古本屋
1学期が始まり早一か月、その日も、カリーナと遊んだ帰りだった。
「そういえば、カリーナの故郷って、『アンゲロス』っていう、海辺の町だったよね」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「あのさ」
「うん」
「海に行かない?」
俺は、海に行きたくなったのだ。
「とりあえず、本屋に行って、良さそうな海辺の町探すところから始めようぜ」
と、いうことで、俺たちは本屋に来た。「あなたのいいが絶対見つかる!アリーティ全国旅行カタログ」を眺めていると、ピンときた町が三つあった。
「ねぇ、この『コロンナ』っていうところと、『ダックア』っていうのと、『ステッラ』ていうところがいいと思うんだけど」
ルイスにそういうと、彼は天井を指さし、こう言った。
「どれか一つに絞りたい、ねぇ、よし!全部行こうぜ!知ってるか?魔法大学生は、一年のうち、4分の1しか講義がないんだぜ」
え、ちょっとまって。そんなお金ないんだけど。
「お金ない」
「あ、そうか」
ルイスと俺は、おおいに悩んだ後に、バイトをすることにした。
だが、バイト探しは難航した。なぜなら、まともなバイトがなかったからだ。
「ねぇねぇ、この夜道で猫を探すバイトよくない?」
「それ、前、闇バイトだって言われてたやつだぞ」
「え」
「じゃ、じゃあ、このバイト。リヴィオ・バイオレント図書館の司書をやるやつ」
「その図書館、本が襲い掛かってくることで有名だぞ」
「は?」
「あ、このトジュールヴェン博物館の管理をするだけの簡単なお仕事」
「それ、謎の連続失踪事件が起こっている博物館だぞ」
「ええ?」
「あ、じゃあ、これ。薬草を集めるバイト」
「これは、うん。ちゃんとした大学から出ているバイトだから、大丈夫だな」
薬草を集めるバイトは、採ってきた薬草の種類や量に応じて、報酬が変わると記載されたものだったので、山の中に入って、薬草採取をすることにした。春休み中、ヒマでヒマで仕方がなかった俺は、山を見つけては、登ってを繰り返していたため、どこでいい薬草が取れるかをある程度心得ていた。しかも、万が一、魔物が出てきたとしても、ルイスが倒してくれるから、どこからどう見ても安全だ。
「すみません、薬草に関する本でいい本ありますか?」
薬草採取をする前に、本を買わなくては。ルイスは、新品の本がいいと言ったが、「俺たちが採取した薬草をきちんと大学の職員が見てくれるから、万が一間違えても問題ないし、それもいい社会経験になる。というか、そういった目的で募集されていると大学の職員に聞いた」と話したら、納得してくれた。
さて、新品の本を買っていたら、金が無くなる。自分で生活を立てていかなければならないのだ。どうにかして、生活費を節約していかなければいけない。そういうことで、俺は古本屋に来たのだった。
「薬草に関する本ね、うん、ちょっとまってね」
店主は、店の奥へと通じる扉を開け、本を探しに行ってしまった。
「なぁ、そういえば、僕たちどうやってここに来たんだ?」
なんか、ルイスが怖いこと言い始めた。
「え?それは、、、」
思い出そうとしてみたが、思い出せない。なんだ、これは。
「この古本屋にどうやって来たのか、知りたいのですね?」
どこからか、声が聞こえてきた。俺とルイスは顔を見合わせた。幽霊かもしれない、と。その場合は物理攻撃が効かないからどう対処しようか、というアイコンタクトもした。
とりあえず、幽霊とまだ確定したわけではないので、状況を把握するために、あたりを見回すと、先ほどまで扉がなかった場所に扉が出来ていた。
「どうぞ、こちらへ」
声は、どうやらその扉の向こうから聞こえてくるようだった。どうしよう、入ろうかと再び顔を見合わせる。
「来ないのでしたら、それでもいいのですが」
俺たちが入るのをためらっていると、向こう側からそんな声がした。よく聞いてみるとそれは、女性の声だった。ルイスはわずかに、体を強張らせた。
「ごめん、僕は、行く気がしない。行きたいんだったら、きみ一人で行って」
ルイスの発言に、俺は目を丸くした。彼がそういうことを言うのは、もしかしたら、付き合い始めてから初めてかもしれなかったからだ。そんな俺が選んだ選択は。
「わかった。金は渡しておくから、店主が来たら、それで支払っといて」
その扉の中に入ることだった。もしかしたら、この魔法の仕組みについて、教えてもらえるかもしれない。
扉を開けると、花の匂いがした。それはもう、むせかえるほどに。こんなに花の匂いがすると、ほかの匂いを感知できなくなってしまう。
見える景色は、花畑と、品のいい一軒家だった。一軒家まで、道が蛇行しながらのびている。
「こちらです」
一軒家から、声が聞こえる。俺は、花の匂いに酔いながら、一軒家へとふらふら歩いて行った。
家の中に入ると、一層花の匂いが強くなった。頭がくらくらする。
「寝室にいます。あと、もう少し近くに寄ってくれませんか?」
なんでだろうか。どこに寝室があるのかわからないにも関わらず、自分はどこに行けばいいのかわかる。とても奇妙な感覚だ。これも魔法の一種なのだろうか。ますます興味がわいてきた。
体が半ば勝手に動き、たどり着いたのは、一番奥の部屋だった。いつの間にか持っていた鍵で、その寝室にかかっていた鍵をあける。
あたり一面、花で覆い隠されている。
そこにいたのは、ベッドに横たわり、目を閉じている、黒髪の女性だった。
「ごきげんよう。私は、この古本屋の店主の友人です」
目を閉じたままで、女性はそう言った。
「さて、この古本屋がどのような場所か約束通り、お話しましょう」
女性がそういうと、この室内に咲き乱れている花が、椅子を進めてきた。
「この古本屋は、私の友達が営んでいるもので、彼女が使っている魔法は、私が教えたものです。『リミト・ポプルス』という名前の魔法で、人の出入りを制限できるものです。本当に、その空間を利用したい人だけが辿り着ける魔法ですね。今回は、私のほうに用があったみたいなので、こうして私が対応しているのですが」
女性は、そこまで話すと静かになった。
「すみません、久しぶりに人と話したもので、少し疲れてしまいました。そして、もう時間が私には残されていませんし、そちらもここに居るのは、辛いと思います。なので、単刀直入に言いますが、私と取引いたしませんか?私が友人、いえ、あの子に伝えたい言葉をあなたがあの子に伝言する、その条件だけです。その条件だけを飲んでくれさえすれば、『リミト・ポプルス』の魔法の使い方が書かれた紙をあなたに渡します」
女性の声色には、真剣そのものだった。その気迫に圧倒され、思わず、数秒固まってしまったが、もう残された時間が少ないと言っていたことを思い出し、申し訳なくなりながらも、返答した。
「わかりました。その条件、飲みましょう」
すると、花たちがうごめきだした。何をしているのかよくわからないが、恐らく、「リミト・ポプルス」の使い方が書かれた紙を探させているのだろう。その光景をぼーっとしながら見ていると、女性が話しかけてきた。
「そうですね、あの子に伝えてほしいのは、この一言です。『目覚めの日は近い』本当に、これだけです」
女性は、微笑したあとに、幸せそうなため息をついた。
「このような無礼な姿勢で話していたにもかかわらず、最後まで話を聞いてくれて、ありがとうございます。そして、いるだけでかなりつらいでしょう。この地に来て、とどまり、この話の内容を友人に伝えてくれる取引までしてくれ、本当に、ありがとうございます。お礼といってはなんですが、これを」
花たちは、探し物を見つけたようで、女性の近くにあった花が、白色の短剣と、「リミト・ポプルス」の使い方が書かれた紙を俺に渡してきた。
「くれぐれも、店主に、いえ、あの子に、、、先ほど言ったことを、よろしくお願いします。そして、無理をさせてしまい、申し訳ありません」
女性は、少し悲しそうな顔をしていた。ひらひらと花たちが俺に手を振る。段々と、瞼が重くなる。俺は眠ってしまった。
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