春眠
「と、いうことがあったんだよ」
昨日は、疲労していたルイスに話しかけられず、今日になっても、何を言っても上の空だったため、この話をするのは、今日にきて八回目だった。
「その話、僕も乗ったぁ!」
ルイスは両手で僕に指さしながら、そう言った。まあ、とくに断る理由もないからね。そういうと思ってた。何回言っても何も反応がなかったのは、嬉しかったからなんだな。以前、「嬉しすぎると、それが夢じゃないか疑ってかかれるようになれた」と言っていたからな。
「じゃ、イムパレライ先生の講義は、午後にあるから、それまで、薬草とって時間を潰そう」
「そうだな。やる気がいつもより沸いてきたぁぁぁあああ!!!」
ルイスはテンションが高めだ。金持ちでも、こういうところで喜ぶ、親しみやすいところが、彼のいいところだと思う。
「よし!今すぐ転移するぞ!準備はいいか!?」
目を開けるといつもの山があった。生態系を破壊しないように、いつも薬草を少し残し、そこを立ち去っているのだが、大体、同じ山で薬草を俺たちはとっている。
同じ山でも、この山はかなり大きいので、薬草の群生する箇所は探せば出てくるのだ。(ダンジョンなども出てこないかなと思っている。なぜなら、瞳の魔女の魔導書に関する何かが出てくるかもしれないからだ)
時間と体力は要するが、それに関しては問題ない。なぜなら、俺たちはかなり時間があるからだ。これぞ、大学生の強み!
「今日は、あっちに行ってみようぜ。この山、大きいから探索に時間がかかって楽しいな!」
「そうだね。いいヒマつぶしだよ」
「薬草採取が始まるまでの間だけだけどな」
ルイスはしなびてしまった。やはり、報酬が増えても、辛いものは辛いようだ。こんなときは、そういったことから話題を逸らすに限る。
「そういえば、俺たちが初めて会ったのも、こんな感じのところだったよね」
「いや、初めて会ったときは、森の中だったぞ」
ほら、気がそれた。まぁ、心の中にまだ憂鬱が残っているかもしれないが、少しでも元気になればいい。
「ああ、そういえば、そうだっけ」
「そうだぜ。それにしても、この名コンビが誕生した日を覚えていないなんて!名コンビ検定に落ちるぞ!家に帰ったら復習だ!」
「そうだね。覚悟はできているよ」
もちろん、そんな検定は存在しない。よって、その参考書も存在しない。ここから導き出される結論は、家に帰って、復習することはないということだ。
ひたすらに、道なき道を歩む。今日の薬草群生場所は、中々見つからない。かれこれ2時間近く、探している。いつもならば、一時間程度で見つかるのだが、道が悪かったのだろうか。
「ごめん、俺、今日、道の選択間違えたかもしれない」
「いや、大丈夫だぜ。見つけた時の喜びがいつもより、多くなるからな」
しなびた顔で言われても、説得力がわかない。空元気が見ていて痛々しい。
「とりあえず、あそこに開けた場所があるから、そこで休もうぜ」
そう言うルイスの視線の先には、金属製のベンチが置かれた、さんさんと春の日差しが差し込む、居心地の良さそうなところがあった。
「そうだね。いい冒険には、休息が必要だから」
俺は金属製のベンチに身を預けた。
本当に疲れた。このまま、寝てしまいたいが、また、眠れなくなってしまうのは困る。ここは、理性を総動員して、眠らないことが最善策だ。だが、眠い。とても眠い。眠ってしまいそうだ。
「このベンチ、座っていると眠くなってくる。やばい、起き上がらないと」
ルイスに声をかけたが、もう彼はそれはもう穏やかに眠っていた。珍しい。
ルイスと知り合ってしばらくは、ずっと彼は寝つきが悪かった。入眠じたいは早いのだが、そこからずっとうなされているのだ。だがそれは彼が16歳を過ぎたころに無くなった。その代わり、目の下のクマが増え、寝ている時の表情が悩まし気な表情になったような気がする。
うーん。悪化しているような気がする。
それにしても本当に珍しい。魔法でもかけられているのではないだろうか?待てよ、魔法?
頬を何かがかすめた。たらりとそこから血が流れる。後ろを振り返る。霧のような不定形のものが、そこにいた。まずい。
幸い、先ほどの攻撃は頬をかすめるだけで済んだが今度はそうはいかないかもしれない。とりあえず、そこで寝ているルイスを小脇にかかえ走り出した。
こんなとき、魔物に詳しいルイスが起きていれば…と思い、睡眠環境最悪な状態の彼を見るも、気持ちよさそうに寝ているだけだった。
こうなったら、自分ひとりで対処するしかない。おそらく、ルイスは魔法で眠らされている。よって、助けは求められない。一応、確認しておくか。
「ルイス!起きろ!そこにきみが、ぜったいにうなされずに眠れるベッドが置いてあるぞ!起きろ!」
大音量でそう叫ぶが、起きない。頬をつねってみる。起きない。ビンタをしてみた。起きない。かわいそうだが、思いっきりビンタをしてみた。起きない。なるほど、これは魔法ですな。
それにしても、重い。当たり前だ。俺より身長が高いんだから。これで軽かったら健康面の心配をする。
突然、浮遊感が体を襲った。下を見てみると、先ほどまでそこにあった地面がない。走っているうちに、崖から落ちてしまったようだ。まずいな。何か対処をしなければ。
足を崖になんとかつけられたため、それで減速をはかる。靴底がすごい勢いですり減っているが、命には代えられない。だが、思ったより効果は得られなかったため、魔法を使うことにした。
あいつと戦闘になったことを考慮して、魔力は温存させておきたかったのだが、今、魔力を使わなければ死ぬ。
「クラヴァス・フィクチリス!」
土の釘を召喚し、それで崖を突き刺す。なんとか、落下死することは避けられたが、魔物に追いつかれでもしたら、死ぬかもしれない。そもそも、あんな魔物、どうやって倒せというのだ。こちちらは、黒魔法、白魔法ともに専門外なんだぞ。
とりあえず、いつまでもここに居ると、俺の腕にも限界が来るのはわかっているので風魔法を発動させ、ふわっと地面に着地するか。
まず、土の釘を引っこ抜く。すごいスピードで崖から落ちていくが、ここで、慌てないことが重要だ。
魔法の成功率は、精神状態と密接に関係している。ちなみに魔法を使う際に呪文を詠唱する理由もそこからきており、そうすることによってより鮮明に魔法を使うイメージを抱け、うまく魔法を使える人が大多数だからだ。
閑話休題、地面へと激突する寸前にうまく風魔法を使って着地することにした。このままでは俺の腕が限界を迎える。成人男性二人の体重は結構重いのだ。
「アウラ・ヴェンツ」
ふわりと体が浮く。ルイスを落としそうになったため、重心を傾けた結果、少し、足をひねったが、成功した。見た感じ、時間で解ける系の魔法ではなかったので、ここまで離れたらルイスも目が覚めるんじゃないだろうか。
ブックマーク、いいねや感想などをつけてくださると嬉しいです。執筆活動のさらなる励みになります。誤字脱字報告などもお待ちしております。




