一話目:五浪、社会の敗北者、そして——異世界へ
プロローグ
「終わった……。」
時計の針が深夜二時を指す部屋で、僕は呆然と天井を見つめていた。五浪してようやく入った有名大学。それなりに努力して卒業し、念願のメーカー技術職に就職したはずだった。だが、現実は——
毎日の深夜残業。理想と現実のギャップ。気が付けば、入社三カ月で僕は辞表を出していた。
「……何やってるんだろう、俺。」
それからの日々は、派遣会社の技術職として現場を転々とする毎日。派手さもなければ、大きな成功もない。だが、仕事が終われば自由。午後は河川敷でぼんやりと缶コーヒーを飲み、平凡な日々を送っていた。
ある日のこと
いつも通り派遣先からの帰り道。季節は秋、肌寒い風が頬をかすめる。ぼんやり歩いていたせいか、信号が変わったことに気づかなかった。
──キキィィィ!
車のブレーキ音。とっさに身を引けばよかった。しかし、体が動かなかった。
「あれ……?」
音も痛みも消えた世界で、僕は立ちつくしていた。
謎の空間
気づけば、真っ白な部屋。目の前には神様のような雰囲気を湛えた女性が立っていた。
「ようこそ、異世界転生の間へ」
「えっ?」
予想外の展開に、ただ呆然とする。
「あなたには新しい世界でもう一度、やり直す機会を与えます」
……テンプレだ。まさか自分がこれを体験するとは。
「えーと……希望する職業やスキルとか、もらえます?」
神様は微笑み、告げた。
「あなたには『どこでも技術派遣登録』のスキルと、現代の工具を特典として差し上げます」
「え?」
「あなたのこれまでの経験や知識も、そのまま持ち込めます。技術と発想で、自由にのんびりと過ごしてください」
淡々と説明が続き、気付けば僕は再び大地に立っていた。
新しい世界
見上げれば、澄み切った青空。森の匂い、遠くに石造りの家。まるでRPGゲームのオープニングのような光景。
「……とりあえず生き延びる、それからだ。」
バッグには見慣れた工具セットと派遣社員証(なぜ!?)。左手の甲には、“技術派遣登録”の紋章が光っていた。
こうして、僕の異世界スローライフが始まった――。




