水路の町、コロンナ
「すみません、そこのお二人、お時間はお持ちですか?」
切符を渡した駅員に、話しかけられた。緑色のマントと帽子を身に着けている。
時計を見ずとも、わかるほど、十分に時間があることはわかっていたため、俺たちはこう答えた。
「「あります」」
駅員さんは、ポケットの中から紙を取り出した。なにかのアンケートなのかもしれない。
「もしよければ、このアンケートに答えてくれませんか?」
「わかりました」
俺たちがアンケートを受け取ると駅員さんは、別の人にそれを配りに行った。
「ヴァナール、あそこに座る場所と机があるぜ。あそこでこのアンケート書かないか?」
「そうだね。そうしよっか」
椅子に座り、ルイスから万年筆を貸してもらう。「この列車は安全運転でしたか?」や「この列車の乗り心地はいかがでしたか?」などの質問に答えていくと、(ちなみに、『この列車は安全運転でしたか?』という質問だけ、強調されていた)最後に、「このアンケートに答えてくださった皆様、ありがとうございます。これを改札付近いる駅員に持っていくと、福引券がもらえます」と書いてあった。
「ルイス、これ」
少し、自分の声に浮かれている感情がにじみ出ているのに気づいた。ルイスは、それに気づいたのか、微笑を浮かべていた。
サマになるなぁ。
「うん、ヴァナール、行こうぜ」
それを書き終え、改札付近で福引券を持っている駅員を探していると、隣を先ほどの駅員とはちがう駅員が、先ほど会った駅員に駆けていった。
「駅長! 駅員のふりをして、アンケートを配らないでください! そういったことは、我々がしますから!」
どうやら、アンケートを配っていた人は、駅長だったようだ。
ルイスの方を向くと、肩を震わせていた。
「ヴァナール、あちらに福引券を持っている人がいるぜ」
「ほんとだ。あの人に福引券を貰おう」
ルイスがその人に近づいていったので、俺も後に続く。
「すみません、このアンケートに答えると、福引券がもらえると言われ、ここに来たのですが」
駅員はファイルから福引券を取り出した。
「うん。ここであってるよ。はい、これ。これね、そっちの百貨店で使えるやつだから、百貨店行くんだよ」
と、いうことでルイスと、ともに百貨店へ行くことにした。
俺たちは、百貨店に来ていた。百貨店の中では、近々、バザーが行われるようで空きスペースに、どのような店が出るのか書かれていた。その中に魔道具を取り扱った店が出る、と書いてあったので、それがいつ出るのかを調べようとしたら、ルイスが困った顔をしたので(おそらく、福引券ひきに来たんだから、それあとにしてくれない? という感情が発露した表情だと思われる)あとで調べることにした。
「お、ヴァナール、あれが福引券、交換できるところじゃないか?」
「本当だ」
ルイスに手をひかれながら、そこに行き、福引券の交換についてなにやら話している。「海を見ていたい」と言って、起きていたのが悪かったようで、眠気がすごい。おかしい、あんなに寝たのに。なんてね。あんな夢を見ていたら、疲労なんてとれるわけがない。興奮で体も心も疲れてしまったようだ。
「一等賞でーす!」
がらんがらん、と、小さな鐘がなったことで、眠気でぼんやりとした頭が覚める。
「すごいね、ルイス、一等賞だよ」
「ああ、そうだな! 景品は何なのか気になるぜ!」
ルイスは楽し気な声を出した。
「景品は、『水路見学券』です! 二枚もらえますので、ご友人さんとめぐってみてはいかがでしょうか! 期限は、今日から一週間です! 一般では見られない場所も見られるチケットですので、どうぞ、お楽しみください!」
なるほど、長期休暇いっぱいが期限なのか。今回の旅行で、水路はもともと行く予定だったが、予算が浮いたうえに、普段見れないところまで見れるとはいいな。
そういえば、俺の分の福引券はまだ使っていなかった。
「すみません、俺も福引券もっているんですけど、、、」
店員に福引券を渡し、ガラガラを回す。きらきらとした青い玉が出た。
「こちらも、一等賞ですね、、、」
店員が困り顔で言った。俺は困り顔になった。ルイスも困り顔になった。
「あ、あの、すみません、僕の景品と交換しませんか? 二等賞なので、それなりの対価となると思うのですが、、、」
フードをかぶった、俺たちと同い年くらいの男が声をかけてきた。フードの奥には、長い銀髪。そのカーテンを抜けると印象的な金色の目が見えた。
彼もまた、形のいい眉を額に寄せていた。つまり、ここに居る全員が困り顔をしている、ということだ。珍状況である。
「どうぞ。四枚持っていても、何も得はありませんし」
「本当ですか!? ありがとうございます。あ、あと、これ」
青年はぱっと顔を喜びで輝かせると近々ここで開催されるフリーマーケットで使える商品券を残し、足早に去って行った。
「明日、水路に行くことにしようぜ」
ルイスは宿泊施設にあるベッドを整えながら言った。
「わかった。じゃあ、今日は何する?」
「そんなの、決まってるだろ?」
ルイスはにやりと笑った。うーん、「にやりと笑って」はいるが、俺と違いイケメンなルイスはサマになっている。うーん、顔面偏差値の壁を感じる。ここで誤解を解いておくと、嫉妬はしていない。事実を述べただけだ。
「ベッドでゴロゴロする、、、って、大丈夫か? ヴァナール、疲れてるのか?」
目の前で、手をふりふりされ、意識が現実に戻る。いけない、いけない。今日は自分の思考に溺れることが多いな。早く寝ないと。
「大丈夫だよ。ちょっと、眠いのかもしれない」
「じゃあ、もう今日は寝ちゃおうぜ。僕はあとからゴロゴロするぜ」
ルイスは少し目を細めた。
「じゃあ、おやすみなさい、ヴァナール」
「うん、わかった。おやすみなさい、ルイス」
靴を脱ぎ、ベッドに倒れこむと、すぐに眠気が襲ってきた。
目が覚めた。
夢は見た。だが、いたって普通の、支離滅裂だけれど、誰もそれをとがめない、起きた瞬間から忘れていくような夢だった。
ふと、窓を見た。オレンジ色の暖かい光がそこから降り注がられていたから。海が見える宿泊施設をとったため、当然ながら窓から海が見える。それは、夕日を照り返して、ギラギラと光っていた。それを煩わしく思い、少し目を細めてそれから目をそらした。
くゆりと、いい匂いがどこからか漂ってくる。その出所を探ろうと、ベッドから降り、靴を履いた。
「ヴァナール、夕飯はバイキング形式だから、早く食べに行こうぜ」
ルイスがパンを威嚇する仕草をエアでした。
なるほど、いい匂いの正体は、この宿泊施設が用意した食事だったのか。
「うん。わかった」
ルイスはその言葉を聞いて満足したのか、ドアの方へと歩いて行った。
俺はもう一度、窓の方を見た。日はそれほど傾いていなかったが海の輝きは、先ほどよりも煩わしくなかった。




