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平凡な魔法使い  作者: 水倉 圭
春の海
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闇の人

 人数は全部で7人、これくらいならルイスは問題なく倒せるだろう。その間に俺がすべきことは、この光景をこの少女に見せないようにするだけ。

「ねぇ、ちょっと楽しいところに行ける魔法をかけるから、ちょっと待ってね」

それに最適な魔法を俺は使える。楽しい夢を見させる魔法だ。ルイスから渡された少女に魔法をかける。少し細工をして。

「さて、小さい子には少しショッキングなものを見せることになるから、その子の目を、おおっておいてくれるかな?と、もうやってたか、さすが相方」

 ルイスは俺の腕の中ですやすやと眠る少女を見て、安心したように微笑んだ。

「もう、はっていたバリアが壊れそうだから、それが壊れたら攻撃を開始するよ。心の準備をしておいてね」

 どうりで、話している途中に襲われなかったわけだ。そういえば、寮生時代に実技試験の時に教師側のミスで高難易度のダンジョンに送られたときもこんなことあったな。なんか気づいたら寮に転移しててルイスと一緒に試験会場まで行ったんだっけ。俺たち違う班だったけど。あれでよくあの教員解雇されなかったな。とかなんとか考えている間にバリアが割れた。

「クリスタル・コルムナ」

ルイスは魔法詠唱をした。すると、7本の土の柱が生成され、それが俺たちを囲んでいる7人の頭にめがけて高速でたたきつけられた。ルイスの攻撃によって気絶した7人は、ルイスがいつの間にか生成した柔らかそうな土の上に倒れこんだ。

これは、土属性の魔法で、石または土の柱を召喚し、それを操るというものである。なぜ、石や土を召喚するのに「クリスタル」なのかは、学会でも意見が分かれており、非常に面白い。ちなみに、この魔法を開発した古代王国サニシンサの人々は、大多数がクリスタルを生成できていたからではないかという説がある。ちなみにルイスは魔物を一掃するときはミスリルのような石を召喚していたが、相手が人だから手加減しているのか、今日は少し硬そうな土だ。それと、この魔法は召喚する石と量、大きさによって使用する魔力量が違う。俺(一般人)は成人男性の腕くらいの大きさの石を10本程度、召喚して操っている。ミスリル並みの石なんて一本召喚するだけで魔力が足りなくなる。

「ヴァナール、終わった」

ルイスは7人に手早く拘束魔法をかけながら言った。そして、こちらを振り返った。

「どうやら、この七人には魅了魔法がかかっている。いや、呪いの類かな、これは。つまり、自分たちの意思で俺たちに襲い掛かってきたわけじゃない。で、その呪いをかけた人間は」

 俺の腕の中で眠っている子をじっと見ながらルイスは言う。

「この子だ」

「そのとおりだ」

 暗闇から声がした。魔法製作室は、春の昼下がりであることにもかかわらず、暗闇に包まれていた。その暗闇の一層暗い、この世の闇を集結させたような場所から、声は聞こえてくる。

「だが、勘違いしないでほしい。その子は、自分の意思で人に呪いをかけていない」

「それはわかっていますよ。この子の能力は、この子自身のものではないということは。誰かからかけられた呪いのせいでこんなことになっているということも。そして呪いをかけた人物は、、、ふむ、噂の魔王軍の仕業ですね。そして、この子の海の香りから、推測するに最近、襲撃された海の街、リルアノスからここにつれてこられ、あなたが面倒を見ている、というのが事の顛末ですかね」

 闇が少しゆらぐ。ルイスの推理に圧倒されたのだろうか。だが、ルイスはまだ納得がいっていないような顔をしている。おそらく「ちいさいのにおっきいおにいちゃん」のことを気にしているのだろう。俺はこの闇の人物が小さくなったり大きくなったりできるのではないかと思っているのだが、ルイスはそうではないようだ。

「そのとおりだ。だが、きみと、その相方には効かなかったようだな。これはとてもうれしいことだ。この子、いや、カリーナ・イタリガと遊べる人が増えたからな」

 少し声に喜色が出ている。なるほど、闇が揺らいだのは、その子と遊んでくれる人が増えた嬉しさ半分、ルイスの推理がドンピシャすぎて驚き半分、といった感じか。いい人だな。

「ああ、いけない。この体だとどうも感情が体に出てしまう。ああ、言い忘れていたが、君たちがカリーナと遊びたくないのだったら、遊ばなくてもいい。君たちは学生だからな。」

 言いながら、闇が少し小さくなりながら薄くなっていっている。感情が体に出ているとはいえ、生徒のことも小さい子のことも考えられるいい人だ。俺が今まであってきた大多数の人間とは大違いだ。

「なぁ、どうする?ヴァナールもカリーナちゃんと遊ぶ?僕てきには、相方にも来てほしいのだけど」

 小声でルイスが聞いてきた。そんなのもちろん。

「一緒に遊ぶよ。子供好きだし」

 こちらも小声で話すと、ルイスは嬉しそうに笑った。

「遊ばなくてもいいだなんてとんでもない。小さい子と関わるという経験は、この先、役立つに違いありません。なにより、私たちは子どもが好きなので、カリーナさんと一緒に遊ばせてもらいますよ」

 社交用より少し親しげな笑みを浮かべながら、ルイスは闇の人にむけたそう言った。

「そうか、二人の協力、感謝する。これでこの子も脱走することが少なくなるだろう。この子と遊びたいときは、私を呼びなさい。『アンゲロス』が合言葉だ。もう一度言うが、学生は今しかできないことが多い。だから、来なくてもいい。人のために自分を犠牲にすることは美徳とされることが多いが、私は、せめてこの学校の子どもたちにはそのようなことはさせたくない。先ほど、それを言いながらしぼんでいった手前、情けないが、これは本来、政府が解決すべきことだからな。それと、あともう一つ、そこの倒れている七人は、私が解呪しておく」

 そういうと、闇の人はカリーナを受け取り、七人の人を謎の闇で巻き取って職員扉から出て行った。

 この学校には職員専用の扉があり、それはここに努めている職員、そして非常時には学生が使えるもので、任意の部屋に転移できるというものだ。ちなみに授業に遅れかけた学生が使うときもあるという話があるため、それも「非常時」に分類されているのが、遊び心を感じられて大変面白い。職員扉のそういったところを管理しているのは、学長のため、在学中に色々と聞きたいものだ。

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