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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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八十二

 しばらく互いのことしか見えていなかったヴィルヘルミネとレオーネだが、ぱんぱんと手を叩く音で我に返った。

「はいはい、感動の再会は結構ですけど、周りを見ましょうね!」

「ら、ラルク⋯⋯」

 レオーネはかあ、と頬を染め、慌ててヴィルヘルミネを下ろした。ヴィルヘルミネは不満そうにしつつも、渋々腕を離す。

「おまえも来ていたのか」

「来ていたのか、じゃないですよ! 心配したのが皇女殿下だけだと思わないでくださいね」

「うっ⋯⋯悪い」

 詰められると弱いレオーネだった。

「そろそろ休憩を取ろうとしていたところですし、一度ここで腰を下ろして、お話しましょうか」

 ヴィルヘルミネはレオーネの手を取り、にっこりと微笑む。目を泳がせたレオーネは、頷くことしかできなかった。


    ───


 騎士達と戦士達が入り混じって休憩を取るのを横目に、ヴィルヘルミネとレオーネは馬車でふたりきりになった。

 ふたりきりと言っても扉は開いている状態で、扉の傍にはシュネーとラルクが待機している。婚約者とはいえまだ正式なものではないし、例え馬車でも結婚前に完全なふたりきりになることはない。

 それでもふたりの侍従以外には聞こえない状態で、レオーネはヴィルヘルミネに自身に起きた出来事を語った。

 結果。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯そう」

 ヴィルヘルミネは激怒した。ぶわ、とあふれ出した魔力圧が黄金の髪を持ち上げ、蛇のように揺らめく。それを見て、レオーネは慌てた。

「ヴィルヘルミネのおかげで生きていますし、兄上は充分報いを受けたので! そもそも兄上が犯人だという保証もありませんしっ」

「いえ、状況的に、確実に第一王子の手の者でしょう。実行犯も死んでしまった可能性が高いのが、痛いところですが⋯⋯」

「そ、それでも、兄上は片腕を失った上に、背骨を折ったんです。この上何かしてはやり過ぎになります」

「⋯⋯レオーネがそう言うのなら」

 ふっ、と魔力圧が消えた。レオーネは冷や汗をぬぐい、苦笑する。

「本当に心配してくださったんですね」

「⋯⋯当然でしょう」

 ヴィルヘルミネは恨みがましい眼差しで見上げた。

「わたくし、貴方のことを本当に大切だと思っておりますのよ」

「心配かけてすみません」

「もういいですわ。⋯⋯それにしても、そんな即効性のある毒、第一王子はどこで手に入れたのでしょう」

 ヴィルヘルミネの疑問に、レオーネは少し迷った後、心当たりがあります、と言った。

「討伐に出る前、兄上の御用聞き商人が訪ねてきたんです」

「⋯⋯その商人が毒を仕入れたと?」

「あくまで可能性ですが、どうにも疑わしい部分が多くて」

 レオーネはひとつずつ思い出すように挙げていく。

「まず、顔立ちからしてマルダス人でないのは確実です」

「外国の血が流れているというわけではなく?」

「マルダス人の特徴が全く無かったので、それはないかと。あと、これは俺の治療をしてくれた薬師の言なのですが、その商人は竜人なのではないかと」

「? その薬師はなぜ、商人と面識があるのですか?」

 ヴィルヘルミネの疑問に、一瞬口をつぐんだ後、レオーネは言った。

「スルージュ卿の屋敷に着いたら解ることなので今言いますが──その薬師は、アミラ妃の双子の姉なのです」

「え⁉」

 ヴィルヘルミネは目を丸くした。

「姉がいらっしゃったんですか、あの方」

「のようです。ただ、どうもその商人に付いていって、それからずっと会ってないそうですが」

「そこで商人に繋がるんですのね」

 ヴィルヘルミネは眉をひそめた。

 リエーフの運命の番であるアミラを連れ出したのが、リエーフの御用聞き商人だった。これははたして偶然だろうか。

「それで、その商人が竜人とのことですが──角や翼は確認しましたか?」

「いえ。薬師の推測ではどちらも折れているのではとのことで、実際ターバンやローブのせいで解らないんです」

「なるほど⋯⋯でも、可能性はありますわね」

 ヴィルヘルミネはふむ、と頷いた。

「竜人にとって角や翼は誇りの象徴であると同時に、魔力の源でもあります。それを失うと魔力の大半を失いますし、そうでなくとも竜人の間では落伍者として扱われるそうです。なら隠しているのも納得ですわ」

「そうなんですか」

「ええ。と言っても、魔法が全く使えなくなるわけではないそうです。錬金術や身体強化、生活魔法、使えるなら占星術のように、消費魔力が済む魔法なら、問題無く使えるかと」

「占星術も消費魔力が少ないんですか?」

「ええ。あれは儀式魔法ですから」

 儀式魔法とは、特定の手順を取れば発動する魔法のことである。系統丸々儀式魔法のみのものもあれば、一部だけ儀式魔法である系統もある。大抵の儀式魔法は手順に則れば使えるが、占星術や神聖魔法は才能が無ければ行使することができない。

 手間はかかるが、発動さえできれば強力な効果を発揮するのがほとんどだった。

「占星術使いが未来を垣間見るのは、長年儀式を繰り返すことで肉体にその経験が蓄積され、無意識のうちにその経験を消費しているのだとされております。この場合でも、消費するのはあくまで経験ですから、魔力消費は少なく済むのです」

「なるほど⋯⋯」

 レオーネは感心しつつも、脱線した話を戻した。

「もし商人が竜人で、なおかつ毒を用意したのなら、色々納得できるところがあります。奴は魔道具や魔法薬を扱うと言っていました。もし錬金術が使えるなら、自分で作ることができるでしょう」

「魔術師は自身に巡る魔力の影響で毒が回りにくいです。それなのに即効性があったとなれば、魔法毒の可能性が高いですわね」

「錬金術による毒の生成は、この国では禁止されています。兄上と話すことができれば、それを理由に奴を捕まえることができるのですが⋯⋯」

「話せないのですか?」

「意識はあるそうですが、ずっと謝罪と後悔を口にしてばかりで、まともな会話が成り立たないそうです。暗殺の件もあって、俺の生存は伏せられていますし」

「どうにかして正気を取り戻していただきたいですわね⋯⋯殴ったら治るかしら」

「絶対にやめてください」

 鉄扇を構えるヴィルヘルミネに、レオーネは待ったをかけた。それで殴られたら、一瞬であの世逝きである。

「ほかの怪我人もいます。できれば、ヴィルヘルミネの魔法で兄上達の怪我を治してもらえませんか?」

「⋯⋯しかたがありませんわね。領館に着いたら、まずは見舞いに行きましょう」

 方針が固まったところで、休憩終了の声が聞こえてきた。その声を聞いたレオーネは、馬車を降りようとする。

「このまま乗っていらしたら?」

「いえ、自分の馬がありますから、そちらで。ではのちほど」

 レオーネは笑って断りを入れた後、自身の馬の元に向かった。

 それを残念に思いながらも、、ああ乗馬するレオーネが見れるからいいか、と自分を納得させるヴィルヘルミネだった。

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