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平凡な魔法使い  作者: y=why
春の海
14/16

女神像前集合

 ルイスとの待ち合わせ場所は、ここであっているかと腕時計を見る。まだ、集合時刻より、30分も前だが、いつも、3時間前以上前に来ているルイスが、来ていないのだ。ここで待って、もう5時間になる。


 まぁ、予想はしていた。ルイスはなんだか、乗り気じゃなさそうだったし。でも、約束をすっぽかすような人間ではないことは、わかっているため、来ないのかどうかという心配はしていない。ルイス以外の人にはする。友達が一人しかいない孤独な人間とは、俺のこと。とほほのほ。


 少し、ヒマなので女神像を見た。この町には、というより、この国には、女神像がいくつか置いてある。これは、その女神像の中の一つだ。いつも、この女神像を見て思っていたのだが。


「え?ヴァナール、いつからここに来てたのだ?」


 今日は、ケープではなく、ローブを着ているルイスが、声をかけてきた。少し驚いたような声を出し、駆け寄ってくる。


「ざっと、五時間前くらいからかな」


「ヴァナールまで、そんなことしなくても」


「いや、ルイスはどんな気持ちで、俺を待っていたのか知りたかったから」


「正解は、『今日ヴァナールと何話そう』とか、『今日行く場所確認しておこう』とか、そう言ったことだぜ。いたって普通のこと考えてる」


「そんな気負って旅行ってするもんじゃないと思う」


「気負ってるか?これ」


「ルイスが気負ってないのなら、気負ってないのかぁ」


 ルイスが気負ってないのなら、気負ってないのかぁ。ルイスの気持ちを理解しようとしたけど、こういう、気持ちが動く前提が違うことから、理解したり、共感することができないこともあるんだな。そういうことも視野に入れて、これからは動いていこう。


 ん?ルイスが近づいてきた。なんだろう。


「ヴァナール?大丈夫か。五時間前ってことは全然、寝てないだろ。列車に乗ったら、僕は起きておくから、お前は寝て、休養したほうがいいぞ」


 少し俺の顔を覗き込みながらルイスは言う。確かに、眠いのかもしれない。父さんと違って、俺は疲れやすい体質だから。疲れも体に出やすい体質だし、ここはお言葉に甘えて寝ておこう。


「うん。そうする」






 列車にのり、目を閉じると、睡魔が思ったより簡単に襲ってきた。知らず知らずのうちに、体は疲労をため込んでいたようだ。


「そういえば、ルイス、いつも思っていたんだけどさ」


「ん?」


「女神像の顔、少し、歪じゃないか?」

「いや、そんなことないと思うぜ」


 ルイスはにっこりと笑った。


 彼は、どうやら、表情を取り繕うことがうまくなったらしい。






 暗闇の中に、自分は居た。周囲を見渡しても、闇ばかり。いや、闇ばかりではなかった。



 瞳だ。



 瞳がそこにはあった。ガラス製の楕円形をした入れ物の中には無色透明の液体と、辰砂のようにあかい、1つの瞳が入っていた。


 もしかしたら瞳の魔女の魔導書に関連した情報があるのかもしれない。


 入れ物の蓋を開け、瞳を取り出す。


「レコード」


 背後から声が聞こえた。


 振り返っても、誰もいない。


だが、俺の手に誰か、小さな人の手が重なっているのが感触で分かった。


 その手が、俺の持っていた瞳を潰した。


 その手は、その潰した瞳の中から水晶体を取り出し、俺にぎゅっと握らせた。


「覚悟はあるか?」


 幼い少女の声が俺に覚悟を問うた。


 瞳の魔女の魔導書を手に取る権利を得ることに対する覚悟だ。


「もちろん」


 少し、彼女の手に力が籠った。


「貴方の伝説を聞いた時から」


 俺は笑った。


威嚇でも自分を奮い立たせるわけでもなく、彼女の魔導書を得られるかもしれないという可能性に対しての笑みだった。






 目が覚めた。



それよりも自分の体に、何かがかかっている感覚がある。少し目線を落として、それを見ると、ルイスが着ていたローブだった。


「ルイス、ローブありがとう」


 ルイスは、明後日の方向をみながら返事をよこした。


「アレー、ボクノ、ローブガ、ヴァナールニ、カカッテルー、コレハ、ヨウセイ、ローブカケノシワザダナー」


「そんな妖精いないでしょ」


「ばれたか」


 ルイスは、今度は窓のほうに目をやった。こちらに顔を向けていない為、どういった表情をしているのか分からなかった。


「綺麗だな。海」


 窓の外には、海が広がっていた。それは、春の陽光をうけて、きらきらと輝いていた。

「海って、夏に来るようなものだと思っていたけれど、春に来るのもいいもんだね」


「そうだな」


 どこか、心ここにあらずな状態ででルイスが相槌をうった。


「そういえば、俺が行きたいって言った町、全部隣あってて、びっくりしたよ」


「そうだな。偶然だね、全て。そう、これは全て偶然」


 ルイスがやけに明るい顔をしながら同意を求めてくる。ルイスの精神状態がかなり心配になってきた。


「あ、うん、そうだな」


 とりあえず、返事をすると、安心したかのように、ルイスはため息をついた。気休めの言葉にすがりたいほど、彼にとって精神的苦痛を感じるものが、ここにあるのだろうか。


 だが、ルイスがそれについて言及してこない限り、俺はそういったことについて、何も聞かないようにしている。不健全かもしれないが、俺たちからしたら健全だ。文句ばかり言って俺たちを助けようとしない、外野の言うことなんて知ったこっちゃない。


「ヴァナール、まだこの列車、目的の町につかないみたいだから、寝ててもいいんだぜ?」


「いや、いいよ。海を見ていたいからさ」


「ふーん、そうか」


 ルイスの瞳を見ると青い瞳に青い海が映っていた。


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