表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命だと言うけれど  作者: 沙伊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/116

八十一

 マルダス側から用意された客室に移動し、荷解きをしてようやく落ち着いた頃、シュネーが口を開いた。

「レオーネ殿下の母君が見付かっていたなんて、知りませんでした」

 シュネーとヴォルフには、レオーネの母の置かれた状況を話している。だからこそ、ヴィルへルミネが口にした情報が意外だった。

「わたくしも、お姉様に教えられて驚いたわ」

「皇太子殿下情報でしたか。ローディウム国内にいらっしゃるんですか?」

「それは言えないわ。どこで誰が聞いているか、解らないもの」

 皇宮ならともかく、ここはマルダス──それも王宮の中である。プライベートが守られている客室といっても、それがどこまで通用するのか解らない。

 ルゥリが行方をくらませた経緯を考えても、ここで軽々しく言うべきではないだろう。先ほどのだって、揺さぶりのために言っただけで、それ以上の情報を口にする気はさらさら無いのである。

「それより、明日からまた一週間馬車に揺られるのだし、しっかり休んでおかないと」

「そうですね! 道中魔物に襲われることもありましたし、また同じことがあると考えると、英気を養っておかないと」

「レオーネ殿下の元に行けば、走竜と対峙することになります。部下達には、気を引き締めるよう伝えましょう」

 頷くシュネーの隣で、ヴォルフもしかつめらしく言った。そんなふたりに、ヴィルへルミネは微笑む。

「頼りにしているわ、ふたり共。勿論、ここにいない護衛の騎士達のこともね」

「それを聞けば、皆喜びますよ」

 ヴォルフは嬉しそうに笑う。

 その時、客室の扉がノックされた。

「殿下、お客様がお見えになってます」

「お客様?」

「レオーネ殿下の従者であるラルクです」

 はっと顔を見合わせた三人は、すぐに入室を許可した。

 ややあって、見覚えのある人間の男性が入ってくる。彼は恭しく頭を下げた。

「皇女殿下にご挨拶申し上げます」

「ええ。ラルク、久しぶりね。貴方は、討伐隊に加わらなかったのね」

「俺は戦闘面はあんまりなもんで」

 男性──ラルクは苦笑して頭をかいた。

「でも、わたくしを訪ねたということは、一緒に行きたいのでしょう?」

「はい。正直、行方不明と聞かされた時は生きた心地がしませんでしたよ。なので、今度は張り付いてでも付いていくつもりです」

「ふふ、わたくしが貴方を拒否するはずがないでしょう? いいわ、一緒に行きましょう」

 ヴィルへルミネがそう言うと、ラルクは深々と頭を下げた。


    ───


 翌日、挨拶もそこそこに、戦装束をまとってヴィルへルミネは出発した。

 向かう先は、レオーネのいるスルージュ領である。



「”鉄槌を”!」

 ヴィルへルミネが放った光弾が、走竜の身体に直撃した。絶叫して倒れ込む走竜に騎士がとどめを刺し、戦闘は終了する。

「これで四回目ね」

 鉄扇を下ろしたヴィルへルミネはため息をついた。

 スルージュ領に入ってしばらくすると、数体で群れた走竜に襲われるようになった。おそらく、大群だった群れから離れた個体なのだろう。

 魔物討伐に慣れたローディウムの騎士達は、ヴィルへルミネの支援もあって走竜を難なく倒していく。だが何度も同じことがくり返されれば、疲れも出てくるというものだ。

「討伐隊は再編されたと言っても、数は当初より少なくなっているでしょう。加えて散り散りになっていては、走竜の殲滅も難しい──レオーネも戦士達も、大変でしょうね」

「マルダスの戦士達は、ローディウムの騎士ほど魔物の知識がないと聞いています。魔法の支援もほとんどありませんし、魔法銀の武器も無いとなれば、苦戦は免れないでしょう」

 ヴォルフが苦々しく言った。

 レオーネの魔法があればまだ戦うことができるだろうが、彼の身体はひとつである以上、どうしても限界がある。

「走竜掃討に参加することも視野に入れた準備をしてよかったです」

「備えあれば憂いなしという言葉が東方にあると聞くけど、こういう時に実感するわね」

 ヴィルへルミネは苦笑し、馬車に戻った。

「殿下、お怪我はありませんか?」

「無いわ。シュネーとラルクは平気?」

「はい。殿下はお気になさらず。身を守る程度の心得はありますので!」

「俺も、さすがに自分の身ぐらいは守れますよ」

 ふんす、と気合を入れるシュネーとラルクに癒されながら、ヴィルへルミネは馬車の外を見遣った。

 外では、騎士達が走竜の解体作業を行っている。

 走竜の肉は食用に適さないものの、鱗や皮、牙や角は武具に加工できる。そうでなくとも、魔物を街道に放置するのは害しかないため、手間だとしてもこうして毎回解体を行っている。

「それにしても、これだけ斃しても魔晶石は一回も出てこないんですね」

「走竜から魔晶石が出る可能性は、結構低いのよ」

 ラルクの疑問に、ヴィルへルミネが答えた。

「魔狼の方が出るぐらいだわ。竜種は確かに強いけど、走竜とワイバーンは変異種でもない限り大きいものも出ないわね」

「そういえば、魔狼討伐の際は結構魔晶石出てましたもんね」

「ええ。今回持ってきたのも、幾つかはそれだしね」

 シュネーとヴィルへルミネの会話を聞いたラルクが、恐る恐る声をかけた。

「それ、レオーネ殿下に贈られたり⋯⋯?」

「全てではないけど、幾つかはそうね」

「⋯⋯レオーネ殿下が遠慮する未来が見えます」

「渡してしまえばこっちのものだわ。レオーネはちょっと、欲が無さ過ぎるもの。こっちから積極的に渡していかなきゃ」

「それには同意しますが⋯⋯って、ん?」

 ラルクがふと視線を動かした。それを追いかけたヴィルへルミネは、ヴォルフが馬車に駆け寄ってくるのを見る。

「殿下、失礼いたします」

「どうかして?」

「馬が複数近付いてくる音を確認しました」

「馬? 走竜ではなく?」

「はい。いかがされますか?」

「⋯⋯様子を見ましょう。もしかしたら、討伐隊かもしれないわ。ただ、警戒は怠らないで」

「解りました」

 頷いたヴォルフは騎士達に指示を飛ばし、自身は馬車の傍で待機した。向かいに座っていたシュネーとラルクは、素早くヴィルへルミネの隣に移動し、かばうような姿勢になる。

 しばらくして、獣人以外の耳にも蹄の音が聞こえてきた。ヴォルフの言う通り、複数だ。

 それから間もなく、馬を走らせる人影の姿が見えてきた。彼らは誰もが武装しており、物々しい雰囲気である。

 その先頭に、ヴィルへルミネは見覚えのある姿を認めた。

 無造作に伸びた焦げ茶色の髪をまとめ、白銀の斧槍を背負い、軽鎧を身にまとったその青年は、ある程度近付くと馬を止め、地面に降りる。

 その青年に向けて、ヴィルへルミネは明るい笑顔を向けた。

「レオーネ!」

「ヴィルへルミネ⁉ なぜここにいるんですか?」

 青年──レオーネは、馬車に走り寄った。ヴォルフの手を借りて馬車を降りたヴィルへルミネは、レオーネの胸に飛び込む。

「心配しましたわ!」

「え?」

「加護が発動したのを感じて⋯⋯いてもたってもいられなくて」

「あ⋯⋯」

 レオーネははっとした後、ばつの悪い顔をした。

「あれ、ヴィルへルミネにも伝わるんですか」

「ええ。無事でよかった⋯⋯」

「ヴィルへルミネ⋯⋯」

 ほっと肩の力を抜くヴィルへルミネを、レオーネは抱き上げた。そうされるのも久しぶりで、ヴィルへルミネは泣きそうになる。

「すみません、心配をかけましたね」

「ええ。でも、こうして会えてよかった」

 ヴィルへルミネはレオーネの首元に抱き着いた。

 レオーネの体温と、かすかに感じる鼓動が安心する。


 ──ああ、レオーネは生きている。


 それを実感できただけでも、マルダスに来てよかったと、そう思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ