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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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七十一

 レオーネは討伐出発までの一週間、忙しく動き回った。

 内定していた王宮研究室には討伐に参加する旨と事前に話していた錬金術の基礎を教え、更にローディウムから持ち込んだ錬金術の教本を寄付した。

 抵抗感があるかと思えた彼らだが、学者らしい好奇心と強化以外の魔法が使えるという喜びですんなりと受け入れたのである。

 それに加え、彼らもマルダスの魔法研究の遅れを感じ取っており、他国との国力の差に繋がるのではと危惧していた。今回の件でその差を何とかできるという期待の高まりもあって、錬金術を積極的に学んでくれたのである。

 次に、走竜の群れの討伐に向けての準備。

 魔物との戦いは準備から始まっていると、ローディウムでは学んだ。武具は勿論のこと、食料、薬、その他もろもろ──いわゆる兵站(へいたん)と呼ばれるものをどれだけ完璧にできるかが、勝敗を分けてくる。

 とはいえ、ローディウムとは勝手が違うため──何しろ魔法の支援が無いに等しいのだ──その辺りは苦労した。

 なんせマルダスの戦士達は、魔物に有効な武器である魔法銀の武具もほとんど持っていないのだ。持っているのは指揮官クラスなどの一部だけで、その大半も儀礼用である。実戦に耐えうるものは、レオーネの斧槍を含めて片手で数えるほどしかない。

 とはいえ、それもしかたがないだろう。魔法銀の生成、加工には魔法技術が必要で、マルダスの王宮鍛冶師に、その技術を持つ者がいないのだ。

 マルダス国内で探そうとすると、市井の鍛冶師──それも、ドワーフの鍛冶師を探さなければならない。

 獣人の国であるマルダスだが、他種族がいないというわけではない。獣人より地位は低いものの、ドワーフや人間もそれなりにいる。アミラがいい例だろう。

 だが、それでも獣人に比べれば圧倒的に少なく、その中でも鍛冶師に限定してしまうとごく僅かになる。

 こればかりはすぐどうこうできるものではないので、武具に関しては諦めるしかない。それに普通の武具としては、最高品質であることは事実なのである。

 だからレオーネが注力すべきは、それ以外のことだ。

 食料に関しては問題無かった。これは軍部でしっかりした販路があったので、レオーネが口出しする必要は無い。

 問題は、薬などの医薬品だった。

 ここでもマルダス王の魔法嫌いが出てしまっており、マルダスの軍部が使う薬は、素材の薬効頼りのひと昔前のものだったのである。

 現在マルダス以外での主流の薬は、錬金術を用いてより薬効を高めた魔法薬である。錬金術自体が知識さえあれば誰でも習得できる魔法系統なので、外国の薬師は錬金術も一定以上修めているのがほとんどだった。

 思ったより重要なところに国力低下の芽があったことに、レオーネは頭を抱える羽目になった。

 ともあれ、気付いた以上は対応しないわけにはいかない。レオーネは王宮の薬師にも錬金術を教え、可能な限り魔法薬を作り出すことにした。

 こちらは最初、強い抵抗を受けたものの、レオーネが実際に魔法薬を作ってみせたこと、ローディウムの薬草や香草を持ち帰ったことに対する恩もあり、間を置かず受け入れられた。

 軍部から否定的な意見が出るかと思いきや、実際はそんなことは無かった。

 今回以前から何度か討伐に参加していたこと、その際に魔法の威力を間近で見たことで、自分達にとって有用であると認識できたのが大きい。彼らにとって魔法は、わけの解らないものから、自分達の益になるものに変わっていったのである。

 戦士達に強化以外の魔法を教えられる時間は無かったが、どのみち付け焼刃の戦術は混乱を招くだけである。かえってよかったのかもしれない。

 だが、全く戦士達にてこ入れしなかったわけではない。

 ローディウムでひたすら叩き込まれた技術を戦士達にも伝えたのである。

 ローディウムの騎士達にとって、身体強化は当然の技術だ。そこからもう一歩踏み込んで、いかに効率よく身体強化魔法を扱うかを徹底して訓練していた。

 すぐに習得できるものではないのだが、やり方さえ覚えれば日常の中でも訓練ができる。なぜなら、訓練の方法とは、身体強化魔法を絶え間なくかけ続ける、ただそれだけなのだ。

 口で言うのは簡単だが、常時魔法を発動しっぱなしというのは案外しんどい。だがそのしんどさをどう軽減するか、どこにどう魔法を流せばより効果があるのか、そういうことを身体に覚えさせるのはこれが一番効果的なのである。

 これが戦士達に好評で、こちらから声をかけるまでもなく、次々と自ら試すものが続出した。

 距離を置く者もいなくはなかったが、その数は少ない。職業意識の高い彼らは、プライドよりも強くなる機会を取ったのである。

 討伐遠征まで時間は限られている。そんな少ない時間を、レオーネは全力で準備に使った。


    ───


「どういうことだ⁉」

 執務室で、マルダス王は咆哮を上げた。

 レオーネによって魔力詰まりを解消されて以来、もとの精悍さを取り戻しつつあったマルダス王は、執務ができるぐらいには回復していた。その元気を、今は侍従にぶつけることに利用している。

「討伐遠征に参加させて、鼻っ柱を折ってやるつもりが⋯⋯なぜ魔法を広めることになっておるのだ⁉」

「お、おそれながら、陛下⋯⋯」

 侍従は恐る恐る声を上げた。

「ローディウムでの経験から、我が国の魔法研究が大いに遅れていることに気付かれたのでしょう。この大陸で、フィン王国に次いで研究が進んでいる国ですから⋯⋯」

「我が国に魔法など必要無い‼」

 マルダス王はそう怒鳴るものの、それが虚勢であることも内心理解していた。

 マルダスは周辺国との貿易の中心となっている。その中には当然、魔道具や魔法薬もやり取りされていた。

 だが現在、それらの物品は高い関税がかかっている。

 これを定めたのは先代国王だが、王太子時代のマルダス王も深く関わっていた。

 王太子だった当時、マルダス王はとある魔術師に屈辱的な思いをさせられたことがある。その結果得られたのがレオーネの母であるルゥリなのだが、その息子が獣人にあるまじき高い魔力を持った男児だったのは、一体何の皮肉なのだろうか。

 ともあれ、もともと魔法という存在を不気味に思っていたマルダス王は、それがきっかけですっかり魔法嫌いになっていた。

 そんな彼の治世は、もともと敬遠されていた魔法を緩やかに締め出すものとなった。

 それが他国との国力の差の元になるとは思いもせずに、彼は魔法を遠ざけ、代わりに薬草の研究に注力するように指示を出した。

 だが、ただ薬草を煎じただけの薬と、薬効を最大限に高めた魔法薬では、当然効果の差は歴然だ。そんな高効能の薬や、生活を補助する魔道具などが高くなれば、貧民と富裕層の生活の質の差も大きくなっていく。

 それが解ってからも、どうしても染み付いた嫌悪感が先立って止めようがない。

 レオーネの魔法で回復に至った今でも、それまでの自分の政策が間違っていると言われているようで、どうしても認めがたかった。

「陛下──第二王子殿下は、今回の遠征で有用な力を見せたのです。それは、認めねばなりません」

 そう言ったのは、マルダスの戦士団団長だった。

 近衛戦士団も含めた戦士達の長は、レオーネが魔法を広め始める前から彼をかばっていた。

 戦士団長は帰国してから訓練や討伐にたびたび参加するレオーネのことを肯定的に見ている。そのためか彼を持ち上げるような言動をしており、そのうちレオーネを王太子に、と言い出しかねない雰囲気だった。


 ──第二王子は王位に興味が無い。だが、周囲はそうはいかない。


 マルダス王は漏れそうになったため息をこらえた。

 リエーフへの遠慮を捨てたレオーネは、その優秀さと獣人には無い魔力という強みにより、たちまち支持者を増やしていった。

 そのほとんどが研究畑や戦士団の人間のため、政治的な力は無いが、それでも無視でいない勢力になりつつある。

 レオーネも何か目的があって、あえて勢力を作っているふしがあるが、それが権力以外の何なのか解らないのだ。


 ──研究費の確保か? それとも魔術師の市民権でも得るつもりなのか⋯⋯全く読めん。


 だからこそレオーネを中央から遠ざけ、その頭を抑えようと遠征討伐に参加するよう命令したのに、更に影響力を増す結果になるとは思わなかった。

 マルダス王がぎりぎりしていると、侍従長がリエーフの来訪を伝えてきた。

 今更何の用なのか、と思ったマルダス王は、現れたリエーフの姿を見て絶句する。

 精悍な顔はすっかりやつれ、目の下にはくっきりと隈ができていた。それでいてペリドットの瞳はぎらぎらと光っていて、立ち姿には油断ならない気配がたちのぼっている。

 すっかり変わってしまった息子は、言葉も無いマルダス王達に向かって口を開いた。

「父上、俺も遠征に参加させてください」

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