルランチャーが開き、黄金に光る弾頭が姿を現す。


『ゴールドの翼が開いた――これは初手、見栄えの二連射コース!』


 実況の甘い声が響く。

 対する太陽の"ひるめ"は、一歩、踏み込む。重い足音が床を鳴らす。だが迷いがない。アシェンプテルとの距離が五十メートルから四十メートルへ縮まる。


『草薙選手、近い! 近いぞ! この距離でミサイルを――』


 シュボッ、シュボッ。

 黄金の尾が二条、空に描かれる。高速プラズマミサイル"ダス・ゴルト"だ。一発一発が人間の胴体ほどの太さで、炎の尾を引きながら直線的にひるめへ向かう。


「今!」


 バックヤードで翼が叫び、レナが投射砲の回路に"手打ち"のパルスを流す。

 太陽の親指がスイッチを押し、三六式投射砲がポン、ポポンと小さな音でデコイを散布する。ピンポン玉サイズのカプセルが空中で弾け、熱源を偽装する。

 白煙が立ち、ゴルトの針路が、微かにぶれる。


『おっと、針路変更!? 誘導が――』


 太陽は"二回折れ"の軌道を踏み、そのまま砂煙を蹴り上げた。右に半歩、左に一歩――直角に近い角度で二度折れる。重い機体が、まるでスケートのように滑る。

 ゴルトの一発目が白煙に突っ込み、爆発。二発目がひるめの左肩をかすめて背後の壁に突き刺さる。


「重いが、曲がる!」


 太陽の声がインカムに響く。

 "ひるめ"の膝関節が低く鳴り、背のスラスターが細かく脈を打つ。距離は三十五メートル。

 ――だが。

 次の瞬間、リーナの狙撃銃"ダス・シルバー"がジジジ……と甘い音を立てる。チャージ開始だ。銃身が白く光り始め、空気がピンと張り詰める。


(だめ、間に合わない)


 翼の指先が止まりかけ、すぐに走り出す。UZUMEのバーは『97%』

 最後の枝が、まだ噛み合っていない。


「レオン!」

「擬似波形、もう一段上げる! タイムスタンプ補正――入った!」


 一・八秒のチャージ時間。その最後の一瞬――

 ――ズドン!

 白い光線が"ひるめ"の胸板にズンとめり込む。直径十センチほどの光の柱が、装甲を叩く。観客席からうわっと声が上がる。

 ひるめの胸部装甲が白熱し、霜が一瞬で蒸発する。機体が半歩、後ろに押される。


「……立って」


 翼の祈りに、グラフが一瞬だけ跳ね、そして戻った。仮稼働の"うずめ"が、かろうじて熱の峰を丸める。受けた衝撃エネルギーが熱に変換され、太陽のソーラースーツに分散される。


『立った! 受け切ったぞ!』


 実況が叫ぶ。

 ひるめは膝を折らず、前装甲に焦げ跡を残しながらも、まだ立っている。距離は三十メートル。

 リーナの眉が、初めて険しさを帯びる。


(付け焼刃に、ここまでの"腰"はない。――でも、どこかが未完成)


 青と金が滑る。アシェンプテルが横に移動し、距離を四十メートルまで開ける。そして腰部のバルカン"ハーゼル"が火を噴く。

 ザザザザッ。

 連射性に優れた細いレーザー弾が、面で迫る。一発一発は細いが、数が多い。砂を削るように地面を焼きながら、ひるめへ向かう。

 太陽は盾のように前面装甲を傾け、耐熱コートで受け流す。火花が散った。レーザーが装甲表面で弾かれ、熱だけが染み込む。


「よーちゃん、いい。時間稼ぎは上等」

『おう! まだいける!』


 UZUMEのバーが『98%』。負荷曲線の誤差が一つ、また一つと潰れる。レナが息を詰め、ルカが親指を握りしめ、サヤが祈るように手を合わせる。


『アシェンプテル、再びゴルト! 二段目の追い矢――』


 シュボッ、シュボッ。

 黄金の尾が二条。だが今度は軌道が違う。最初は直線で飛び、途中で噴射ベクトルが変わる。角度は浅いが、遅れて刺す"追い矢"だ。


「二回折れ、もう一段深く!」


 ルカの声に、太陽の親指が再び押し込まれる。

 ひるめは重心を沈め、グンと角を曲がる。右へ、左へ。すれ違う黄金の尾が白煙へ消え、観客席がどよめいた。距離は二十五メートル。

 ――その時。


「入った!」


 レオンが叫ぶ。UZUMEのバーが『100%』で固定された。許容値、達成。アルゴリズムの枝に緑灯が走る。


「よーちゃん、いける。……ここから"受けて伸ばす"!」


 太陽の返事は短かった。


『了解!』


 通信の先。紅白の機体が、わずかに姿勢を変える。受けるための"型"へ。胸のコアが一段深く脈を打ち、霜の縁取りがまた一枚、はらりと落ちた。

 ゴングの余韻は、まだ空に残っている。

 フェス本番――勝負は、いま、始まったばかりだ。

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