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A.Z.〈アブソリュート・ゼロ〉  作者: 軟膏
第2章『叛罪教戒(ヌリファイ・シンズ)』
14/25

03:叛罪教戒

 その夜、教員会議は長引いた。

 居住リング上層の会議室。長方形のテーブルを囲んで、十数名の教官と管理職が集まっている。ホロには事件の報告書、監視カメラの映像、そして――「犯人不明」の文字。


「手口から見て、学生の悪戯とは考えにくい」


 安全管理担当の教官が眉を寄せる。


「レーザー兵器の使用痕、冷却剤の悪用、死角を突いた犯行……組織的な可能性も視野に入れるべきです」

「組織的……まさか」


 別の教官が息を呑む。


「ヌリファイ・シンズ(叛罪教戒)の可能性、ということですか」


 その名が出た瞬間、室内の空気が一段冷えた。

 叛罪教戒――ヌリファイ・シンズ。22世紀までの『人間だけの力で生み出した技術』を至上とし、A.Z.から生まれた技術を『悪魔の技術』として攻撃する反AZ技術主義宗教思想団体。

『ヘリオシウス』を名乗る教皇が代替わりしながら組織を維持し、現在は四世。AZ技術からリバースエンジニアリングされた独自技術『熱量技術ウォーム・テック』で生み出したAI制御無人ロボット『TeC(Technology Commandmenter/技術機戒)』によるテロや破壊工作を世界各地で繰り返している。

本拠地はバチカンの地下に存在すると噂されるが、まだ発見されていない。末端となる『教会』は世界各地に点在し、セルシウスガーデンのような最先端AZ技術施設は常に標的となってきた。


「あの団体なら、学内に内通者を潜り込ませることも……」

「だが、彼らの目的は施設破壊です。学生への個別攻撃は手口が違う」

「手口を変えてきた、とは考えられませんか?」


 議論は堂々巡りになり、結論は出ない。

 最終的に決まったのは、巡回の増員、監視の強化、武装持込の再点検――

 アナウンスは翌朝には全校に回る。

 だが、呼吸の速さは変わらない。極夜の窓越しに見えるオーロラはいつも通り薄く、A.Z.の黒い外郭はいつも通り黙しているのに、内側の空気だけが少し硬い。

 翌朝の一時限目。ARK技術史の講義。

 階段教室に百人ほどの学生が集まり、教壇には白髪の教授が立っている。いつもは穏やかな口調の教授だが、今日の表情は硬かった。


「――皆さんもご存知の通り、学内で不審な事件が続いています」


 教授が黒板の横のホロパネルを操作すると、『叛罪教戒ヌリファイ・シンズ』の文字が浮かび上がった。


「この機会に、改めて確認しておきましょう。A.Z.技術に敵対する組織は複数存在しますが、最も危険なのがこの叛罪教戒です」


 画面に、過去のテロ事件の映像が流れる。破壊された研究施設、炎上するARK格納庫。


「彼らは単なる思想団体ではありません。実行力を持つ、極めて危険な組織です。過去十年間で、世界中のAZ関連施設に対し、少なくとも三十七件のテロ攻撃を実行しています」


 太陽は教室の中段に座り、画面を見つめていた。隣の翼が小さくメモを取っている。


「彼らの特徴は、『TeC』と呼ばれる無人兵器の使用です。AI制御のため、実行犯の特定が困難。しかし今回の事件では、TeCは使われていない……」


 教授は一拍置き、眼鏡の奥の目を細めた。


「つまり、彼らの犯行ではない可能性もあります。ですが――彼らの思想に共鳴する者、あるいは内通者が学内にいる可能性は、ゼロではありません」


 ざわめきが教室を走る。


「皆さんには、不審な人物や行動を見かけたら、すぐに教官に報告するよう、改めてお願いします。そして――」


 教授は黒板を指さした。


「A.Z.技術は、人類を救いました。温暖化、エネルギー危機、食糧問題――これらを解決したのは、南極の氷の下から見つかった『奇跡』です。しかし、奇跡を恐れる者もいる。理解できないものを、悪魔と呼ぶ者もいる」


 静寂。


「皆さんは、この技術の担い手です。それを忘れないでください」


 講義が終わり、学生たちがぞろぞろと教室を出ていく。太陽と翼も席を立った。


「ヌリファイ・シンズ……」


 太陽が呟く。


「よーちゃん、覚えてる? 入学時のオリエンテーションでも、同じ話があった」

「ああ……でも、まさか本当に関係してるとは思わなかった」


 廊下を歩きながら、二人は視線を交わす。翼の目には、何かを計算する光が宿っていた。

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