04:青と金、紅と白
フェス当日。リング中央のスタジアムは、いつもの訓練区画とは別世界だった。
直径八十メートルの円形アリーナ。周囲を取り囲む観客席はスポンサー、研究者、軍人、OB、そして学生たちでぎっしり埋まっている。天井のホロは南極の空を映し、薄いオーロラがゆらめく。
アナウンスがザザッとノイズと共に入り、金属光沢のゲートが左右に開く。
『――第一試合、"親善デュエル"。一年代表、カタリーナ・A・メンデルスゾーン 対 草薙 太陽!』
歓声が『わぁっ』と波になって走る。
西側ゲートから先に現れたのは青と金の"芸術品"――リーナの専用機"アシェンプテル"だ。全高約四メートル、細身で優雅なシルエット。まるで舞台に上がるバレリーナのように、無駄のない軌跡でアリーナ中央へと滑り込む。
背部には翼のように展開された高速プラズマミサイル"ダス・ゴルト"のランチャーが四基。腰にはレーザーバルカン"ハーゼル"。右手には長大なロングレンジレーザーライフル"ダス・シルバー"。そして腰に差された細身の白刃――近接武器"ヴァイセ・タウベ"。
群衆が息を呑む中、東側ゲートが開く。
紅白の"塊"が、ゆっくりと姿を現した。
――"ひるめ"。
全高約四メートル。だがアシェンプテルと比べれば明らかに重厚だ。厚い装甲、重い足取り。しかし関節の滑らかさは作業機の鈍重さとは違う。胸のコアが青白く脈打ち、外装の霜が落ちる。
紅のラインは鋭いパージラインへ収束し、白が面を広く取っている。右手には訓練用レーザーライフル"サウザンスター"。肩には小型の投射砲"三六式"が二基。
両機がアリーナ中央で向かい合う。距離、約五十メートル。
「へぇ……一週間で、ここまで?」
リーナの瞳がわずかに見開かれる。すぐに唇が冷笑に戻る。
「所詮は付け焼刃よ。重いだけの的――」
「そいつはどうかな」
通信回線の向こう、太陽の声は意外なほど落ち着いていた。
リーナの眉根がほんの少しだけ寄る。取り巻き席の"リーナ派"がざわめき、スポンサー席の双眼鏡が一斉に紅白へ向いた。
同時刻。アリーナ側面のバックヤード――管制室は、戦場だった。
「太陽の奴、ハッタリかましやがったぜ!」
「一応動くけど、今のままじゃ大きな的よ!」
「どこが上手く行ってないんだ?!」
端末の前でレオンが歯噛みし、レナが配線図を呼び出す。モニタ中央には"UZUME v0.9.3"の進捗バー。『最終統合:94%』の文字が、ピコン、ピコンと赤で点滅していた。
「変換機構への伝導システムの効率が許容値を超えない……!」
「妥協は?!」
「出来ない。これが許容値を超えないと、絶対に勝てない!」
翼はヘッドセットを肩で押さえつけ、指を踊らせる。熱流の波形が乱れ、アルゴリズムの枝が幾本も試され、切り替わる。
「よーちゃん、聞こえる? "うずめ"は仮稼働にする。負荷の山を感知したら手動で"二回折れ"に逃げて。ゴルトはデコイ散布を優先、シルバーは視界を切って一・八秒潰す――」
『了解! 時間を稼げばいいんだな!』
ルカがスラスターのテーブルを上書きする。
「A/Bプリセットは親指スイッチに。スロットル域で噛み合わない時は軽めに叩いて!」
ジョウが肩でパージレールを押し込み、サヤが塗膜の最後の"隠し"を指先で整える。バルトは無言で背後の人の流れを止め、余計な視線を遮った。
アナウンスがカウントを始める。
『――両機、スタンバイ。三、二、一……』
「待って、まだ――」
翼の叫びは、アリーナの歓声に飲まれる。
『――開始!』
ゴングがゴォンと鳴り、床がわずかに震えた。




