病院にて
「あれ、イムパレライ先生じゃないですか」
病院でルイスを待っていると、イムパレライ先生がうなだれて椅子に座っているのを発見した。
「ああ、きみか」
げっそりとした顔で、こちらを見てくる先生は、一日前に会った時とは比べようにもならないほどやつれていた。
「イムパレライ先生、どうしたんですか、そのやつれよう」
「いや、なんでもない。大丈夫だ」
遠い目をしているが大丈夫だろうか。おそらく大丈夫ではないな。
「そういえば、きみの友人が見あたらないな。それに、きみも怪我をしているじゃないか。もしや、薬草採取中に何かあったのか?」
今まであったことを要約して話すと、イムパレライ先生は俺に謝ってきた。
「そんなことが薬草採集中に起こったのか…すまない」
「いえ、大丈夫ですよ。ルイスも気にしてないと思います。それより、イムパレライ先生は俺たちが会ったような魔物について何か知っていますか?」
イムパレライ先生はしばらく顎に手をあてて考えていたが、顔をあげた。
「すまないが私の記憶の中には、そのような魔物はいないな。霧のような魔物なら、いくつか候補があるのだが、きみエンカウントしたものの特徴を全てとらえたものはいない。学会に報告しておく。だが、国外ならばそのような文献はあるかもしれない」
国外か。最近、国外はきな臭くなってきたようであまり出たくはないが瞳の魔女の魔導書に関する情報があるならば行ってみたいものだ。おそらくその可能性は限りなく低いが。
「では、私は学会にこのことを報告しに行く。今度の授業でまた会おう」
そう言って、イムパレライ先生は去っていった。
「ちょっと! イムパレライ先生! 何やっているんですか! あなた診察まだでしょう!」
と、思ったら、医者に連れられて、診察室に入って行った。イムパレライ先生がなんとなく、抜けている印象が俺の中でついていた。
「異常なしだって聞いたぜ、相方!」
ルイスはジャンプして、自分がいかに健康かを俺に伝えてきた。俺もいかに俺が健康かをジャンプして伝えた。
「こっちは、足ひねっただけだってさ! おたがい元気でよかった」
「それは、元気じゃないと思う、、、」
ルイスは悲壮な眉根を寄せた。う~ん、イケメン。なんでどんな表情をしてもイケメンなんだ。
そういえば、それよりも伝えるべきことがあったんだった。
「イムパレライ先生とさっきそこで会ったんだけど、自分が薬草採集頼んだせいで俺たちが怪我したから申し訳ないって言ってた」
「ふーん、そっか」
ルイスは心底興味がないような声を出した。
興味がないんだったら別のことでも話すか。
「そうだ。帰る途中に旅の計画でもたてようよ。一週間後とかどうかな? ちょうど、連休があるし」
「それいいな! 最初に行く町は、コロンナとかいいのじゃないか?あそこは、水路が有名なのだぜ!」
ルイスは嬉しそうに、楽しそうに、旅の予定について語り始めた。まるで、歌でも歌うように流暢に話すその姿を見ると、そこに一切の屈託はないように見えた。だが。
「ルイス、嫌なら、旅行に行かなくてもいいんだよ」
「なんで?」
ルイスはあくまで、きょとんした様子をしている。だが、長年の付き合いの俺ならわかる。ルイスは無理をしている。
「僕はこの旅行をとても楽しみにしてるから、行かないなんて選択肢はないぜ! ヴァナール」
本当にそうだったらいいのだが。とりあえず、この件について探りをいれるのはやめよう。こうなったルイスはいくら聞いても口を割らない。
そして、たとえ、無理をしている原因を聞いても俺は何も解決できやしないのだから。簡単なことだ。
天才に解決できないことは凡人にも解決できないことと決まっているものなのだから。と、言い訳じみた考えを巡らせる自分が厭になる。
「大丈夫か、ヴァナール、目が据わってるぞ」
ルイスが手を目の前でふりながら話しかけてくる。自分が心配されるのは嫌なくせに、人の心配はするんだな。お前は。
理不尽に沸いた怒りを飲み込み、何でもない風にふるまう。
「いや、以前、生き物にやたらと逃げられてたのを思い出していた。あれは本当に悲しかった」
「え~、僕よりも嫌われているのか?」
「うん。生きとし生けるものに嫌われていたよ。あれは何だったんだろうね。今はそんなことはないんだけど…と言っても、まだその頃、俺たちは会っていなかったからどれほど嫌われていたかはわからないだろうけどね。あれは本当に筆舌に尽くしがたいものだったよ」
ルイスが吠えられている俺を想像しているのをしりめに、その頃の記憶を掘り起こしてみた。
あれは、本当に酷いものだった。
近所で飼われていた気性のあらい犬が俺を見るなり、ロープを引きちぎって逃げ出したのだ。
あの犬は、人を見かけると、まず吠えて、それから噛みついてくると聞いていたので呆然とした。
そのあと、その犬が人を襲ったと聞いて謝罪をしにその人にお見舞いしに行ったことを覚えている。
幸い、その人の怪我は浅く、すぐに元気になった。今では手紙でたびたびやりとりをする仲だ。
そういったことがあるからか、ルイスと仲が良くなれた面はあるのかもしれない。
もしかしたら小さいころの苦い経験は新たな友人を作るきっかけになることがあるのかもしれない。
…今のところ、友人といえる人間が一人しかいない俺がいうのはアレかもしれないが。
「やっぱり、無理だったぜ」
ルイスが真剣な顔をして言う。
「なにが?」
「ヴァナールが生き物に嫌われている場面想像することだぜ」
なんじゃそりゃ。
ここまで読んで「あれ、以前と内容違ってるな?」や「あとがきの内容がコピペ文じゃないやつがあるぞ?」と気づいたそこのあなた、大正解です。修正しました。三日かけて。 11月15日




