「」からの伝言
気がつくと、俺は古本屋の床に倒れていた。体がだるい。熱があるようだ。
俺の手には、魔法の使用方法が書かれた紙が握られていた。だが、白い短剣はどこを探してもなかった。いったいどこに行ったというのか。
「きみも、倒れてしまったの?」
顔を上げると、古本屋の店主がこちらをのぞき込んでいた。きみ「も」ということは、ルイスも倒れてしまったのだろうか。いったい、なぜ。
「あの、俺の友達も倒れたんですか?」
「うん。だから、店の奥で寝かしておいたよ。『ヴァナールは無事ですか?』って、5分に1回は言ってたから、探しに来たんだけど、早く見つかってよかった」
店主は、安堵からくるため息をした。
「さて、薬草に関する本は、もう見つけたから、お題を払って店を出る?それとも、まだ少しここでしていくことはある?私は、お友達が回復するまで、ここにいることをお勧めするよ」
「はい、そうさせていただきます」
とりあえず、ルイスが起きるまで、この古本屋にいることにした。
「そっか。じゃあ、紅茶でもどうかな?どんな紅茶が好み?」
「ストレートが好きです」
余計なものは入れない。そして、淹れたてのアッツアッツを飲む。それが紅茶を飲むときの信条だ。ルイスは、塩とレモンを入れているが。まぁ、これは他人に強要させるべきことではないから、俺は何も言っていない。
「ストレートか、うん。ミルクも砂糖もたくさんあるから、遠慮しなくていいよ」
違う。そういうわけじゃない。普通にストレートが好きなんだ。
「いえ、本当にストレートが好きなので、ストレートでお願いします」
「わかった。淹れてくるから、ちょっとまってて」
店主は再び、店の奥へと行った。
店の奥から、話し声がする。どうやら、ルイスと話しているようだった。しばらくすると、声が聞こえなくなった。
「ルイスと何を話していたんですか?」
店主はフードを外しながら答えた。
「まず、きみが見つかったっていうのと、容体はどうか、お茶はいるか、ってかんじだね」
店主はクッキーと紅茶が乗せられているおぼんを、テーブルに乗せた。
「そうなんですか」
「うん、きみが見つかったって言ったら、すごく喜んでいたよ。容体は変わってなくて、お茶はいらない、って言ってたね」
店主は、クッキーを渡してきた。
「そうだ。これをお友達に。体の調子がよくなったら、食べたくなるかもしれないからね」
クッキーは、見た目はいたって普通のものだった。少し、おぼんに乗ったクッキーを食べてみた味はとてもおいしかった。
さて、ここで、友人についてそれとなく探りを入れていこう。
「そういえば、このクッキー、あなたのお友達とかにも出していたりしたんですか?」
店主は、少しうろたえた。どうこたえようか迷っているようだ。服の裾を指でいじっている。
「初対面の人にいうものじゃないのは、わかるけどね。私の友人はもう長いこと眠っていて、このクッキーはまだ食べてもらっていないんだ」
予想はしていたが、そんなに悲しい顔で言われると、こちらまで辛くなってくる。
「その友人、黒髪で部屋の中に花が咲いている部屋で寝ていたりしていますか?」
店主は、驚いた顔をした。無理もない。俺も、初対面の人に「あなたの相方、金髪碧眼でイケメンですね?」なんて言われたら、そんな顔をする。
「ごめんね。そういったことを、言われるのは久しぶりだったから」
え?言われたことあるの?え?まぁ、いいか。そういえば、黒髪の女性のほうも、「久しぶり」と言っていたな。
「ええと、その友人から伝言がありまして、『目覚めの日は近い』というものでした」
店主は、黙り込んでしまった。なにか考え事をしているようで、やはり服の裾をいじっている。
「うん、なるほどね。ところで、きみ、体調不良だったりしないかな?」
いきなり質問され、びっくりした。いや、自分の体調をいいあてられ、うろたえた、という方が正しいのかもしれない。
「さっきの私は、こんな顔をしていたのかな。うん」
店主はうなずきながら、俺のそばに寄ってくる。そして、俺の胸のあたりに手をかざした。
「私は、友人のようにうまく隠せないけれど、これだけは言えるよ」
店主は、目をつぶりながら言った。
「彼女に関すること、そして、私が目をつぶっているときに話すことを口外にしてはいけない。きみの、友人にも。でないと」
背中に悪寒が走る。
「きみにかかわった人間、すべて死ぬことになる」
店主は再び口を開いた。
「案ぜずとも、使うべき時になれば、使い方がわかる」
店主の周りに、光の蝶が漂っている。なんだか、この場所が多く魔力を持っている人が威圧しているような雰囲気になる。この店主、何者なんだろう。どの種族にぞくしているのだろうか。なんにせよ、この店主に言われたことは、守ろう。いや、店主の真剣さを見れば、誰でも、こうやって魔力で牽制せずとも、約束守るだろう。
店主は目を開けた。
「本当は、このアドバイスも危険なんだけどね。これくらいは隠せるから」
店主は、おぼんに乗ったお菓子を袋詰めにするべく、袋をポケットから取り出した。かわいらしい模様をしている。
「さて、君たちは、もう帰らなくちゃ」
袋詰めにした、クッキーを渡される。手に2つもおいしいものが!俺は幸せでいっぱいになった。
「じゃあね」
まばゆい光があたりに満ちる。
あまりのまぶしさに目を閉じると、そこは、俺の家だった。ベッドを見に行くと、ルイスもいた。どうやら、俺たちは戻ってきたようだ。
ブックマーク、いいねや感想などをつけてくださると嬉しいです。執筆活動のさらなる励みになります。誤字脱字報告などもお待ちしております。