俺はヴァナール、平凡な魔法大学生だ
今日から俺は、魔法大学生となる。(魔法大学とはカリキュラムに魔法が入っている学校の総称である)一人で生計をたてながら、学生生活をするのは大変だと思うが、新しい生活にウキウキとする心が大きい。3歳から全寮制の学校に通っていた俺からすれば、この自由は欲してやまないものだったのだ。そんな心理を顔に出しても何も言われない、この素晴らしい入学式に涙を流しそうになるが、それは我慢する。だが、隣にいる人間はそうでもないようだ。
栗色の髪と緑の目のこの地域では珍しくもない色、そして平凡な顔立ちの俺とは異なり、この土地ではあまり見ない、金髪碧眼、しかも眉目秀麗、成績優秀、億万長者、多くの役立つゴンブトコネ、すべてに恵まれている隣の男。だが、コイツは天才なのだ、天才なのには違いないのだが、、、
「よっし、入学式終わったな!さっさと単位決めようぜ、それから校舎も見よう、もちろん、学食があるところから回るぞ!」
そして、俺の手をとって嬉し泣きをしながらぐるぐると回した。そう、コイツ、「ルイス・イ・ウニヴェルサーレ・ヴィンチ」通称「ルイス」は、天才なのだが、周りが見えないのだ。
「ここの学食のごはんうまいな」
パスタを食べ終わったルイスはそう言った。言葉遣いはちょっとアレだが、テーブルマナーは一級品だ。さすが、上流階級の人間。
「そうだね、ところでこれ食べ終わった後、どこ行く?俺は魔法関連の部屋、全部回って場所を体に覚えさせようと思うけど」
ルイスはうなっている。
「いや、ここはなにか、いきたいところをチョイスするべきなのだろうが、僕的にはないのだよな、地図みたらどこに何があるかわかるし」
地図を取り出し、困ったように彼は呟いた。そういえば、寮生時代もこんなかんじだったな。そんな彼には図書館がおすすめだ。いくら天才でも読んだことのない本くらいはあるだろう。
「じゃ、図書館でもいかない?いくら天才でも読んだことのない本くらいはあるんじゃない?」
「あー、うん、たしかにな」
もしかして、この天才、この世のすべての本を読み終わったのか???さすがにそれはないと思いたい。
「ま、行ってみるか。この学校の図書館に」
「いや、その前に魔法関連の部屋全部回ろうよ。図書館に比べたらそっちのほうが近いんだからさ」
学食を食べ終わった俺たちは歩きながら行き先について話していた。
「さすが、僕の相方。ツッコミが完璧だ。大学を卒業したら一緒に『マンザイ』で生きていこうぜ」
「『マンザイ』がなんなのか知らないけど、なんかヤダ」
ルイスはわざとらしく悲しそうな顔をした。いつからこんなのになってしまったのだか。
そんなことをやっている間に、学食がある校舎を出た。天気は機嫌がいいようで、日光がとてもやさしく降り注いでいた。
「これ、雨の日だったら最悪だと思わないか?びしょぬれになりながら僕たちここを通るのだぜ?」
「ああ、たしかに」
すると、ルイスはにんまりと笑いながらこう言った。
「だから、この大学に将来、僕たちがマンザイで稼いだ金を寄付して、それで」
こうなったらもうだめだ。屈託のない顔でずっと「自分が考えた最強に楽しい未来像」を語り続ける。正直言って、こういうことを話しているときの彼が、何をしている時よりも、一番輝いている。
そういえば、もう魔法関連の部屋の1つ、「魔法製作室」に着きつつある。
「そのあと、僕たちはマンザイ発祥の国がある次元に異世界転移して、そこで日本一のマンザイをするバディとして有名になった後に、アリーティに帰ってくるんだ。その世界では僕たちがいなくなった喪失感で」
ルイスが途中で黙った。何かあったのだろうか。いや、ルイスの体には傷一つついていない。あれ?
「ヴァナール、こんなところに女の子が」
いつの間にか背後にいたルイスがそういう。さっきまで目を合わせてしゃべっていたのにだ。そんなルイスの腕には女の子が抱えられている。
「本当だ。どこから来たんだろうね」
この学校は一般の人も入れるが、校舎内には入れなかったはずだ。となると
「迷子かな?お父さんとお母さんがどこにいるか言える?」
ルイスがそういった。
「お父さんとお母さんは遠くに行っちゃったんだって」
ルイスと俺は目くばせをした。
「そっか、じゃあ、ここに来る前に一緒にいた人って誰かな?」
少女は少し考えているようだ。その視線は宙を漂っている。
「えっとねぇ、うーんと、しらないっ!」
嘘だ。これ絶対嘘だ。何かやましいことでもあるのだろうか。
「ウソをつくと、おばけに食べられちゃうよ」
*ルイスの言葉は効果抜群だ!
*少女は何か秘密を暴露しそうだ、、、
「えっと、ね、さっきまで、ちいさい?のにおっきい?お兄ちゃんと追いかけっこしてたの。けどね、ええと、楽しい鬼ごっこじゃなくてね、出ちゃいけない部屋から出ちゃったから追いかけっこしてたの」
*You win! 少女の秘密をルイスは手にいれた!
ルイスはこちらに顔を向けた。前半の内容わからない、という顔だった。大丈夫、こっちもわからない。普通の人はそうだ。平均点ドンピシャ以外とったことがない男が言うんだから、間違いない。あ、言ってなかった。
「そっか、とりあえず、そのお部屋に戻ろうか」
ルイスは優しく微笑みながらそう言うも、少女は少しいやな顔をしていた。
「いやだぁ!」
涙を目に浮かべながら少女は言う。俺はルイスの耳元でささやいた。
「このまま部屋に返すのはかわいそうだよ。事情を聞いてからにしよう」
ルイスもまた、小声で返す。
「そうだね。事情を聞くことにしよう。だけど、その前に」
ルイスは立ち上がり、魔法の杖をだした。そして、少女を俺に渡した。
「「「「「「「そうだよ、かわいそうだよ」」」」」」」
「僕たちは囲まれているようだから、その人たちをやっつけてからにしようか」
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