思い出の魔法
そう思っていたがルイスはまだ起きる気配がない。
ここから考えられる可能性は2つ。1つ目は、ルイスにかけられた魔法の系統を見間違えた可能性。二つ目は、魔法をかけている範囲が大きい可能性。
どちらにせよ、最大戦力のルイスが眠っているこの状況は、とてもまずい。
どうにかこの状況を打破しなければ。崖から落ちたとき、足をひねったことで、動きづらくなってしまったし。ここで、あの霧の魔物と会ったら、ひとたまりもない。
とにかく、動かなければ。足を持っていた布をちぎって固定することで応急処置をする。
一応、動く前に、ルイスを起こしてみるか。
「ルイス! 起きろ! 朝だよ!」
全く、ルイスは起きる気配がない。予想はしていたが、やはり焦る。
腹をくくり、鈍く痛む足を使いながら、魔物がいた方とは逆方向に俺は歩き出した。
限界は、自分が思っていたよりも早く来た。負傷した足をさすりながら、ため息をついく。
足をひねり体力を消耗し魔力も先ほど使ってしまったため大技を一撃ほどしか出せない。不意打ちをされたのも痛い。ひとまず、ここで休憩して、回復したら、また、歩き出そう。そう決意を固めたその時だった。
少し先に、あの霧の魔物がいるのに気づいた。まだ、こちらに俺たちがいることに気づかれていないが、いずれ気づくだろう。
ならば、先手必勝。必要最低限の魔力で不意打ちし、やつを殺す。
なにかやつを殺せる呪文はないだろうか、と杖を上着の中から取り出しながら記憶をあさる。
暖かな、陽射しが幼い自分と、自分と手をつないでいる人間に当たっている。
「ヴァナール、母さんは、魔法が大好きなんだ」
母さんが幼い自分に話しかけている。
「けれど、ヴァナールにはそれを生業、うーん、趣味にするのもお勧めできないな」
花が風に揺れて、そのかぐわしい香りが漂ってくる。
「なんでおすすめできないの?」
「人生を生きるうえで、絶対に諦めないといけないことってあるんだよ」
こたえになっていないこたえに、幼い自分は眉をひそめた。
「でもまぁ、私と父さんの息子だから。あなたは私が止めても魔法に関係ある職につくだろうね」
少し諦念の混じった声色で母さんは言う。
「だからヴァナール。もし、あなたが本当に魔法の道、、、魔導士や、大魔法使い、宮廷魔法使い、もう、宮廷魔法使いという役職は、ないのかもしれないけれど」
母さんは、幼い自分と目をそらした。
「そんな役職についたら多分、あなたに凄く大切な仕事が回ってくると思う。そのときは、この魔法を思い出してね」
この言葉の意味は、わからない。だが、今が母さんの言う「そのとき」なのではないだろうか。
そう思って、俺は魔法の杖をそいつに向けた。
「デア・プリフィカティオニス・サルバノウ」
キィィィイインと、高い音が鳴る。そう、高い音が鳴るだけの魔法、、、だったはずだ。
霧の魔物は、苦し気に身をゆがめ、こちらににじり寄ってくる。ルイスを背負い、俺は後ずさりをした。すると、一層体を大きく歪ませ、そいつは、消えた。いや、爆ぜた、といったほうが正しいのかもしれない。その魔物の断片が、俺たちを避けて、はじけ飛んだ。それは、飛んでいく最中に、だんだんと薄くなり、そして、消滅した。過程が「爆ぜる」結果が「消える」というのが、一番しっくりくる。
一人で納得していると、ルイスが起きた。
「あれ? …え?」
ルイスは、俺を見て、目を丸くした。
「ヴァナール、足、大丈夫?」
「大丈夫、ひねっただけ」
「魔力も減ってるけれど、何かあったの?」
「そうだね、きみが寝てから色々なことがあったけど、それは家に帰ってから話そう」
「わかった」
「ルイス、体調面は大丈夫そう?」
「僕は元気いっぱいだぜ。でも一応病院行っておいた方がいいかもだな。魔法かけられたとおもうし。だが、ヴァナールのほうが重症だと思うぜ。お前も病院行った方がいいぜ」
「そうだね。わかった」
「…」
ルイスが俺の顔をまじまじと見つめている。黙ってればイケメンなんだよなぁ。黙ってなくても顔はいいし、言っていることは優しさ百パーセントだけど。あれ? これ完璧人間じゃない?
「えいっ」
突然ルイスに担がれびっくりした。
何をしようというんだね?!
「おわぁ!?」
「けが人は歩くんじゃない! おとなしく僕に担がれてろ! 先ほどのお返しだ!」
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