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A.Z.〈アブソリュート・ゼロ〉  作者: 軟膏
第2章『叛罪教戒(ヌリファイ・シンズ)』
12/25

01:余熱

 セルシウスフェスが終わって七日。

 南極の氷盤に組み込まれた温室群――セルシウスガーデンは、祭りの余熱をほとんど残さない。朝一番、天井高二十メートルのハンガーで冷却配管がしゅう、と白い霧を吐くたび、ガーデンは平常運転の顔に戻っていく。

 だが、チームSOLの周りだけは違った。


「――また共同研究の打診。三件目。午前の講義、遅れる……」


 大鳳翼は端末を胸に抱え、居住リングの連絡橋を小走りに渡っていた。透明な床の下には、地下へと続く冷却パイプが白い息を吐いている。

 端末の画面には"熱転換装甲/UZUME"への照会が滝のように流れている。送信元は研究部門、企業、軍、財団――名刺の肩書きは立派でも、文面から覗くのは好奇と野心の混合熱だ。

 翼は一つずつ印を付け、礼を欠かさないよう簡潔に返す。丁寧で、速い。彼女のそういうところは一週間でさらに磨かれた気がする。

 目の下には、薄い隈が浮かんでいた。

 ハンガーには、紅のラインだけを残した"ひるめ"が据えられていた。

 全高約四メートル。パージで削いだ白い外装は戻らない。紅のラインが機体の骨格を浮き彫りにし、むき出しになった関節部には整備用のカバーが仮止めされている。

 だが、核は強く、深く脈を打つ。胸部のコールドⅡコアが青白く明滅するたび、周囲の空気が微かに冷える。

 太陽は点検パネルの前で腕を組み、空いた手で耳をかいていた。ソーラースーツの上に羽織った作業着は、油の染みがいくつか増えている。


「よーちゃん、サイン。研究倫理の一式」

「お、おう……読んでからな!」

「読むのはえらい」


 翼が微笑む間にも、周囲には見学者――という名の査定者――がちらほら。ハンガーの入口付近、ロープで区切られたエリアから、白衣の研究者、軍の徽章を胸に付けた将校、スポンサーの代理人たちが視線を送っている。

 皆が視線を胸郭の"奥"へ滑らせ、そして教師のロープに押し返される。

 太陽は肩を竦め、翼は一礼してから工具箱を抱え直した。

 昼になると、リング中央のアトリウムでチームSOLのテーブルはちょっとした出店のようになっていた。

 円形の吹き抜け空間。中央の告知塔の周囲に配置された学生用テーブルのひとつに、彼らは陣取っている。周囲の机が四人掛けなのに対し、彼らの机には八人が集まっていた。

 春河レオンがログ解析の報告書をまとめ、張玲奈が問い合わせテンプレートを磨き、御船沙耶が意匠の質問にさらりと答える。白石丈は荷運び係、ルカ・オルティスはスラスターの再現質問に陽気に受け答え、バルト・ケルナーは黙って周囲の視線を測っていた。

 誰もが"日常"を回そうとしていた。

 通りすがりの学生たちが「おつかれ」「すごかったな」と声をかけていく。太陽は全力で手を振り返し、翼は会釈を返す。

 フェスでの勝利は、まだ彼らを温かく包んでいた。

 ――その時は。

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