時間の流れは変則的
「おきろー!朝だぜ!」
布団越しにバシバシとたたかれて、俺は目が覚めた。寮か?いや、違う。そうか、ここはルイスの家だ。ルイスがいたからちょっと混乱した。
「お、寮生じゃないほうの顔になったな。僕も起きた時、ちょっとそれになってたぜ」
「おそろいだね」
「そうだな」
やはり、1か月近くで、寮生活を体から忘れさせることは不可能なんだな。
「そんなに悲し雄中尾しなくても大丈夫だぜ!僕は天才だから、寮生活なぞ、すぐ忘れられるくらい、素敵な学生生活を送らせてやる!」
「たのもしいね」
「たのもしいだろう!震えて眠れ!」
さっき、寝たばかりだから眠れないとルイスに言うと、まだ眠そうな顔してるぜ、と返ってきた。
「ああ、そうそう。昨日質問攻めにされなかったからって、油断するなよ。僕の両親は諦めが悪いんだ」
俺は少し困ったような顔をしたと思う。
「身長はどれくらい伸びたの?」
「ご飯はちゃんと食べてるかい?」
「一人暮らしは大丈夫そう?」
「入学式はどうだった?」
結局、朝ごはんの席で質問攻めにされた俺を、ルイスは食べ物を吹き出しそうになりながら見ていた。そのおかげで、食べるスピードがだいぶ遅かった。なんせ、俺がデザートのプリンを食べているのに対して、前菜を食べていたんだから。
「お世話になりました」
「そんなことないよ、いつでもうちにおいで」
「そうよ、こんなにいい子、なかなかいないもの。いつでもいらっしゃい」
ルイス夫妻からあたたかい言葉をもらい、俺たちは家を出た。
「どうだった?僕の家」
「あいかわらず、素敵な家庭だったよ。家庭を持つんだったら、ああいった家がいいな」
「そうだろ!?あ、それはそれとして、結婚するんだったら、僕を呼べよ!?絶対に素晴らしいスピーチをしてやるからな!」
「ルイスが素晴らしいスピーチを用意するのは、目に見えているけれど、いざ、話すときになったら、泣いてて何言ってるかわかんないんじゃないかな」
「たしかに、それはいえてるな。あ、やべ。もう涙が」
このやり取りは、俺たちがルイスの実家に来た後に必ずするやり取りだ。これもおそらく、頻繁にこの家に訪れることで、聞かれることは無くなるだろう。
それはそれとして。
「まだ寝足りないから、僕の家にでも行って一緒に寝る?」
「え、待てよ。ヴァナーレの家に、ベッド二つあるのか?」
「あ」
「ないのかよ」
その後、ルイスが魔法でベッドを作ることになり、そちらのほうが寝心地がよさそうだったので、ルイスが不在の間はそこで寝ようと思った。
やはり、布団には弱いルイスはあっというまに寝てしまった。俺はどちらかと言いと布団に耐性があるほうなので、すぐには寝ない。ふっ、俺はルイスとは違ってそう簡単にはいかないのだよ、布団くん。
そういえば、当然のように家にコイツはついてきたが、やはりどちらも寮生活が体から抜けていないな。
起きたら夕方だった。ルイスが起こしに来ないということは、今日はコマをいれていないのだろう。やはり、寝起きだと頭がぼーっとする。
「お、起きたか。ちょっと早めの夕飯食べた後に、カリーナちゃんと遊ぶときに使うもの買いに行こうぜ。あと、参考書も」
「そうだね。うん。そうしよう。寝返りトルネードの本も買わないと」
「おいおい、まだその本は出版してないぞ。夏頃に出版されるから待ってくれよ」
台所からいい匂いが漂ってくる。まさか、この家で最初にキッチンを使うのが俺ではなくルイスになるとは思わなかった。
「料理本を買うのか?」
「うん」
そう言う俺の手には「たのしくおりょうり!・お子様挑戦用」という本がある。ちなみに、「お子様挑戦用」と書いてある部分はかなり小さい表記となっており、ここを読むのは大人様専用だ。
ルイスは、大量の参考書と子供用の本を持っていた。持ちきれなくて、魔法を行使している。これは、重力魔法だな。かなり魔力を使うものだから、はやめに、これと参考書買って、ルイスの持ち物を持たないと。
「あ、そうだ。よさげな参考書、ヴァナールのも買っておいたぜ」
どうりで、同じような本があるな、と思ったわけだ。さすが、相方。今度なにかお返ししなきゃ。
「さて、ここから走っておまえの家にでも行くか。変な時間に寝ちゃったから、運動しないと眠れないぜ」
「たしかにそうだね。よし、全速力でついていく準備ができたよ」
「いや、そんなに本気で走らないからさ」
人に合わせることを知っている相方はいい奴だ。
「全然眠れない。やばい」
「ぼくはもうねむい」
家に帰って、風呂に入り、寝ようとしたが、俺は中々、寝付けない。
「こんど、こういうことがあったら、きみのこと、はやくおこしぉうゆ」
だめだ。俺を取り残さないでくれ。いつも俺より早くお前は寝エチルが、今、ここでおいていかれたらいけない気がする。やばい、そうだ!
「ルイスくん、『たのしくおりょうり!・お子様挑戦用』で明日の朝ごはんを作るぞ。手伝ってくれたまえ」
「もちろん、いいとも」
ルイスは、ベッドから勢いよく転げ落ちながら言った。ちょっとカッコ悪い。ころげ落ちた姿がキマッてるのは決まっているが。やばい。いいダジャレが意図せずできて笑いそうだ。
「お、これは簡単だな」
そういって、ルイスが指さしたのは、「ハムとレタスのサンドイッチ」だった。
「サンドイッチか。パンあったかな」
というか、そもそも食材全般あるかな?今まで露店でかった弁当で済ませてきたからな。
「それなら今日、僕が買ってきたものがあるから、それを使うといいぜ。リビングのテーブルの上に置いてある」
「あ、ほんとだ。ありがとう」
「どういたしまして」
レタスを水で洗い、水気を切っている間にパンにマヨネーズを塗る。そして、水気を切っておいたレタスをパンの上に乗せハムをその上に乗せる。のだが、今、生ハムしかないのに気が付いたので、生ハムで代用する。そして、その上にまたレタスを乗せ、パンを上に乗せると完成だ。この本には、子供が作る前に、三角にパンを切っておくことと書かれていたので、その通りにした。そのため、この作業をもう3回繰り返すことになった。
「お、できたか」
サンドイッチを作り終わり、リビングで参考書をねむくなった頭で読んでいると、声がかかった。
「うん、できた。眠くなってきた」
「そうか。こっちはポテチサラダを作ったぞ」
そちらを見やると、ポテトサラダを持っているルイスがいた。イケメンがポテトサラダを持っている絵面が面白くて、笑うと、そんなにイケメンがポテトサラダを持って立っているのが面白いか!と言って、ルイスは様々なポーズでポテトサラダを持ち始めた。時刻は10時だった。そうか、一緒にいて楽しい人と一緒にいるときでも、時間がゆっくり流れることはあるのか。
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